僕の両手で抱えられたユノの腰は数度小刻みに震え、それが収まった頃になって彼の両目は開いた。
ユノはしゃがむと、腰の辺りで彼を見上げていた僕と目を合わせた。
突如、顎をむにっとつかまれた。
「!」
あひる口になった中にユノの長い指が差し込まれ、口内をぐるっとかき混ぜられた。
「!!」
抜き出したユノの指には、どろっとしたものがまとわりついていた。
ユノがたった今吐き出したものだ。
「俺もチャンミンも汚れた」
ユノの言い方にムッとしてしまった。
「『汚れた』っていう言い方がなぁ...。
今さら、なんだよ。
そうだよ!
汚れないことにはエッチはできないよ」
「今までのは勢い任せというか成り行き任せというか...欲に従ってがむしゃらだった。
深く考えないようにしていたんだ」
ユノの両腕が僕の背中にまわり、柔らかく抱きしめられて彼の胸の中に閉じ込められた。
僕はレンガ敷の地面に直接女の子座りをしているし、ユノにいたっては片膝をついている。
ユノの潔癖はどこにいってしまったんだろう?
「ユノ...?」
「冷静になった時が怖かったからだよ。
だから、頭の外に追い出していた。
潔癖だけどこうやって誰かを好きになることはあるし、性欲もある。
好きになった奴には近づきたい。
ご存知の通り、俺は汚いものが大嫌いだ」
「汚れることも、汚されることも嫌い、でしょ?」
「ああ」
「それから...相手を汚してしまうことも...?」
この言葉に、僕の肩につけていたユノの頭が持ち上がった。
「チャンミン...」
そうじゃないかな?と思っていたことだ。
「恋愛とばい菌との攻防戦でユノは大変だったと思う。
彼にしても僕相手にしても、さ。
えっちなんて、大抵は裸でやるものだし、綺麗とはいえないものがいろいろ出る。
激しい時なんて、汚れ度MAXだよ。
服を着たままでもできるけど、僕はやっぱり裸で抱きあいたい」
「......」
「ユノはもしかして、僕を汚してしまうのを怖がってるんじゃないかなぁ、って思っていた。
自分のもので相手を汚してしまうのは嫌だ...これは僕だって同じこと思ってるよ。
『汚い』って思われたり、『臭い』って言われたらショックをうけるよ」
「......」
「その度合いがユノは強いんだろうな...と思った。
それなのに、ユノの場合は愛情が増せば、潔癖というルールがキャンセルされるんだよ。
『許可する』っていうのかな?
僕は専門家じゃないから、あくまでも僕の素人的解釈だからね。
ここは喜ぶべきなんだ。
だってさ、ユノに触れることを許されたんだから」
最後の方はちょっと卑下し過ぎたかな、と思わないでもない。
今日のところは、ユノ自身が潔癖症でいる理由...第二の仮説については触れずにおいた。
現段階では筋道だった説明ができず、もやもやしている。
「俺に許されたなんて...そんなこと言うなよ」
ユノはふぅ、と息を吐き、僕の頭を撫ぜた。
「許されたのは俺の方さ。
チャンミンに触ることを、俺が許されたんだ。
さっき言っていただろう?
俺は『相手を汚すことを恐れている』って」
「うん、言った」
「さっき、チャンミンからフェラされてた時に分かったんだ。
エロいことをやりながら、彼との時はどんなんだったっけ?と思ったんだ」
「ちょっ、ひどいよ!」
ユノの腕の中から逃れようともがいたが、悔しいことに彼の力の方が上だった。
「比べたんじゃない。
分かったんだ」
「じゃあ、何だよ」
ユノの過去については寛大に受け止めようと努力してきた僕だった。
でもなぁ、アレしている時に比較されるのは、もの凄く嫌だ。
僕はユノの胸から引きはがすように身を起こし、彼を置いて温室を出ようとした。
「チャンミン!
ちゃんと説明するから。
お前に触ることができたワケが分かった、ってことなんだ!」
僕は勢いよく振り返った。
・
全部受け入れるか否かが、ユノの愛し方なのだ。
唯一無二と敵の2択しかない。
ユノの台詞、『俺もお前も汚れた』はそのままの意味だった。
ユノと僕は一体になった。
一体になったのだから、相手を汚らしいと思う必要はない。
とある泥沼に僕らは共に沈み、僕らの身体にはその沼の泥が塗りたくられている。
僕らを汚すものは同一のものだから、抱き合うことで互いを汚す汚さないの概念はなくなる。
ユノの台詞の意味はそう言う意味だったのだろう。
僕の心の小箱の鍵を、ユノは飲み込んだ。
そこでユノは、僕の心を得た。
次に、互いの身体のデリケートな箇所を触れあうことで、肉体を得ようとしている。
重い...ユノの愛し方は確かに重い。
大切な人を失って、その喪失感に廃人になりかけた僕ら。
地底深くまでぽっかり空いた喪失の穴は、熱く重い恋じゃないと埋められないのだろうな、と僕は思ったのだ。
(つづく)
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