「ごめんとはどういうことだよ!」
チャンミンには、シヅクの言葉の意味が分からなかった。
「それは...シヅクに、悪いことしたなって」
「ほほぅ」
「だから、ごめん」
「悪いことしたって、チャンミン君、何しちゃったの?」
「ぐっ」
(口に出して言えないよ、そんな恥ずかしいこと)
「悪いことって、な~に?」
シヅクは小首を傾けて、にっこり笑った。
「教えて、チャンミン?」
(からかうと、面白いな)
「シヅクに...その...キ、キスしちゃって...悪かったなって」
シヅクはニヤニヤ笑っている。
(シヅクはまた、僕をからかっている!)
「ねぇ、チャンミン」
仁王立ちしていたシヅクは、再びチャンミンの隣に座った。
「後で謝るくらいなら、キスなんてするな!」
「え?どういう意味?」
「あのな、私らはいい年した大人なわけ。
キスしたくらいで、いちいち謝るな!
謝るくらいなら、キスするな!
謝るのなら...
うーん、そうだな...」
シヅクはしばし考えた後、
「酔った勢いでヤッちゃった後にしろ!」
一気に話すシヅクを見るチャンミンは、ぽかんとしている。
「...自分でも分からないんだ...つい、したくなって...」
「あー!やめやめ!」
「うぐっ」
シヅクの片手が伸びて、チャンミンの口を塞いだ。
「いちいち説明せんでもいい!
余計照れるだろうが!」
(シヅクは、どうってことないのか?
僕の胸はまだ、ドキドキしているのに)
「私に謝らなくてもよろし」
シヅクはチャンミンの口を塞いでいた手を、外した。
「シヅクにとって...大したことないんだ?」
「そういう意味じゃないって!」
シヅクは頭を抱えている。
(だから、やりとりが男女逆なんだってば!)
「あーもー!めんどくさい奴やなぁ!」
(!)
シヅクの両手で、チャンミンの頬は挟まれた。
(近い近い!)
15センチの距離にあるシヅクの顔に、チャンミンののどがゴクリと鳴る。
シヅクも、両手に挟んだチャンミンの熱い頬と、見開いた彼の目を凝視する。
(丸い目しちゃって、可愛いなぁ)
「もう一回する?」
「な、何を?」
(とぼけてるのか、本気でわかってないのか...)
「決まっとるだろうが!」
「そ、それは...」
(あーもー、面倒くさいやつだ!)
シヅクの耳にも、チャンミンが鳴らすのどの音が聞こえる。
(緊張しちゃって、可愛い)
「嫌か?」
シヅクはさらに、顔をチャンミンに近づける。
「い、嫌じゃ...ないです」
シヅクの手の中で、チャンミンは首を振る。
「そっか」
「......」
チャンミンは、ギュッと目をつむる。
(目をつむっちゃって、女子高生か!)
シヅクは、チュッと音をたてて、チャンミンのおでこにキスをした。
(あれ?)
シヅクの両手から解放され、目を開けたチャンミン。
すがるような目をしたチャンミンに、ほほ笑むシヅク。
「あんたがリードせんといかんよ、チャンミン」
「そ、そうだね」
(さらっと言っちゃうんだ)
「次はもっとロマンティックに頼むよ」
動揺を隠して、シヅクは冗談っぽく言うと、チャンミンは白い歯を見せて笑った。
「そうするよ」
「はぁ?」
(はっきり言っちゃうんだ、そこ)
「素直に答えられても、反応に困るんだよ、チャンミン!」
シヅクの言葉に、きょとんとするチャンミン。
(可愛らしい顔のくせして、この男...モジモジ君は撤回だ!」
「さぁ!」
チャンミンは、勢いよく両膝を叩いた。
「シヅク、デザートにしよう!」
「はい?」
スタスタとキッチンへ歩いてゆく、裸足のチャンミン。
「いろいろあったから、お腹が空いた」
「もう?」
(いろいろあったって...何よ。
私の方だって、心がめまぐるしかったよ)
「お腹空いた、ってな、まだ30分しか経ってないぞ?」
シヅクはチャンミンを追って、キッチンへ。
「私も手伝うよ、コーヒー淹れようか?」
シヅクは、コーヒーサーバーに水を入れようとすると、ひょいとチャンミンから取り上げられた。
「シヅクは皿を持って行って」
チャンミンはシヅクの背中を押して、キッチンから追い出した。
「君のコーヒーは恐ろしくて飲めない」
「何だとー!」
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