(30)君と暮らした13カ月

 

 

~冬~

 

 

顔を蹴られて目覚めると、真横に大股を広げて眠るチャンミンがいた。

 

かさかさに乾ききった鼻をくすぐった。

 

チャンミンの鼻がもぞり、とうごめき、次いで「ぶちゅん」とくしゃみをした。

 

私はチャンミンのくしゃみをする寸前の表情が好きなのだ。

 

「ぶっ」と音がした。

 

チャンミンのおならだ。

 

この子はおじさんみたいなのだ。

 

もうしばらく寝かしておこう。

 

半身だけ起き上がり、うーんと伸びをしてカーテンを開けた。

 

「あ...」

 

窓の外の景色を見るなり、私は眠ったままチャンミンを抱き上げた。

 

「チャンミン、起きて!」

 

窓を開け放ち、チャンミンに外の景色を見せてあげた。

 

「初雪...」

 

チャンミンの鼻に粉雪が舞い落ちるなり、瞬時に消えていった。

 

 

雪はたった一日でどっさり降った。

 

年が明けてからのこの日の雪は、2か月分をとり戻すかのような降り方だった。

 

丸3日眠りこけてしまい、目覚めて外を見てびっくり...それくらいどっさり降った。

 

ユノさんが仕事を休むなんて余程辛いのだろう。

(この2年間、ユノさんは欠勤したことがない)

 

昨夜から今にいたるまで、洗面の為以外は部屋にひっこんだままだった。

 

私は朝からユノさんのお世話に張り切っていた。

 

チャンミンも何かお手伝いをしたいのだけど、実際は何もできず、そんな自分が悔しくて、私の後をついて回っている。

 

卵を落としてとろとろに炊いたお粥をお盆にのせ、ユノさんの寝室のドアをノックした。

 

ユノさんはげほげほ咳きこみながら身体を起こそうとするから、私はそれを押しとどめた。

 

「買い物に行けていないね。

食べるものはちゃんとある?」

 

「だ~いじょうぶ。

缶詰もジャガイモも何でもいっぱいあるよ」

 

事実、1週間閉じ込められてもメニューと量に困らないくらい、食糧棚は充たされていた。

 

ユノさんは育ち盛りの私とチャンミンのために、他は切り詰めても食費だけは惜しまなかった。

 

「タミーは?

運動不足になっているから、寝ていたらたたき起こして外に出してあげてくれないか?」

 

「今チャンミンと散歩に行ってるよ」

 

「誕生日までに風邪を治さないとなぁ」と、ユノさんはガラガラ声で言った。

 

「そうだよ。

チョコレートケーキのレシピはばっちりだよ。

ラジオでやっていたの」

 

「プレゼントはお菓子のレシピ本にしようか?」

 

私は口をへの字にして、「嬉しいけど、それは嫌だ」と答えた。

 

何かこう...もっと華やかなもの、珍しくて、わあっと心躍るものがよかった。

 

実際のところ、私の誕生日は正確な日づけはよく分からない。

 

分かっているのは冬だということで、それならばと年が明けた日にしようとユノさんと決めたのだ。

 

1年前、私の誕生日を迎えてしばらくのちに、生後2週間のチャンミンがやって来た。

 

だから、私とチャンミンの誕生日はだいたい同じなのだ。

 

チャンミンが我が家にやってきてもうすぐ13ヶ月。

 

私は13歳になった。

 

そこに運命みたいなものを感じとった。

 

 

ラジオによると夜半に吹雪になるそうだ。

 

家が雪で埋もれてしまったら困る。

 

雪が降り止んでいる今のうちにと、私は防寒対策をばっちりした上で外に出た。

 

もちろん、チャンミンも一緒に。

 

私がせっかく作った道を、前足を高速回転させたチャンミンによって埋められていく。

 

チャンミンなりにお手伝いしているつもりなんだろうけど。

 

「チャンミン!

邪魔しないでよ!」

 

私も負けじと、スコップですくった雪をチャンミンに浴びせた。

 

チャンミンの口角は上がり、満面の笑顔に見えた。

 

白いまつ毛1本1本に雪片が乗り、すぐに溶けて雫になった。

 

「せっかくだから、裏口まで道を作ってあげよう!」

 

「僕もお手伝いします」

 

チャンミンがラッセル車となって作った小径を、私がスコップで太い道へと変えてゆく。

 

足元だけを見てせっせと、無心で雪をかき続けた。

 

裏口まで到達する頃には、喉はからから、お腹も空いていた。

 

「おやつの時間にしよう!」

 

「大賛成です!」

 

私はスコップを肩に背負い、こしらえたばかりの小径を前庭へと戻っていった。

 

「っ...!」

 

息を飲んだ。

 

ポーチの前に誰かいた。

 

配達員以外の不意打ちの訪問者に、まず驚いた。

 

ポーチの階段を上る様子のないことに不審に思った。

 

何かをしているのかすぐには分からなかった。

 

ポーチの柱に何かを貼りつけているところだった。

 

汚い言葉を羅列した紙だ。

 

季節の変わり目になると突如現れる、あれだ。

 

チャンミンは頭を落とし、「くるる」と喉を鳴らし始めた。

 

 

(つづく)

 

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