(11)時の糸

 

 

~チャンミン~

「えっと...」

行き場を失った、僕の両手。

「えーっとね、ユノ?」

僕の背中に回された、ユノの両手を意識する。

ゆうべのようにひんやりとした手じゃない。

汗ばんで、熱い熱い手だった。

僕の喉はからからだった。

(参ったなぁ)

ユノは、僕の胸に顔を押し付けたまま、低い声でつぶやいている。

「...心配したんだから」

「あのさ、ユノ?」

「......」

ユノは僕の胸に頭を押し付けたまま動かない。

ユノに驚かされて、現状把握できずにいたけど...。

この状況は、かなり...かなり...恥ずかしい...。

僕はなんて格好をしてるんだ。

ユノの涙も止まったみたいだ。

 

「あのね、ユノ?」

「......」

 

「あのね」

 

僕は出来るだけ優しい声を意識して、ユノに話しかけた。

「僕...パンツを履いても...いいかな?」

「!」

ぴたっと、ユノの動きが止まった。

僕は、じっと彼の動きを見守っていた。

ユノは、そうっと腕をといた。

小さな声で「失礼しました」と言うと、ロボットのように回れ右をして、バスルームを出て行ったのであった。

(えっ?)

「はぁ...」

僕は深く深く、ため息をついた。

(びっくりしたー)

今日の僕はため息をついてばっかりだ。

​急展開過ぎて、追いつかないよ...。

湯上りだった身体も、すっかり冷えてしまった。

脇の下にひどく汗をかいていたようだ。

僕は下着をつけ、黒いスウェットパンツとTシャツを身に着けると、ユノを追った。

ユノの想像力が、ずいぶんとたくましいことを、ひとつ学習した僕だった。

 

 

 

 

「さあさあ、たんと召し上がれ」

 

ユノはビニール袋からどんどん取り出す。

 

ダイニングテーブルじゃなくて、ここがいいとユノが言うから、床に座って彼からの差し入れを食べることにした。

 

僕はあぐらをかいて、ユノと対面して座る。

 

「ねぇ、ユノ...。

セレクトが妙というか、変わってるというか、偏っているというか...」

 

「えっ?

どこが?」

 

ユノも床の上に胡坐をかいて座り込み、グラスにスポーツドリンクを注いで僕に手渡した。

 

「飽きたらいかんと思って、バリエーション豊かにしてみたんよ」

 

ゼリー飲料レモン味、ゼリー飲料マスカット味、ゼリー飲料ライチ味、ゼリー飲料アップル味。

 

(おいおい)

 

プレーンヨーグルト、ストロベリーヨーグルト、ブルーベリーヨーグルト、アロエヨーグルト、オレンジゼリー、ピーチゼリー、マスカットゼリー、アップルゼリー、コーヒーゼリー...各3個。

 

(おいおいおい)

 

「こいつら液体だからさ、めっちゃ重いのなんのって」

 

コラーゲンドリンク、プロテインドリンク、滋養強壮タウリン3000mgドリンク、ビタミンドリンク、マムシドリンク...。

 

(おいおいおいおい!)

 

「お前は風邪っぴきだろ?

冷たくてさっぱりしてて、消化がよくて、身体への吸収がよくて。

ビタミンが摂れるっていえば、これらしかないでしょ?

ユノさんの心遣いに、涙がでちゃうね、チャンミン?」

 

さっき大泣きしていたユノは、真っ赤に充血した目を三日月にしてにっこり笑った。

 

僕はどう反応したらよいかわからなかった。

 

嬉しさ反面、呆れていたし、ユノの極端なところに、どう反応したらよいかわからなかったのだ。

 

「......」

 

黙りこくっている僕の様子に、

 

「どうした、チャンミン?

頭が痛いのか、僕ちんは?」

 

ユノは僕の肩に手を添えて、僕の顔を覗き込んだ。

 

(まただ。

僕はこれに弱いみたいだ)

 

さっきの涙で目尻を赤く染め、目元がうんと幼い感じになっている。

 

「呆れてた」なんて言ったけど、実はじわじわと感激していた。

 

嬉しかった。

 

 

(つづく)

 

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