(5)僕を食べてください(BL)

 

 

~見られながら~

 

 

ユノに射すくめられた僕は拒めない。

おずおずと、熱く硬く脈打つものを握る。

僕の先走りとユノの唾液が合わさって、とろとろと滑りが良かった。

普段、自分でそうするように上下にしごく。

ユノは僕の脇ににじり寄ると、耳の穴に舌先を差し込んだ。

 

「あ...」

 

温かい舌の感触と柔らかく吹き付けられた息に、背筋まで震えが走った。

ユノは僕の耳たぶを甘噛みした。

一瞬噛まれるか、と覚悟したが、今日は違った。

ピストン運動の速度が増す。

ユノは僕の唇を塞いだ。

ぴったりと唇が合わさって、僕は息継ぎが出来ず次第に苦しくなってきた。

首を振って逃れようとしたが、ユノは許さない。

目もくらむほどの快感に支配されていた僕は、ユノの口の中へ喘ぎ声を注ぐ。

 

(苦しい。

でも、気持ちが良すぎて、狂いそうだ)

 

「うっ...」

 

(快感を生んでいるのは、自分自身の手だということ。

自慰の姿を、ユノの視線にさらされていること。

熱っぽくかすれた、自分自身の甘い喘ぎ声。

下半身だけをさらした羞恥の姿。

この状況が興奮を呼んで、たまらない)

 

ユノは僕のつんと勃った乳首を吸った。

 

「あぅっ」

 

「真っ赤になってる。

昨日はいじめ過ぎてゴメン」

 

腫れた左乳首の先を、愛おしそうに舌全体で舐め上げた。

先端が膨らみ固くなってきた。

射精の時は近い。

僕はたまらずユノの手を取ると、自分のものを握らせた。

ユノの手を覆って、一緒にしごく。

 

「チャンミン...いやらしい子」

 

耳元で囁かれて、ユノの後頭部を勢いよく引き寄せて、唇を奪う。

呼吸もままならなく苦しくなると分かっているのに、自分をもっと極限まで追い込みたい欲求に突き動かされていた。

僕の目はうつろで、どこにも視点を結んでいない。

 

「イクな」

 

「無理っ」

 

歯をくいしばる。

 

「あっ...」

 

快楽から気を反らせようとしたが、限界だ。

 

「い...くっ...」

 

握ったユノの指の間から、僕の精液が勢いよく飛び出る。

 

「っく...っ!」

 

何度か下腹を痙攣させる。

ユノの上腕に、白濁した粘りが跳ね跳んだ。

僕はまた、ユノの手で達してしまったのだった。

下半身だけ露わにして、大股を広げて、胸を大きく上下させて呼吸が荒い。

ユノは僕のまぶたにキスをし、汗で張り付いた僕の髪をかき上げると額にキスをした。

僕はユノの胸にもたれ、彼に髪を撫でられるままでいた。

虚脱感いちじるしいのに、僕の心は幸福感に包まれていた。

 

(美しいこの人にすべてを見られ、

欲望を吐き出し、

受け止められ、

僕は、幸せだ)

 

息が整いつつある僕は、ユノの腕の中で問う。

 

「ユノ...君は、誰だ?」

 

順序が逆になっていた。

ユノにすべてを見せる前に知るべきだったこと。

ユノは、腕の中の僕を覗き込む。

 

「知る必要がある?」

 

その目は墨色で、平坦で固い声だった。

 

 

 

「腹減っただろ?」

 

ユノは裸足のまま、隅に置かれた真新しい冷蔵庫を開けると、戻ってきた。

マットレスの上でぐったりとしている僕に、よく冷えたミネラル・ウォーターを投げて寄こした。

乾ききった喉に、冷たい水を流し込む。

 

「飯を食いたいだろ?」

 

ふわりとほほ笑んだユノが、胸に染み入るように綺麗だった。

洋服を身につけて、建物の外へ出る。

初夏の太陽がまぶしくて、目がチカチカした。

艶めくボディの車が僕の前に横付けされた。

目にも鮮やかな赤のX5だった。

高級車の登場に驚きを隠せない僕に、ユノはあごをしゃくって乗るよう合図する。

ドアを閉めると高級車らしい重低音が響き、僕はブラック・レザーシートに身を沈めた。

 

「汗をかいてる。

暑いだろ?」

 

ユノはセンター・コンソールを操作して、設定温度を18℃まで下げた。

僕の隣でハンドルを握るのは、名前しか知らない人。

そんな彼に、僕は全身をさらして身を任せたんだ。

エアコンの涼しい風で、徐々に汗は引いていった。

サイドウィンドウを流れ過ぎる景色を見るともなく、気だるい頭で眺めていた。

全身が重だるかった。

わずか2時間の間、2回も達した僕だった。

30分前の自分を反芻していた。

 

 


 

 

 

ユノの手でイカかされた僕は、さらに命じられた。

 

「チャンミン、服を脱いで」

 

僕は両腕をあげて、Tシャツを脱いだ。

これでようやく僕は全裸になった。

 

「綺麗だ。

チャンミン...綺麗...」

 

僕の鼻梁を指でたどると、後ろ髪に手を差し込んだ。

間近でユノと僕の目が、ぶつかる。

ユノの群青色の瞳と澄んだ白目が、くっきりとしたコントラストを作っている。

僕は馬鹿みたいに口を半開きにさせているだろう。

ユノは僕の胸に頬を寄せ、僕の筋肉がつくるくぼみをひとつひとつなぞった。

僕の顔を身体を、舐めるように目で楽しみ、撫ぜて愛でていた。

僕はユノのいとおしむような愛撫を受けて、深い愛情を注がれていると錯覚していた。

 

(ユノと心の通い合いはまだ、ない。

でも僕はこんな状況を、受け入れている!)

 

達したばかりなのに、僕のものは再び膨らみ始めた。

 

「まだ欲しいのか?」

 

僕は頷いた。

 

(彼がどんな人なのか、知るのは後だ。

今はただ、彼のいやらしい愛撫を受けたい)

 

ユノに手を引っぱり起こされ、僕はマットレスの脇に裸足で立った。

ユノは床に膝をつく。

ボトムスの裾から、白いくるぶしがのぞいていた。

下腹部に付くほど直立したものの根元をやさしく握って、先端に吸い付いた。

 

「あ...!」

 

腰が震えた。

僕の腰骨が、ユノの手で支えられる。

ユノの大きく開けた口の中へ、僕のものが吸い込まれていった。

 

「ひっ...!」

 

短い悲鳴が上がる。

 

「チャンミン...お前もしかして、フェラチオは初めてなのか?」

 

その通りだった。

ユノにされることすべてが、僕にとって初めてだ。

つい最近、付き合っていた子と別れたばかりだった。

憂鬱で投げやりな気持ちで帰省したのも、このせいだった。

大人しく奥手だった僕は、その子をうまくリードすることができず、挿入にいたらなかった。

その子をひどく失望させてしまった僕は、あっさりふられてしまった。

そんな僕の太ももの間で、ユノの頭が揺れている。

信じられない。

夢みたいだ。

僕の反応を楽しむかのように、時おり卑猥な音をたてた。

ユノに頬張られて、丹念に舐められ吸われ、僕は再び快楽の沼へ背中から沈んでいった。

 

(こんな小さな口の中に、こんなに大きくなったものを突っ込まれて)

 

ユノの口内を犯しているような光景に興奮した。

 

「はっ...うっ」

 

たまらずユノの頭をつかんで、股間に押さえつける。

もっと奥へもっと奥へと、ユノの喉を貫きたい。

ユノはいったん、僕のものから口から出すと、今度は、チロチロと亀頭を舐め始めた。

そうかと思うと、尖らせた舌先で裏筋をやわらかく刺激する。

 

(そこは...弱い...!)

 

僕の全神経が、股間に集中していた。

尿道口からあふれ出る、僕のいやらしい粘液を舌ですくい取った。

じゅっと亀頭を浅く咥えて、強く吸う。

たまらない。

ユノの唇から顎へと、糸をひいたものが垂れていた。

僕のものを握ったまま見上げるのは、妖しい光たたえる美しい瞳。

たまらない。

あんなに激しく僕をしゃぶり続けていたのに、青白い肌色はそのままで、目尻の縁だけ赤くて。

もっともっと、欲しい。

もっと、僕を舐めてください。

強過ぎる快感を堪能しようと、僕は目をつむって天井を仰ぐ。

ユノの小さな頭を、撫でる。

柔らかい髪を指ですく。

こんなにも美味しそうに僕を味わうユノが、愛おしくなってきた。

 

「チャンミン。

気持ちいいか?」

 

「うん。

...すごく」

 

僕の答えに満足したのか、ユノは根本を強めに握り直すと、ピストン運動を始めた。

 

「あ、あぁ...」

 

同時に、亀頭だけが咥えられ、その中で舌がグネグネと踊った。

 

「あっ」

 

ちゅるりと吸われると、僕の喘ぎ声も大きくなる。

喉の奥まで咥えこまれ、強めにスライドされて、強烈な快感が全身を貫いた。

ユノの柔らかな髪を両手でかき乱す。

僕の両脚の間で、上下に動くユノの頭を、愛おしく撫でる。

腰が自然と前後に動き出した。

ユノの頭をつかんで前後に揺らしていた。

 

「あっ...あっ...」

 

ユノを窒息させてしまいはしないか心配になって、途中で突く動きを緩めるが、強烈な快感に支配された僕は、ユノの口を貫こうと、再び腰を揺らしてしまうのだった。

 

「イきそうか?」

 

僕のものを唇を離すと、しごく片手はそのままにユノは低い声で言った。

 

「う、うん」

 

「我慢しろ」

 

僕は激しく首を振る。

 

「いい子だから」

 

「む、むりっ」

 

このままじゃ、ユノの口の中でイってしまう。

 

「イっちゃう」

 

ユノの口の中に放出したい欲求と、それはいけないという、相反した考えで葛藤した。

もう、限界だ。

ユノの口から抜こうとしたが、彼に尻をつかまれる。

僕の尻に、ユノの爪がくいこむ。

その痛みすら快感だった。

僕の理性はふっとんだ。

ユノの頭を股間に押さえつけて、がくがくと小刻みに腰を揺らす。

ジュボジュボと、淫らな音がしんと静かな工場内に響く。

全裸の僕と、膝まずいて股間に顔を埋める着衣の彼。

半分は屋外のような場所で、衣服をまとわず腰を揺らす僕。

なんて光景だ。

目もくらむ快感の大波にさらわれた。

 

「いっ...くっ...!」

 

ユノの喉の奥に、僕の欲望が放出された。

二度、三度と絶頂の震えに襲われた。

 

「は...あぁぁ...」

 

精液を吐ききるまで、ユノは咥えたまま放さなかった。

こうして僕はユノの口の中で、達してしまったのだった。

マットレスに倒れこむ。

まるで全速力の末、ゴールで倒れこんだ陸上選手のようだった。

 

「チャンミンは、いやらしいなぁ。

さっき出したばかりなのに、

こんなに沢山」

 

濡れたユノの唇から、つーっと精液が滴り落ちていた。

 

「ごめん!

中に出しちゃって、ごめん」

 

ユノの唇を覆った。

青臭くえぐみのある味と匂いにまみれても構わず、やみくもにユノの唇を吸った。

 

「ごめん」

 

自分が出した白濁で、互いの口元が汚れてしまっても、全然構わなかった。

僕もユノも一緒に、汚れてしまえばいい。

ユノを汚してしまった罪の意識と、彼を征服した満足感がない交ぜになって、何が何だかわからなくなっていた。

 

「チャンミンは、可愛いね」

 

こう言って、ユノは僕の頭を撫ぜたのだった。

 

(つづく)