素手で触れるには、そこは相当な抵抗感はあるはずだ。
手や背中に触れるのとはわけが違うのだ。
心置きなく素肌と素肌を重ね合わせることを、慌てたらいけない。
僕のお相手は極めて綺麗な男で、かつ普通じゃない傾向を持った男なのだ。
ユノの手は僕の背筋を上下に往復するだけだったから、抵抗があるんだろうなぁと推測したんだ。
「手袋...する?」
ユノから身体を離し、手袋を取りに温室を出ようとしたら...。
「その必要はないよ」
ユノは首を振っているけれど、僕を傷つけまいと無理をさせたくない。
「僕もするから、ね?」と言った。
互いに手袋をするのは、躊躇なく僕に触れて欲しいから。
「...イヤなのか?」
ユノの固い声に「違う違う!」と、きっぱり否定した。
「『ユノが』じゃなくて、『僕が』汚いかもしれない、っていう意味だよ」
「僕が」の「が」を力強く発音した。
ユノは周囲のばい菌を恐れる以上に、周囲を汚してしまうことに神経を払って生活している。
ユノと恋人同士でいるためには、僕も神経を払わないといけない。
気が早い僕はもう、ユノと付き合っている気分でいた。
「好きな気持ちを交換したばかりで、恋人同士になったとは言えない。
でも、今夜の僕らはこれから裸になって抱きあおうとしているのだ。
よりによって、LOSTで。
いいのかなぁ。
背徳感が僕らの興奮を加速させていた。
互いのものがユノのパジャマの、それから僕のワンピースの生地を押し上げていた。
さすがにコンドームは手に入らない。
スタッフステーションの注文用紙に『コンドーム1箱』と書くわけにはいかない。
なぜって、不要だからだ。
僕に強く勧められ、渋々ユノは手袋をはめてくれた。
次いで、僕にもはめてくれた。
僕の手は緊張と興奮の汗で湿っており、手袋をはめるのにてこずっていた。
伸縮性ある被膜が、指先から順に包み込んでゆく。
丁寧にはめてゆくさまが、まるで僕の指がアレにように感じられた。
薄い皮膜がぴっちり張り付いた指1本1本が色っぽかった。
「はあ...」
思わず甘い吐息を漏らす。
ワンピースの裾の下から、ユノの手がするりと滑り込んできた。
「...っ...」
身をすくめてしまった僕に、「大丈夫、俺に任せて」と耳元で囁かれた。
怖い。
僕が受け入れる側だなんて...初めてなんだ。
自分の指の経験はあるけれど、自分以外のモノが僕の中に侵入するなんて。
深呼吸を繰り返して、ユノの指が這ってゆく皮膚に意識を集中させた。
「...あぁ...」
全身の力が徐々に抜けてゆく。
興奮で体温が上がったことで、ユノの香りがふわりと鼻腔をかすめた。
初めて嗅いだユノの有機的な香りだった。
ユノに気づかれないように、すぅっと鼻で空気を吸い込んだ。
これからの動物的な行為を前に、石鹸と消毒薬で清められていた肌が生気を帯びはじめる。
つるつるした指でお尻を撫ぜあげられるたび、ぞくりぞくりと下腹が痺れた。
僕はユノの肩に頭をもたせかけ、3年以上ぶりの喘ぎ声の甘さが新鮮だった。
「しーっ」
「ごめん」
就寝時間後のフロアは空調の音がするのみ。
スタッフの見回りの時間にはまだ間があるけれど、怪しい人声はドアの隙間から容易に漏れるだろう。
僕はもともと、喘ぎ声が大きいのだ。
僕のお尻で遊んでいたユノの指が、いよいよ下着の下に忍んできた時、彼の指がぴたりと止まった。
女性ものの下着が気になるのだろう。
「......」
僕は息を止めて、じぃっとしていた。
ユノも何も言わなかった。
しばらくして、ユノの指が再び動き始め、僕はほぅっと息を吐いた。
当然だけど、ここに潤いを足すものはない。
ユノはワンピースの下から手を引き抜くと、その指を舐めた。
「...っ」
「チャンミンも...足して」
差し出された中指を咥え、たっぷり唾液をからませた。
ユノのものも僕のものも、混ざり合ってしまえば、ほら、汚くならない。
(つづく)