(17)NO?-第2章-

 

~チャンミン~

 

モヤモヤと渦巻く不快感で眠れなかった。

 

理由はもちろん、自分がしでかしてしまった一件だ。

 

部屋に戻った僕は、飲みたくもないコーヒーを淹れ、飲みたくもないビールを開け、そわそわと落ち着かなかった。

 

荒れた感情を落ち着かせたかった。

 

...僕は最低だ。

 

好きで好きで好きでたまらない子と、念願叶って彼氏と彼女の関係になれた。

 

それなのに...。

 

布団に入り携帯電話のディスプレイをじっと睨みつけた。

 

民ちゃんからのメッセージはない。

 

僕こそ、例えば「さっきはごめん」の謝罪のメッセージひとつ送っていなかった。

 

泣いて帰っていった、民ちゃんを追いかけなかった。

 

もしかしたら民ちゃんは待っていたかもしれないのに。

 

今夜の民ちゃん発言が相当堪えていた僕は、彼女に意地悪をしたかったのだ...敢えて。

 

なんと言って、民ちゃんと仲直りしよう。

 

仲直りもなにも、僕が一方的に腹をたてていた喧嘩だ。

 

リアと交際していた1年間で、僕は仲直りの方法を忘れていた。

 

 

民ちゃんが田舎を出る決心をしたのは、ユンと出会い誘われたからだという。

 

おそらく仕事についても、最初からユンの元で働く約束になっていたに違いない。

 

とろけた表情で、でも寂しそうに「片思いです」と語っていた。

 

ぺちゃぱいなのを異常に気にしていて、胸が大きくなるサプリメントはないかと僕に尋ねた。

 

「裸になる予定でもあるの?」と冗談半分で質問したら、動揺していた。

 

昨日の昼間、ユンの事務所で「ヌード」の言葉にも、民ちゃんはえらく反応していた。

 

(ん...?

ヌード!?)

 

ガバリ、と跳ね起きた。

 

民ちゃんは過去の恋愛事情を、馬鹿正直に...彼氏には内緒ごとはいけないと...ぶちまけたわけじゃなかったとしたら...。

 

「相談したいことがある」と言っていた。

 

聞く耳も持たなかった僕はその言葉を一蹴し、会話を打ち切ってしまった。

 

「ユン」ワードに強烈な嫉妬心に襲われた僕は、執拗に民ちゃんを責めた。

 

民ちゃんに好きな人が過去にいようと、今の彼女の気持ちが僕だけに向いていてくれるのなら、それだけで素晴らしいことなのに。

 

それも、僕と瓜二つの子と、運命とも言える出逢いの人を得たにも関わらず。

 

民ちゃんの場合は、せいぜい「片想い」だ。

 

一方の僕はといえば、リアと交際していて同棲までしていた。

 

片想い程度で取り乱した僕は、民ちゃんを独占したい欲を膨らませていたのだ。

 

民ちゃんはこれまでにユンのモデルを務めていたらしい。

 

「そうか...!」

 

民ちゃんの相談事とは、「ヌードモデル」についてだったんだ!

 

「このまま続けてもいいですか?」と、僕に許可をもらおうとしたんだ。

 

ユンの元で働きつづけることなのか、彼氏がいながらヌードモデルを続けることなのか、その辺は民ちゃんに尋ねてみればいい。

 

呑気に寝ていられなかった。

 

「しつこいな」と吐き捨てた時の、民ちゃんの傷ついた表情と言ったら!

 

気遣いのできる男だと実は、自負していた。

 

ところが、自己中心的で平気で相手を傷つけることができる面を持っていた。

 

僕はコートを羽織り、外へと飛び出した。

 

既に時刻は深夜過ぎだったけど、構わなかった。

 

民ちゃんはすでに眠ってしまっているだろうけど、叩き起こそう。

 

ああ、やっぱり。

 

謝罪の言葉を伝えたくて、民ちゃんの眠りを邪魔しようとしている僕。

 

恋に盲目になった僕は、あきれるほどカッコ悪い男に成り下がってしまうのだ。

 

民ちゃんの隣にいるとリラックスしている証拠に、気取っていられない。

 

民ちゃんとはまだ体の関係はない。

 

ないけれども、心同士は一体に溶け合っていると信じているのは僕だけのようだ。

 

民ちゃんの方はそうでもなさそうなのが、寂しい。

 

どこか遠慮がちで、僕に隠し事をしている。

 

せっかく民ちゃんが、そのひとつを開示してくれたのに、僕の拒絶っぷりときたら...自分でも驚いている。

 

民ちゃんには偉そうなことを言っておいて、実のところ、彼女のことは何でも知りたい。

 

不都合なことは知りたくなくて。

 

自分の中に我儘な子供が存在することに、驚いた日だった。

 

 

深夜の住宅街は暗く静かで、僕の靴音とはあはあ言う呼吸音だけが耳に響く。

 

吐く息が白い。

 

羽織ったコートが暑い。

 

走れば10分足らずで到着する。

 

民ちゃんのアパートを見上げた。

 

さて、これからどうしようか。

 

チャイムを鳴らし、ドアを叩くわけにはいかない。

 

まずは電話だ!

 

「馬鹿か、自分は?」

 

踵を返し、僕のマンションまで全速力で戻った。

 

携帯電話をひっつかみ、民ちゃんの元へ引き返した。

 

「はあはあはあはあ」

 

両ひざに手をつき、かがんで息を整えた。

 

アパートの2階を...民ちゃんの部屋のある辺りを見上げた。

 

「あ...!」

 

窓から灯りが!

 

僕は門扉を開けた。

 

 

(つづく)

 

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