「泣くなチャンミン」
ユノは指先でチャンミンの涙を拭った。
「ユノ...」
眉を下げたチャンミンの顔が、くしゃくしゃにゆがんだ。
「僕は...」
「!」
あっという間に、ユノはチャンミンの胸元に引き寄せられていた。
チャンミンは火の玉みたいに熱いユノを、力いっぱい抱きしめた。
(チャンミンにハグされるのは、これで...2度目か?
こらこら、冷静に何考えてるんだ、俺?)
「聞こえてた?」
「うん」
「僕の言ったこと、聞こえてた?」
「聞いてたよ」
「ユノ、寝たふりしてただろ?」
(どきぃ)
「寝てたよ!
うとうとと。
クスリ飲んだし、熱あるし、ぼーんやりなわけ」
「で?」
「『で』って?」
「僕は、ユノのことが好きです」
チャンミンはユノを抱く腕に力をこめる。
(潔い男だなぁ。
こうもはっきり言われると、調子が狂う。
おし!
俺も応えないと)
「俺も...」
ユノは熱めの湯船に浸かっているかのようだった。
38.5℃の体温と、緊張と照れで火照ったチャンミンに包まれて、のぼせそうだった。
「俺も...好き」
チャンミンの腕が一瞬ピクリとしたが、無言のままだった。
「......」
「こらこら、黙るな」
(聞えなかったのか?)
「俺も、チャンミンのことが好きだよ」
「......」
「おーい。
チャンミン?」
「......」
「おい!」
「......」
「好きだって、言ってんだよ!
聞こえただろ?」
チャンミンの胸がくっくと小刻みに揺れている。
「チャンミン?」
(まさか、面白がって笑っているのか?)
「おら!」
チャンミンを睨みつけようと、胸にくっつけていた顔を上げた。
「えぇっ!?」
チャンミンが嗚咽の声を漏らして、泣いていた。
「チャンミン...」
ユノはチャンミンの背中を撫でてやる。
「泣くなよ」
「だって...」
チャンミンはユノを深く抱きしめ直して、ユノの肩に目頭を押しつけた。
熱い涙が次から次へと溢れてきて、ユノのパジャマを濡らしていく。
(チャンミン、泣き過ぎだよ)
「僕は...嬉しい」
「うん、そうだね」
「ユノ...好きです」
「うん、俺も好きだよ」
「...嬉しい」
「俺も、嬉しいよ」
(幸せな気持ちというのは、今の気持ちを言うんだろうな。
僕は、幸せだ。
ユノが僕のことが好きなんだってさ。
幸せだ。
僕もユノのことが好きなんだ)
「好き」の応酬に疲れた2人。
顔を見合わせて苦笑し合う。
「チャンミン、鼻水垂れてるよ」
「え?
...ホントだ」
「しょうがないなぁ」
ユノはパジャマの袖口で、チャンミンの目と鼻をごしごし拭ってやった。
「......」
「......」
自分たちが置かれた状況にはたと気付いた2人の間に、気まずい空気が流れた。
(僕はどうして、ユノのベッドにいるんだ!?
看病するはずが、ユノと一緒に寝ててどうするんだ!?)
(ちっとばかし、くっつき過ぎやしないか?)
「チャンミン...腕、離して。
トイレに行きたい」
口実を思いついたユノは、チャンミンの胸を叩いた。
「ごめん!」
チャンミンの腕から抜け出すと、ユノは半身を起こした。
(いったん身体を離そう。
クールダウンが必要だ)
ぐらりと視界が回る。
「ユノ!
ふらふらじゃないか!」
すかさずチャンミンがユノを支えた。
「うん...だいじょうぶ...」
ユノの動きが止まった。
(足!)
床に下ろそうとした脚を素早く布団に隠した直後、
「わっ!?」
チャンミンに抱き上げられて、ふわっとユノの視界が高くなった。
「こらっ!
チャンミン!」
チャンミンの歩みに合わせて揺れるユノの裸足に、チャンミンは目をそらさないし、何も言わない。
(見られたくないものが、丸見えだ)
いたたまれなくなったユノは、チャンミンの首にしがみついて顔を埋めた。
「......」
意外にがっしりとしたチャンミンの首に、無言で頬をくっつけていた。
(お姫様抱っこなんて...照れるんですけど。
俺は男なんですけど...?)
チャンミンはユノをトイレの便座に下ろすと、「終わったら呼んでね」とドアを閉めた。
「...ふう」
ユノは白い天井を振り仰いだ。
(夢の中みたい。
吐きそうに具合が悪いのに、頭はふらふらなのに、喜びがふつふつと湧き上がってくる。
嬉しいよぉ)
心の中で「ひゃー」っと叫んで、ユノは自分を抱きしめる。
(チャンミンが俺のことを好きだって。
俺も言っちゃった。
両想いだって。
青春ドラマみたい。
大事件だ大事件だ!!)
(つづく)
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