「ユノは動くな!
手を離せ!」
「お、オーケー」
チャンミンの鋭い言葉に驚いたユノは、マフラーからこわごわ手を離した。
(チャンミンの奴、
もし不器用だったら、流血ものだ)
チャンミンは、ユノの耳元に手を伸ばす。
チャンミンの手が、やさしくユノの耳たぶに添えられる。
ユノはチャンミンに触れられて、ぞくりとする。
チャンミンは、ユノが焦ったせいで複雑に絡まった糸を、ゆっくり、少しずつ解いていく。
ユノの耳を傷つけないように、落ち着いて、丁寧に...。
「じっとしてて」
首元にかかるチャンミンの息と、自分の耳たぶに触れる彼の指の感触に緊張するユノ。
(近い、近い!)
振り返れないから、チャンミンの顔は見えないけど、きっと真剣な表情をしているのだろう。
(めちゃくちゃ、ドキドキするんですけど!)
ユノの全神経が、チャンミンがつまんでいる、自分の耳たぶに集中していた。
「動かないで、ユノ」
(もう無理!
耐え切れん!)
「だから、動くな!」
「...だって、くすぐったい」
「耳たぶがちぎれるよ」
「無理だったらいいよ。
絡んだとこをハサミで切っちゃおうよ」
ユノが耐え切れずに言った途端、ふっと耳元が解放された。
「取れた!」
ユノはすくんで硬直していた身体の力を、ふっと解く。
「はぁぁぁ」
(暑い...汗かいた...)
ユノはシャツの襟元をつかんでパタパタとあおいだ。
(めちゃくちゃ、緊張した!)
「助かった...」
(これくらいでドギマギするなんて、思春期かよ!)
「ありがとね」
ユノはマフラーをするりと外す。
(チャンミンといると、俺までウブになってしまう)
ユノは照れ隠しに、ゴホンと咳ばらいをする。
「チャ、チャンミン、器用だね」
ユノはチャンミンの方を振り返った。
「ありがとう」と言いかけた。
...ユノの言葉は、塞がれた。
斜めに傾けられた、チャンミンの頬。
間近に迫った、チャンミンの閉じたまぶた。
~チャンミン~
僕は、ユノにキスをしていた。
とっさにとった自然な行為だった。
あの時は、そうせずにはいられなかった。
気づいたら、僕の唇をユノの唇に重ねていた。
僕の全神経は、ユノの唇の感触に集中していた。
しっとりと、柔らかい。
僕は目を閉じていたから、ユノの表情は分からない。
・
今夜の僕は、ユノの一挙手一投足に、全神経を傾けていた。
僕の言うことやることに、直球で返ってくるユノの反応が楽しい。
グラスを持つ手首や、短い襟足の髪から伸びる白い首が、僕の胸を締め付ける。
ユノの目と僕の目が合う度、心臓の鼓動が早くなる。
ユノが僕に触れると、お腹の底が熱くなる。
乱暴な言葉使いの裏には、彼の温かい心が隠れている。
「不法侵入」したユノに対して、ムカッとしたけど、最初からユノを許していた。
怖い顔と言葉に、ユノがどんな反応を示すのか、見てみたかった。
ユノの見せる反応全てが、僕をたまらなくさせる。
食事をしながらもずっと、ユノを見ていた。
彼に楽しんでもらいたかった。
僕のもてなしのどこかに、「不正解」があったかもしれない。
ユノなら大らかに受け止めて、笑いにしてくれる。
ユノに触れられると、僕の細胞全部が反応する。
くすぐったくて、幸せで、嬉しい...心地よい。
同時に、たまらない気分になる。
僕から、ユノに触れたい。
ユノからじゃなく、「僕から」。
・
ユノの耳に触れた時、僕はギリギリだった。
指が震えるのを抑えて、金具にひっかかった糸を解きながら、
僕よりがっちりした肩や、太い鎖骨を間近で見て、
「ああ、ユノは男のひとなんだ」と、強く意識した。
多分...初めてだ。
僕の過去のことはよくわからないし、考えたくないから、今はそっとしておく。
僕はとても緊張していた。
焦ってユノの耳を傷つけないように、一生懸命だった。
絶対に壊したらいけない宝物に見えてきた。
毛糸が外れて解放された、ユノの赤くなった耳たぶとホッとしたユノの表情を見たらもう...。
我慢できなかった。
気づいたら、ユノの首を引き寄せてキスをしていた。
(つづく)
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