~チャンミン~
お兄さんの指に導かれて、僕はイってしまった。
張り詰めた前に指一本触れられることなく、イってしまった。
その場に崩れ落ちそうになるのを、とっさに伸ばされたお兄さんんの腕で支えられた。
太くて逞しい腕に腰を抱かれただけで、僕の身体はびくびく震える。
僕の肌という肌は、全身粘膜になったかのように敏感になっていたから。
お兄さんの胸に頬をくっつけて、彼の鼓動の早さに嬉しくなった。
「...お兄さん」
僕の汗がお兄さんのTシャツに沁み込んでいく。
お兄さんの背中に回した両腕いっぱいに、彼の体温と背中を形作る背筋と骨を味わった。
僕の呼吸が整った頃、お兄さんは僕を真っ直ぐ立ち上がらせて、こう言った。
「...チャンミン。
洋服を着ようか?
このままじゃ風邪をひく」
僕はぶんぶん首を振った。
「やだ。
服は着ない。
このままがいい」
僕は裸に慣れている...何年も何年もそうだったから、寒くもなんともないのだ。
それから、恥ずかしくもなんともない...裸を見られることが仕事だったから。
お兄さんは、「はあぁ」とため息をついた。
困った風を見せても、僕はびくともしない。
お兄さんの背中を抱く腕に力を込めた。
「俺が落ち着かないんだ。
俺のために、着てくれる?」
お兄さんの両腕は宙に浮いたままで、しがむつく僕の背を抱きしめてくれないのだ。
僕は駄々っ子になっていた。
お兄さんの指は素晴らしかった。
やみくもにかき回すことなく、僕の快楽スポットをすぐさま見つけ出してしまった。
かつての客たちは、やみくもに出し入れするしか能がない。
僕が感じているかどうかなんて、どうでもいいのだ。
自分だけが気持ちよくなればいいのだ。
そんな客ばかりだったのが、お兄さんは違った。
お兄さんが客として僕を買い、客として僕を抱いたあの夜のことだ。
前戯なしで始まった行為だったけど、お兄さんは僕の後ろの具合を確かめた上での行為だった。
2本3本と増やしていった指。
お兄さんの長い指でも到達できないそこを、刺激して欲しい。
きっと、お兄さんのものなら届くだろう。
お兄さんの指で念入りに、強引そうで優しく攻められ、僕は我を失った。
快感のあまりよだれを垂らした僕は、お兄さんの前を握る余裕がなかった。
でも、果てて抱きついた時、僕の前とお兄さんの膨らみが重なった。
よかった、と思った。
そして、指だけじゃ足りない、と思った。
その欲求不満が、「服は着ない」と僕を駄々っ子にさせたのだ。
「下着だけでもいいから付けろ」
「やだ。
このままでいる!」
「はあ...」と、お兄さんはもう一度ため息をついた。
お兄さんは辛抱強い。
「わかったよ」
お兄さんは、さらにもう一度ため息をついた。
「そのままでいなさい。
チャンミンは好きなように、したいようにしなさい」
そう言って、僕の後頭部の髪をくしゃくしゃにした。
「...え...でも」
「ソーダ―で割ってあげるから、あのお酒を一緒に飲もうか」
僕の腕からすり抜けて、お兄さんはキッチンに行ってしまった。
僕は途端に不安になってしまって、くしゃりと床に落ちていた下着をとった。
「チャンミンは未成年じゃないよね?」
「はい...多分」
成人しているのは確かだ...でも、本当の年齢なんて分からなかった。
大きなグラスとソーダ―水のボトルを持って、お兄さんが戻ってきた。
「おいで」
手招きされて、僕は素直にお兄さんの隣に座った。
イチゴを漬け込んだリキュールをグラスにとろりと落とし、ソーダ―水を注ぐ。
しゅわしゅわと泡が弾ける綺麗なピンク色。
芯まで透明な氷。
指先を濡らすグラス表面に浮いた水滴。
冷たく甘い液体が、さっきまでの興奮で乾いた喉をすべり落ちる。
細かな泡が僕の舌と喉を刺激する。
「おいしい...」
「おかしいなぁ?
裸でいるんじゃなかったっけ?」
下着をつけた僕の姿に、まるで今気づいたみたいにお兄さんは言った。
「寒かった...からです」
ぼそっとつぶやいて、僕はピンクのお酒の残りを飲んだ。
「ずっと裸でいてもいいんだぞ?」
「...僕は、大人の男です」
「そうだね。
チャンミンは大人の男だ」
お兄さんはさすがだ。
僕はお兄さんを困らせたくないんだもの。
(つづく)
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