~見られながら~
ユノに射すくめられた僕は拒めない。
おずおずと、熱く硬く脈打つものを握る。
僕の先走りとユノの唾液が合わさって、とろとろと滑りが良かった。
普段、自分でそうするように上下にしごく。
ユノは僕の脇ににじり寄ると、耳の穴に舌先を差し込んだ。
「あ...」
温かい舌の感触と柔らかく吹き付けられた息に、背筋まで震えが走った。
ユノは僕の耳たぶを甘噛みした。
一瞬噛まれるか、と覚悟したが、今日は違った。
ピストン運動の速度が増す。
ユノは僕の唇を塞いだ。
ぴったりと唇が合わさって、僕は息継ぎが出来ず次第に苦しくなってきた。
首を振って逃れようとしたが、ユノは許さない。
目もくらむほどの快感に支配されていた僕は、ユノの口の中へ喘ぎ声を注ぐ。
(苦しい。
でも、気持ちが良すぎて、狂いそうだ)
「うっ...」
(快感を生んでいるのは、自分自身の手だということ。
自慰の姿を、ユノの視線にさらされていること。
熱っぽくかすれた、自分自身の甘い喘ぎ声。
下半身だけをさらした羞恥の姿。
この状況が興奮を呼んで、たまらない)
ユノは僕のつんと勃った乳首を吸った。
「あぅっ」
「真っ赤になってる。
昨日はいじめ過ぎてゴメン」
腫れた左乳首の先を、愛おしそうに舌全体で舐め上げた。
先端が膨らみ固くなってきた。
射精の時は近い。
僕はたまらずユノの手を取ると、自分のものを握らせた。
ユノの手を覆って、一緒にしごく。
「チャンミン...いやらしい子」
耳元で囁かれて、ユノの後頭部を勢いよく引き寄せて、唇を奪う。
呼吸もままならなく苦しくなると分かっているのに、自分をもっと極限まで追い込みたい欲求に突き動かされていた。
僕の目はうつろで、どこにも視点を結んでいない。
「イクな」
「無理っ」
歯をくいしばる。
「あっ...」
快楽から気を反らせようとしたが、限界だ。
「い...くっ...」
握ったユノの指の間から、僕の精液が勢いよく飛び出る。
「っく...っ!」
何度か下腹を痙攣させる。
ユノの上腕に、白濁した粘りが跳ね跳んだ。
僕はまた、ユノの手で達してしまったのだった。
下半身だけ露わにして、大股を広げて、胸を大きく上下させて呼吸が荒い。
ユノは僕のまぶたにキスをし、汗で張り付いた僕の髪をかき上げると額にキスをした。
僕はユノの胸にもたれ、彼に髪を撫でられるままでいた。
虚脱感いちじるしいのに、僕の心は幸福感に包まれていた。
(美しいこの人にすべてを見られ、
欲望を吐き出し、
受け止められ、
僕は、幸せだ)
息が整いつつある僕は、ユノの腕の中で問う。
「ユノ...君は、誰だ?」
順序が逆になっていた。
ユノにすべてを見せる前に知るべきだったこと。
ユノは、腕の中の僕を覗き込む。
「知る必要がある?」
その目は墨色で、平坦で固い声だった。
・
「腹減っただろ?」
ユノは裸足のまま、隅に置かれた真新しい冷蔵庫を開けると、戻ってきた。
マットレスの上でぐったりとしている僕に、よく冷えたミネラル・ウォーターを投げて寄こした。
乾ききった喉に、冷たい水を流し込む。
「飯を食いたいだろ?」
ふわりとほほ笑んだユノが、胸に染み入るように綺麗だった。
洋服を身につけて、建物の外へ出る。
初夏の太陽がまぶしくて、目がチカチカした。
艶めくボディの車が僕の前に横付けされた。
目にも鮮やかな赤のX5だった。
高級車の登場に驚きを隠せない僕に、ユノはあごをしゃくって乗るよう合図する。
ドアを閉めると高級車らしい重低音が響き、僕はブラック・レザーシートに身を沈めた。
「汗をかいてる。
暑いだろ?」
ユノはセンター・コンソールを操作して、設定温度を18℃まで下げた。
僕の隣でハンドルを握るのは、名前しか知らない人。
そんな彼に、僕は全身をさらして身を任せたんだ。
エアコンの涼しい風で、徐々に汗は引いていった。
サイドウィンドウを流れ過ぎる景色を見るともなく、気だるい頭で眺めていた。
全身が重だるかった。
わずか2時間の間、2回も達した僕だった。
30分前の自分を反芻していた。
ユノの手でイカかされた僕は、さらに命じられた。
「チャンミン、服を脱いで」
僕は両腕をあげて、Tシャツを脱いだ。
これでようやく僕は全裸になった。
「綺麗だ。
チャンミン...綺麗...」
僕の鼻梁を指でたどると、後ろ髪に手を差し込んだ。
間近でユノと僕の目が、ぶつかる。
ユノの群青色の瞳と澄んだ白目が、くっきりとしたコントラストを作っている。
僕は馬鹿みたいに口を半開きにさせているだろう。
ユノは僕の胸に頬を寄せ、僕の筋肉がつくるくぼみをひとつひとつなぞった。
僕の顔を身体を、舐めるように目で楽しみ、撫ぜて愛でていた。
僕はユノのいとおしむような愛撫を受けて、深い愛情を注がれていると錯覚していた。
(ユノと心の通い合いはまだ、ない。
でも僕はこんな状況を、受け入れている!)
達したばかりなのに、僕のものは再び膨らみ始めた。
「まだ欲しいのか?」
僕は頷いた。
(彼がどんな人なのか、知るのは後だ。
今はただ、彼のいやらしい愛撫を受けたい)
ユノに手を引っぱり起こされ、僕はマットレスの脇に裸足で立った。
ユノは床に膝をつく。
ボトムスの裾から、白いくるぶしがのぞいていた。
下腹部に付くほど直立したものの根元をやさしく握って、先端に吸い付いた。
「あ...!」
腰が震えた。
僕の腰骨が、ユノの手で支えられる。
ユノの大きく開けた口の中へ、僕のものが吸い込まれていった。
「ひっ...!」
短い悲鳴が上がる。
「チャンミン...お前もしかして、フェラチオは初めてなのか?」
その通りだった。
ユノにされることすべてが、僕にとって初めてだ。
つい最近、付き合っていた子と別れたばかりだった。
憂鬱で投げやりな気持ちで帰省したのも、このせいだった。
大人しく奥手だった僕は、その子をうまくリードすることができず、挿入にいたらなかった。
その子をひどく失望させてしまった僕は、あっさりふられてしまった。
そんな僕の太ももの間で、ユノの頭が揺れている。
信じられない。
夢みたいだ。
僕の反応を楽しむかのように、時おり卑猥な音をたてた。
ユノに頬張られて、丹念に舐められ吸われ、僕は再び快楽の沼へ背中から沈んでいった。
(こんな小さな口の中に、こんなに大きくなったものを突っ込まれて)
ユノの口内を犯しているような光景に興奮した。
「はっ...うっ」
たまらずユノの頭をつかんで、股間に押さえつける。
もっと奥へもっと奥へと、ユノの喉を貫きたい。
ユノはいったん、僕のものから口から出すと、今度は、チロチロと亀頭を舐め始めた。
そうかと思うと、尖らせた舌先で裏筋をやわらかく刺激する。
(そこは...弱い...!)
僕の全神経が、股間に集中していた。
尿道口からあふれ出る、僕のいやらしい粘液を舌ですくい取った。
じゅっと亀頭を浅く咥えて、強く吸う。
たまらない。
ユノの唇から顎へと、糸をひいたものが垂れていた。
僕のものを握ったまま見上げるのは、妖しい光たたえる美しい瞳。
たまらない。
あんなに激しく僕をしゃぶり続けていたのに、青白い肌色はそのままで、目尻の縁だけ赤くて。
もっともっと、欲しい。
もっと、僕を舐めてください。
強過ぎる快感を堪能しようと、僕は目をつむって天井を仰ぐ。
ユノの小さな頭を、撫でる。
柔らかい髪を指ですく。
こんなにも美味しそうに僕を味わうユノが、愛おしくなってきた。
「チャンミン。
気持ちいいか?」
「うん。
...すごく」
僕の答えに満足したのか、ユノは根本を強めに握り直すと、ピストン運動を始めた。
「あ、あぁ...」
同時に、亀頭だけが咥えられ、その中で舌がグネグネと踊った。
「あっ」
ちゅるりと吸われると、僕の喘ぎ声も大きくなる。
喉の奥まで咥えこまれ、強めにスライドされて、強烈な快感が全身を貫いた。
ユノの柔らかな髪を両手でかき乱す。
僕の両脚の間で、上下に動くユノの頭を、愛おしく撫でる。
腰が自然と前後に動き出した。
ユノの頭をつかんで前後に揺らしていた。
「あっ...あっ...」
ユノを窒息させてしまいはしないか心配になって、途中で突く動きを緩めるが、強烈な快感に支配された僕は、ユノの口を貫こうと、再び腰を揺らしてしまうのだった。
「イきそうか?」
僕のものを唇を離すと、しごく片手はそのままにユノは低い声で言った。
「う、うん」
「我慢しろ」
僕は激しく首を振る。
「いい子だから」
「む、むりっ」
このままじゃ、ユノの口の中でイってしまう。
「イっちゃう」
ユノの口の中に放出したい欲求と、それはいけないという、相反した考えで葛藤した。
もう、限界だ。
ユノの口から抜こうとしたが、彼に尻をつかまれる。
僕の尻に、ユノの爪がくいこむ。
その痛みすら快感だった。
僕の理性はふっとんだ。
ユノの頭を股間に押さえつけて、がくがくと小刻みに腰を揺らす。
ジュボジュボと、淫らな音がしんと静かな工場内に響く。
全裸の僕と、膝まずいて股間に顔を埋める着衣の彼。
半分は屋外のような場所で、衣服をまとわず腰を揺らす僕。
なんて光景だ。
目もくらむ快感の大波にさらわれた。
「いっ...くっ...!」
ユノの喉の奥に、僕の欲望が放出された。
二度、三度と絶頂の震えに襲われた。
「は...あぁぁ...」
精液を吐ききるまで、ユノは咥えたまま放さなかった。
こうして僕はユノの口の中で、達してしまったのだった。
マットレスに倒れこむ。
まるで全速力の末、ゴールで倒れこんだ陸上選手のようだった。
「チャンミンは、いやらしいなぁ。
さっき出したばかりなのに、
こんなに沢山」
濡れたユノの唇から、つーっと精液が滴り落ちていた。
「ごめん!
中に出しちゃって、ごめん」
ユノの唇を覆った。
青臭くえぐみのある味と匂いにまみれても構わず、やみくもにユノの唇を吸った。
「ごめん」
自分が出した白濁で、互いの口元が汚れてしまっても、全然構わなかった。
僕もユノも一緒に、汚れてしまえばいい。
ユノを汚してしまった罪の意識と、彼を征服した満足感がない交ぜになって、何が何だかわからなくなっていた。
「チャンミンは、可愛いね」
こう言って、ユノは僕の頭を撫ぜたのだった。
(つづく)