~チャンミン~
僕はテーブルに頬杖をついて、コーンフレークを咀嚼するザクザク小気味いい音を聞いていた。
胃がムカムカする僕は、グレープフルーツジュースがやっとだ。
僕に凝視されて、ユノは居心地が悪いようだった。
「食べにくいなぁ。
なんだよ、言いたい事でもあるのか?」
ユノはボウルに直接口を付けて、残ったミルクをずずずっと飲み干すと、汚れた食器を手に席を立った。
「うん。
ユノってカッコいいね」
食器をキッチンに運ぶユノの足が止まった。
そして、振り向いて言う。
「俺を褒めても何も出ないぞ?」
お!
この発言は、僕のことを意識している証拠だね。
昨夜、「僕は男の人が好き」とバラしてしまう作戦は成功かな?
僕の性の対象になっているのでは?と、警戒し出したね。
俄然ヤル気が湧いてきた。
「ジュースのお代わりはいるか?」
「もういいや。
ありがと」
がちゃがちゃと、食器がぶつかる音を派手にたてながら洗い物をするユノは、台所仕事が下手なのかな?
「ねぇ、ユノ」
「何?」
「シャワーを借りてもいい?」
「いいけど...。
着替えは?
汚れたやつをもう一回着るのか?」
ユノは僕の頭から足先まで見た。
「...そういうことになるね」
ちょっと困った風に答えたら、僕の期待通りに、
「俺のでよければ貸してやろうか?
ただし、パンツは駄目だ」
と言って、ユノはクローゼットの扉を開けている。
その中はぐちゃぐちゃに乱れていて、ユノという男は整理整頓が苦手なんだ、と新しい発見。
「昨夜、会ったばかりの素性の分からない、キモイ男に貸せないもんね」
「...その通りだ」
あっさり認めたユノを、見直してしまった。
そう言い切って、ユノは僕に背を向けてしまった。
正直でお人好しで素直なユノを、僕の毒牙の餌食にしてしまうのは、悪いなぁといった気持ちになった。
実をいうと、僕の股間の奥がウズウズしてきたのだ。
2週間の禁欲期間が身に堪えてきたようだ。
身体が寂しい寂しい、と僕に訴えかけている。
今夜あたり...あ、今日は遅番だった...仕事の後、半年前に寝た男を呼び出そう。
僕は抱かれたくて仕方がないのだ。
ユノを落とすには、長期戦になりそうだ。
「くんくん」
ユノの男くさい香り...。
「チャンミン」
ユノから借りたTシャツに顔を埋めて、匂いを嗅いでいた僕はハッとして、僕を呼ぶ声がする方へ向かった。
「バスタオルはこれ。
湯船につかるタイプ?
シャワーだけ?
シャワーの温度設定は分かるよな?
シャンプーは自由に...」
てきぱきと説明をしていたユノはそこで言葉を切ると、僕の髪をじろじろ見た。
「?」
「あんた、シャンプーとかにこだわってるだろ?」
「え...うん」
染めた髪色が褪せないよう、サロンで購入した専用のものを使っているのだ、僕は。
「俺の奴で我慢しろ。
ドラッグストアで買ったやっすいやつだけど」
「ううん。
十分だよ。
...あ、待って」
洗面所のドアを閉めかけたユノを止めたのは、気になっていたことがあるからだ。
「何?」
「まだ何か?」と、もの凄く面倒くさそうに、ユノは僕の方を振り返った。
「ユノって、綺麗な髪をしてるよね。
生え際もしっかり金髪でしょ。
2週間おきとかに通ってるの?」
ユノの頭を指さして質問すると、
「ああ、これね」
ユノは寝ぐせであちこちはねた、自身の髪をかきあげた。
うわぁ、かっこいいなぁと素直に思った。
「これ地毛なんだ」
「えええーーー!?」
「大抵の人はびっくりするよね」
ユノは髪をくるくると指先に巻き付けながら、肩をすくめてみせた。
「嘘っ!?」
僕はユノに近寄り、彼の髪をかきあげては地肌を確かめた。
確かに、つい昨日ブリーチしたばかりのように髪の根元からしっかり金髪だ。
僕の食い気味の接近にもかかわらず、ユノは嫌な顔一つせず、じっと大人しくしていた。
僕の方と言えば、びっくりしてしまって、下心はゼロだった。
こういう企みのない行動だと、ユノは僕を避けたりしないのだ。
ふむ...なかなか繊細なセンサーを持った男だ。
「学生時代は大変だったよ。
黒に染めたりしてさ。
明るい色にしたい人とは真逆のことをしていたわけさ」
「ねぇ。
下の毛はどうなってるの?」
純粋な好奇心だった。
「は、恥ずかしいこと言うなよな~」
ユノの顔は真っ赤に染まっている。
「見せてよ」
「駄目に決まってるだろうが!?」
「僕のも見せてあげるから」
「そういう問題じゃない!」
股間を隠すユノの手首をぐいぐい引っ張った。
「ちらっとだけ。
興味があるんだ」
ついでにユノのアソコも見てやろうなんて...70%くらいかな。
残りの30%はアソコを保護するヘアを見てみたかった好奇心。
「やめろ!」
「わっ!?」
力いっぱい突き飛ばされて、僕は後ろに転がり、ついでに後頭部を洗濯機にぶつけてしまう。
「悪い!」
差し出されたユノの手に引っ張られて、僕は立ち上がった。
「大丈夫か?
痛かっただろう?」
おろおろと心配するユノは、善良過ぎる。
「アソコは頭より濃いよ。
ほら、西欧人もそうだろ?」
「そっか!」
過去に関係を持った男を思い出して、僕は頷いた。
「とにかく!」
ユノはバスルームへと僕の背中をぐいぐい押したのち、ぴしゃりとドアを閉めてしまった。
「早く風呂に入れ。
あんた、仕事があるんだろ?」
「お昼からだから、時間は余裕あるよ」
バスルームの曇りガラスに、ユノのシルエットが浮かんでいる。
スタイルいいなぁ、と見惚れてしまったのだった。
(つづく)
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