~ユノ~
背負う力が枯れてしまっていた俺は、チャンミンの両手首を持ってベッドまで引きずっていく。
床との摩擦でチャンミンのシャツが顎下までめくり上がり、両乳首が丸見えになったが、男の乳首でドキッとなんて当然しない。
テーブル越しでちらっと見てしまった時、「あれ?ニップルピアスはしていないんだ」と思ってしまった俺は、やっぱり偏見の塊だ。
チャンミンの長い身体、部屋の入り口で引っかかってしまったため、一旦行き過ぎた後、今度は両足首を持って同様に引きずっていった。
・
「...よいっしょ!!」
俺が先にベッドに上がり、チャンミンの両脇を持って引っ張り上げた。
「はあはあはあはあ...」
額の汗を拭い、チャンミンのブーツを脱がせた。
手入れの行き届いた靴で、「伊達男だなぁ...」と感心してしまった。
・
入浴を終えて部屋に戻ると、さっきと同じ仰向けの姿勢でチャンミンはすやすやと眠っていた。
タイトなボトムスの中身はさぞ蒸れているだろうが、そこの面倒までは俺には見られない。
男友達だったら、ウエストを緩めてやるくらいはできるかもしれない。
でも、チャンミンに関しては、よからぬことをしている気がしてしまうのだ。
...男同士のアレってアレだろ?
「女の子としたことないの。
だから僕も童貞なの」
...と、言っていたチャンミン。
男の中には挿れてるけど、女の子の中には挿れたことがない、という意味の童貞宣言なんだろうか?
俺なんて、どちらも経験がないから、正真正銘の童貞だ。
男の中...。
つまり...!?
出すべきところに挿れるって!?
(身体に悪そうだな...)
あ~あ、やっぱり俺は偏見の塊だな。
目元を覆ったチャンミンの長い前髪をかきあげ、片耳にかけてやった。
昔の男に贈られたというピアスが、ピカピカっと光った。
健やかな寝顔をしちゃってさ。
俺はこんなに苦労したというのに。
さて。
俺はどこで寝たらいいのだろう?
ベッドはいびきをかいて眠るチャンミンに占拠されている。
脇にどかせば、隣に寝られないことはない。
しかし...。
チャンミンは男が好きな男だ。
寝ぼけたチャンミンに、身体をまさぐられるかもしれないぞ。
朝目覚めたら、パンツを引きずり下ろされてるかもしれないぞ。
ぞうっとした。
あ~あ、俺は偏見の塊だ。
「しょうがないなぁ」
押し入れから冬用毛布を引っ張り出し、2人掛けのソファに横たわった。
狭い。
だからと言って、チャンミンとひとつベッドで眠るなんて御免なのだ。
~チャンミン~
自ら望んで童貞を守ってきたと言っていた。
『この子だ!』と確信が持てた子としか、ヤりたくないんだそうだ。
ユノをフッたあの女の子はつまり、ユノの『この子だ!』じゃなかったわけだ。
僕が見たところ、彼女はまあまあ可愛い子だったのにな。
外見じゃないのなら、一体どんな子なら、ユノの『この子だ!』センサーに反応するんだろう?
ユノはこだわりの強い人物のようだ。
僕にしても男に関してのルールが多い。
見た目がいいことは第一条件。
反吐が出るほど嫌いなのが、『フィーリング』とか『ハート』とか『人格』を重要視する奴だ。
ごちゃごちゃ言っていないで、パンツを脱ごう。
我を忘れて抱き合い繋がり合い、強烈な快感に全身を震わせる。
互いの肉体をむさぼり合うその瞬間、好きも嫌いもない。
僕の中を埋めてくれるモノの持ち主を愛す...ただし、その時だけ。
チェリーを捧げられる運命の子を待つようなユノは、僕の嫌いなタイプそのままだ。
ところが不思議なことに、ユノに対しては嫌悪感が湧かない。
僕を辟易とさせた過去の男たちのように、自分の気持ちを押しつけるような傲慢さがない、というか...。
...いや、そうでもないか。
自身の信念を貫くためセックスを拒み続けたユノ...彼女たちが気の毒になった。
セックスへの理想が高いんだろうな、きっと。
ユノ...メンズ用貞操帯をした男...まったくもって強敵だった。
・
パチリ、と目が覚めた。
視界はぼんやり、薄暗い...ここは...?
身を起こそうとした時...。
「あがぁっ!」
ガンと頭を襲う鋭い痛み。
胃袋はムカムカ、口の中はカラカラ、頭はガンガン、全身が重だるい。
滑らした手の平の下の生地感から、自分が寝ているここは布団の上だと分かった。
頭を出来る限り動かさないよう、うすぼんやりした周囲の景色を見回した。
...僕の部屋、じゃない!
「う~ん...」
ここは...どこだ?
この具合の悪さ、昨夜の僕はしこたま飲んだようだ。
下半身の蒸れ感と窮屈さに、洋服を着たまま眠ってしまったことが判明。
記憶をたどる。
昨日の僕は、えーっと...仕事の後、一旦帰宅して着替えをして出かけた。
出会いを求めて、半年前にオープンしたばかりのいい感じのお店を訪れた。
「あっ!」
思い出した!
あそこで『極上の男』をハントしたんだった!
何て名前だったけ?
ユノ...ユノだ!
僕の色気を前にしても、きょとん、としていたユノの真顔を思い出した。
それも仕方ない、ユノはノーマル男子だから。
今どきファッションに僕好みの端整な顔立ちの若い男。
斜め下から、すーすーいう寝息が聞こえる。
寝息の出処は、ベッドの足元に置かれたソファの上の黒い塊。
僕をベッドに寝かして、この部屋の主はソファに寝たってわけか...へぇ、優しい奴じゃないか。
(待って!!)
ユノを落とせず、手近な男で間に合わせようとしたのだろうか。
どうしよう...覚えていない!!
(つづく)
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