【78】NO?

 

 

~民~

 

はあぁぁぁぁ?

 

チャンミンさん!

 

何を言い出すんですかー!

 

私の『彼氏』ですって!?

 

チャンミンさんが投下した爆弾発言。

 

チャンミンさんは、私をびっくりさせてばかりだ。

 

カーテンから覗かせた顔を見て、「わぁ、チャンミンさん」って声をあげそうだった。

 

でも、我慢して開きかけた口を閉じた。

 

嬉しい気持ちが、その後すぐにぎゅっと嫌な思いで覆われたから。

 

今一番会いたくない人を見て、動揺してしまった自分を必死で堪えて、不機嫌な表情でいた。

 

絶対に笑ってやるもんか、って。

 

私のところに来るよりも、側にいなくちゃいけない人が他にいるでしょう?って。

 

本心は嬉しかった。

 

嬉しかったけど、手放しで喜べなかった。

 

チャンミンさんとリアさんが緊迫した空気を作っていて、しかも私が首を突っ込めない話題で、あの場を離れるしかなかったのだ。

 

チャンミンさんと目が合ったから、あの場に私がいたことはちゃんと認識していたはず。

 

ショックを受けた私を案じて...弁解をしようと、私を追っかけてきてくれたらいいな、なんて思った。

 

チャンミンさんの嘘つき。

 

半年以上、リアさんとエッチしてないって言ってたくせに、どうしてリアさんに赤ちゃんができるのよ。

 

リアさんは恋人なんだから、リアさんと「そういうこと」するのは当たり前のことなのに。

 

チャンミンさんは、リアさんを支えていかないと。

 

引っ越しも中止して、あのお部屋でリアさんと暮らし続けるんだ。

 

全然、喜ばしいことじゃない、私にとって。

 

どうしてだろう。

 

どうしてこんなに面白くないんだろう。

 

どうしてこんなに、私の心は狭いんだろう。

 

チャンミンさんに甘えられなくなることが、どうしてこんなに寂しいのだろう。

 

お兄ちゃんみたいだけどお兄ちゃんじゃなくて。

 

優しいくせにしょっちゅう私を触ってくる、ちょっとスケベな人。

 

触られて嫌じゃなくて、もっと触って欲しいなぁ、なんて思う自分もいて。

 

だから、チャンミンさんが他の女の人...リアさんといちゃいちゃされると嫌な気持ちになるんだ。

 

今頃になって、ようやく気付いた。

 

私はチャンミンさんのことを、異性として見ているんだ。

 

私のことをちゃんと、「女」として扱ってくれた初めての男の人だから。

 

『民ちゃんは女の子なんだよ』って、しょっちゅう言ってた。

 

毎回聞き流していたけど、チャンミンさんは私のことを「女の人」として見てくれた。

 

それにもかかわらず私は、チャンミンさんを異性として意識したらいけない気がして、心にストップをかけていた。

 

だって、チャンミンさんには「彼女」がいるんだもの。

 

『リアとは別れるつもりだ』と聞いた朝の食卓で、嬉しいと思ってしまった自分がいた。

 

 

チャンミンさんをこらしめてやりたかった。

 

忘れてるフリをした。

 

頭を打った拍子に、チャンミンさんのことなんて、忘れちゃってるフリをした。

 

リアさんと結婚するかもしれないチャンミンさんなんて、知らない。

 

チャンミンさんに抱く不信と苛立ちの感情が、私を意地悪にさせたのだ。

 

リアさんと仲の良いチャンミンさんなんか、これ以上知りたくない。

 

だから、「あなたは誰?」って、チャンミンさんなんか「知らない」って言ってみた。

 

記憶喪失の人みたいに。

 

うんと冷ややかに聞こえるように、演技した。

 

チャンミンさんのショックを受けた表情。

 

心底哀しそうな顔をした。

 

意地悪で子供っぽい私は、「チャンミンさんなんか知らない」を貫いた。

 

そうしたら、チャンミンさんは焦ってきて、「僕だよ、チャンミンだよ」って何度も繰り返した。

 

そのうち引っ込みがつかなくなって、「冗談です」って言い出せなくなってしまった。

 

それくらい、チャンミンさんは真剣だった。

 

チャンミンさんに何て言ってもらいたかったのかな。

 

チャンミンさんにとって私はどんな存在なのか、はっきりと聞いてみたかったのかな。

 

「大事な存在だよ」みたいな言葉を期待してたのかな。

 

私は幼稚だ。

 

大きな体を持て余してる甘ったれ屋だ。

 

口ごもって目を伏せたチャンミンさんは、顔をあげると今まで見たことがないくらい真剣な面持ちに変わっていく。

 

そして、私をまっすぐに見つめて言った。

 

予想もつかないチャンミンさんの言葉。

 

「僕は民ちゃんの彼氏だよ」

 

はあぁぁぁ?

 

チャンミンさんはやっぱり、私をビックリさせる人だ。

 

心のキャパシティを一気に超えて、溢れて、洪水になって、私の頭は真っ白になってしまったのだ。

 

 

(つづく)

 

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