~チャンミン16歳~
僕の背中で鋭く痙攣した直後に、どっと虚脱した義兄さんがのしかかった。
もっともっと突かれたかった僕は、肩透かしをくらったみたいに残念だった。
僕の中から引き抜いて、義兄さんはソファに深く座って、振り仰いだ顔を片手で覆ってしまった。
やっぱり、男の僕じゃ駄目だったんだ...。
絶望感と焦燥感にかられたけれど、呼吸荒い義兄さんにそう問うことが出来なかった。
代わりに、僕の上に覆いかぶさって欲しくて、義兄さんの両腕を引っ張った。
「チャンミン...?」
義兄さんの切なさそうな表情に、僕の方こそ切なくなってしまう。
「義兄さん...好きです」
義兄さんは僕の「好き」に応えてくれない。
でも、いいんだ...今のところは。
一度だけでも義兄さんは僕の中に入ったのだから。
それだけじゃ足りないから、僕はもう一度義兄さんと繋がりたい。
力なく垂れ下がった義兄さんのものを、手の中で育てる。
「チャンミンっ...よせ」
僕は首を振って、義兄さんの手を払いのけ、彼のものを頬張りしゃぶり上げた。
~ユノ33歳~
チャンミンを初めて抱いてしまったあの日のことは、忘れられない。
こちら側へ足を踏み入れた決定的な日だったからだ。
これまで経験してきたいくつかの恋愛でも、そういう「初めて」の時は必ずあるが、後になってしみじみと思い起こすことなどない。
いちいちその瞬間を重要がることはしない。
関係を深めるために必要で、ごく当たり前な行為に過ぎないからだ。
ところが、チャンミンが相手の場合はそういう訳にはいかなかった。
未成年のチャンミンとそういう行為に及ぶこと自体が、罪深い。
俺もとうとう、ここまで堕ちたか、と愕然とした。
実年齢より幼さを感じる目元...瞳を潤ませ、目尻を赤く染めたもの...に、俺は理性で抵抗するのを放棄した。
どうにでもなれ。
我慢を強いる方が無理な話だ。
チャンミンの腰を引き寄せ、その中に深く埋めた時の、まぶたの奥で火花が散るほどの、暴力的な快感に襲われた。
無様にも1度目の時は早々と果ててしまい、それだけでは全然足りていなかった。
俺のものを頬張ったチャンミンの誘いにのり、再び彼の両腿を割った。
異常過ぎる快感と興奮は、背徳感ゆえのものなのか。
チャンミンが妻の弟だったから。
チャンミンが未成年だったから。
チャンミンが男だったから。
それから...チャンミンを「恋人」にするつもりはさらさらなくて、その場限りの関係だと見なしていたせいなのか。
いや...それはない。
ところが、「好きです」と繰り返すチャンミンに、「俺も好きだ」と答えられなかった自分がいた。
軽々しく口したらいけない気がしたんだ。
俺たちの間には、「好き」を越えた愛情の通い合いが確かに存在する。
それの正体が分かるまでは、保留にしておきたかった。
「好きです」を無邪気に言えるチャンミンが子供っぽかった。
後先を考えない、想いを伝えただけで満足するような子供っぽい恋。
とは言え、チャンミンの性格に詳しくないが、「好き」を易々と口にできる子じゃないと思う。
それから、「どうしよう」と途方にくれた。
肉体関係を結んでしまった、義弟のチャンミンの今後の扱いに困った。
俺たちの関係に相応しい言葉を、見つけられなかった。
繋がり合った瞬間の充足感には抗えない。
なんだ、これ...?
痛みを覚えるほどの強烈な快感だった。
その場限りのつもりにしたくなかったが、いけないことをしていると認識する程に、得られる快感と満足感は増すものだと、俺は考えている。
2度目は女みたいな嬌声を上げたチャンミンと同時に果てた。
10代でもあるまいし、短時間で3度も達せた俺が信じられない。
身体を起こすと、俺の背に回していたチャンミンの手がぱたりと落ちた。
チャンミンを窺うと、喉をのけぞらせたままで口は半開きになっていた。
「おっと...」
ねばつく感触に、チャンミンが放ったものに気付いた。
余韻に浸っているのか、そのまま眠ってしまったのか、長いまつ毛を扇のように伏せてまぶたを閉じたチャンミン。
チャンミンの額に片手をかざしてみる。
直線的な眉を隠せば少女のようだった。
でも、辺りにむんと立ち込める青い匂いで我に返る。
ソファの足元に脱ぎ散らかされた衣服を掴み、浴室に行きかけたところ、引き返した。
ソファの肘掛けからチャンミンの長い脚がはみ出してしまっている。
余分な脂肪も筋肉も見当たらない、しなやかな鞭のような身体に、俺はスケッチブックを広げる動きを止められなかった。
手負いの美しい獣のようにも見えた。
頭の中には既に完成像が出来上がっていて、そのゴールに近づこうとひたすら絵筆を動かすのが、俺の制作スタイルだ。
たった今目にしたこの光景は、制作過程の作品...若すぎる男娼の表情に凄みを与えてくれるに違いない。
男を誘う淫らなその眼は天性のものではなくて、過去に何者かに凌辱され、そこで図らずも快楽の世界を知ってしまった故...そんな背景が頭に浮かんだからだ。
チャンミンの頭がゆっくりとこちらに向けられた。
俺はスケッチする手を止め、膝に置いたスケッチブックを気付かれないようそっと、床に落とした。
「...あ...義兄さん?」
きょとんとしたあどけない目に、俺の胸が初めて、罪悪感できしんだ。
(つづく)