「あと30分!」
(リビングOK、注文した食材は届いた)
チャンミンは、仕事後大急ぎて帰宅し、準備で大忙しだった。
グラスも食器も1つずつしかなかったから、それも注文した。
(シヅクがうちに来る!)
チャンミンは嬉しくて仕方なかった。
(自宅に誰かを招くのは、初めてだ)
(それも、女のひとを)
(ところで...)
ふと手を止めて、考える。
(うちまで訪ねて欲しい、と言ってはみたけど、おかしかっただろうか?
人と、どう接して、どういった会話が正解なのか、僕にはわからない。
特に、相手が女性だとなると、ますます分からない。
手順が分からない)
29歳のチャンミンは、何もかもが初めてだった。
自分の経験を元に行動してみようと、記憶をたどろうとすると決まって、意識が遠のくような気がして出来なかった。
霞がかかったようで、曖昧なのだ。
(経験不足なのか、単に覚えていないのかを追及することは、後回しだ)
仕方なく、ネットの情報を頼りにして、チャンミンは必死だった。
チャンミンは、リビングを見渡して「よし」と頷く。
「次は...着替えないと!」
チャンミンは、外出着のままなことに気づいて、クローゼットに向かった。
シヅクは、地下10階から上昇するエレベーターに乗っていた。
地上に到着し、ドアが開くのも待てずに飛び出し、駆け出す。
(急げ急げ!)
会議の閉会式が長引き、撤去作業もずれ込んで、チャンミンとの約束の時間まで、あと1時間だった。
(忘れちゃいかん!チャンミンへの土産!)
シヅクは、自室のあるマンションにいったん寄り、あらかじめ注文しておいたものをピックアップする。
チャンミンのマンションまで、徒歩15分の距離だったが、迷わずタクシーを呼ぶことにした。
「ふぅ」
タクシーのシートに座ると、シヅクは息を整える。
(チャンミン、ごめん)
シヅクは膝の上の、チャンミンへの土産が入った袋を抱え直した。
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