~ユノ~
で、結局、だらだらと2時間も話してた(俺が)。
(そろそろ、電話切ろうかな。
はっ!
もう12時じゃないか!)
あくびが出る。
(明日も早いんだよなぁ...。
チャンミンの奴、結局、雑談だけのために電話してきたんかなぁ?)
『ユノ』
チャンミンが、俺の名前を呼ぶ。
「はいはい」
(さすがにしゃべり疲れた...)
『明日終わるのって、何時頃?』
「うーん、片付けがあるから、18時くらいかなぁ」
(すきっ腹に、酒はいかん、酔ってきた。
トイレに行きたい...)
『えっと...』
(眠い...寝たい...風呂に入らんと)
「それじゃ、そろそろ寝るわ」
会話を打ち切ろうとしたら、まさかのチャンミンの爆弾発言。
驚き過ぎて、ソファから転げ落ちたもんね。
『明日、うちに来てください』
「ぶはっ!」
ベタな反応だったけど、本気で吹き出してしまった。
「なんやってぇ!?」
『明日、僕のうちに来て欲しい』
「ななな、なんやって?」
『ユノに、来てもらいたいんだ、うちに』
全くの予想外のチャンミン発言に、全身から汗が噴き出してきた。
「なんでぇ?」
(馬鹿!
うちに来て欲しい、ってことは、アレだよアレ!
理由をはっきり聞いちゃあかんのに)
『ユノに用があるからだよ!
ユノは出張でいなかったし。
職場じゃ、ゆっくり話せないし』
「そっかー...」
『...無理なら、いいよ。
忘れて』
「わかった」
『嫌ならいいよ』
「行くよ」
チャンミンが「すっ」と、息を吸う音が聞こえる。
『いいんですか?』
(なぜ、敬語?)
チャンミンの声が明るくなった。
「出張から戻ったら、まっすぐ寄るよ」
『よかった!』
(めちゃくちゃ嬉しそうじゃないの)
「うーんと、18時頃かなぁ...いい?」
『じゃあ、夕飯を用意しておくよ』
「美味しい物買っていくから、いい子でな」
『子供扱いは、止めてくれないかな、ユノ』
・
電話を切った後、ソファに寝ころんでぼんやりと考える。
この数日の間で、チャンミンの中で何が起こったんだ?
客観的に見ると、間もなく三十路になる男にしては言動が中高生レベルで、十分過ぎるほどキモイ。
でも、チャンミンならセーフ。
なぜだかは、分からないけど。
照れることをスルっと発言できちゃうあたりが、単なる「ウブ」でもないわけで。
なかなかどうして、興味深いキャラクターだ、チャンミン君。
チャンミンの『やる気スイッチ』を押してしまったのか?
『やる気スイッチ』って、なんのやる気だよ!
先日のMとの会話を思い出す。
『チャンミンのプライベートって凄そう、こわーい』
チャンミンが隠している「素の姿」はすごいんだろうか...?
どきどき。
チャンミンは、洗面ボウルの縁にかけた手に体重を預け、ゆっくり呼吸した。
洗面所の鏡の前で、髪を整えようとした直後だった。
(まただ...)
視野が暗くなって、耳鳴りがする。
(もうすぐユノが来るのに...)
チャンミンは強く目をつむって、大きな深呼吸を繰り返した。
(!)
チャンミンは、自分の肩の上に重みを感じ、後ろを振り返った。
(つづく)
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