(18 最終話)19歳-初恋-

 

 

 

「血迷った行動は...止めなさいっ!」

 

「ユノ...ダメですよ...何てことを...」

 

チャンミンはおろおろしている。

 

「叔父さん...。

俺はね、しませんからね。

叔父さんと変なことはしたくありません」

 

「...変なことって。

何を言ってるんだね。

君だって、早くしたくて仕方がなかったんだろう?

指をくわえて見ているだけだったのが、やっとでその時が来たんだぞ?」

 

叔父さんの顔は歪んで、醜い。

 

「あぁっ!」

 

バランスを崩したフリをしたら、一歩前に近づこうとした叔父さんの足は止まる。

 

「俺のことはどうでもいいんです。

そんなことよりも...チャンミンです」

 

「...チャンミン?」

 

「とぼけないでください。

チャンミンが欲しかったんでしょう?」

 

「......」

 

「いつからか叔父さんが欲しいのは、チャンミンになっていたでしょう?

俺は気づいていましたよ。

駄目です。

チャンミンだけは、絶対に駄目です!」

 

「...アンドロイドなのに?

お前の身代わりに、こいつを差し出すという話じゃないのか?」

 

「逆ですよ。

チャンミンの身代わりになるのは、俺の方です」

 

「...頭がおかしいんじゃないのか?

こいつは...」

 

叔父さんは親指で後ろに立つチャンミンを指した。

「アンドロイドなんだぞ?

こいつらが存在するのは、人間を助けることだろう?」

 

「チャンミンは俺のものです。

そのチャンミンを傷つけるようなことをしたら、俺は許しませんよ?」

 

叔父さんの呆れた表情を見れば、俺ごときが口にする「許さない」、なんて迫力がないものなんだ。

 

だから...。

 

「もし、チャンミンに手を出したりなんかしたら...」

 

俺は叔父さんとチャンミンに背を向けた。

 

「ユノ!」

 

屋敷は山林の頂に建てられている。

 

濃紺の夜空の円周を、山々の黒いぎざぎざが縁どっている。

 

瞬く無数の星も、今の俺には目に入らない。

 

「...こんな風に。

こんな風に...。

叔父さんへの恨みつらみを全部手紙に書いて、例えばここから飛び降りる、とかしますよ?

...困りますよね?」

 

振り向いたら、本当にバランスを崩してしまいそうだったから、俺は背中を見せたまま言った。

 

「チャンミンは俺のものです。

俺のものに手を出さないでください。

そこにいるアンドロイドは、『俺だけ』のものです。

アンドロイド相手に...なんてお思いでしょうね?

そうですよ。

俺は、そこにいるアンドロイドを愛しています。

子供のくせに、愛の何が分かる?ってお思いでしょうね?

でもね。

俺はチャンミンと一緒に育ったのです。

俺にはチャンミンしかいないのです。

そう思う気持ちこそ...『愛している』じゃないですか?

チャンミンはアンドロイドです。

叔父さんは、アンドロイドなら何でもしてもいいとお思いです。

でもね。

さすがに叔父さんでも、俺の愛する人を傷つけようとは出来ないでしょう?」

 

「......」

 

俺はそこに立ち続けた。

 

足音と扉を開け、閉まる音。

 

「...ユノ」

 

俺の足首に、チャンミンの温かい指が触れた。

 

緊張の糸が切れ、膝の力が抜け、後方へ傾いた身体。

 

大丈夫、チャンミンが抱きとめてくれるから。

 

羽交い絞めされた俺は、チャンミンの腕の中でくるりと向きを変え、彼の胸にしがみついた。

 

押し当てた耳の下で、チャンミンの心臓の音がドックンドックンいっている。

 

「...チャンミンっ...」

 

「...ユノ。

アツアツですよ...寝ていないと駄目でしょう?」

 

鼻声になっている。

 

チャンミンは感動屋だから。

 

泣いても仕方ないか。

 

俺だって似たようなもの。

 

今夜は満月。

 

涙でぐちゃぐちゃな顔を、チャンミンに全部見られてしまった。

 

 

 


 

 

Dearチャンミンさん

 

 

前略。

 

覚えていらっしゃいますか。

 

ユノの友人、ドンホです。

 

突然のお便り、失礼します。

 

これまで僕は、父の転勤について世界中を旅してきました。

 

僕も高校生になったということで、僕だけがここに残れるようになり、ようやく一つ所で落ち着くことができそうです。

 

僕は今、海辺の街に住んでいます。

 

寮から5分も歩けば、浜辺に出られます。

 

水は透き通っていて、とても綺麗な海です。

 

 

僕があなたに手紙を書こうと思ったのは、ユノのことで伝えたいことがあったからです。

 

お気づきのように、僕はユノに恋をしていました。

 

僕にとって初めての恋でした。

 

過去形で書いている通り、僕とユノは現在、ただの友だちになっています。

 

一緒にボートに乗った日のことを覚えていますか?

 

楽しかったですね。

 

あなたを見るユノの目が、とても優しかったです。

 

気付いていましたか?

 

ユノの話題といえば、あなたのことばかりでした。

 

その時のユノの顔といったら、とても楽しそうで、僕はジェラシーを感じてしまいました。

 

 

あなたはアンドロイドです。

(僕の家にもアンドロイドがいます。父の持ち物です)

 

悔しかった僕は、ユノに意地悪をしました。

(ユノには内緒です)

 

アンドロイドはいくらでも替えがきくんだよ、って。

 

僕の家にいるアンドロイドも3代目だよ、って。

 

ユノを怖がらせようと思ったのです。

 

僕の話を聞いたユノは、深く考え込んでいるようでした。

 

あなたが人間ではないことを、あらためて思い知ったのでは?と思います。

 

 

僕とユノは、前ほど頻繁ではありませんが、手紙のやりとりを今も続けています。

 

その中でもユノは、あなたのことばかり書いているんですよ。

 

僕が思うに、ユノはあなたのことが好きです。

 

恋をしていると思います。

 

ユノは照れ屋だから、その気持ちをあなたになかなか伝えられないんじゃないかな。

 

どうです、当たっていますか?

 

あなたもユノに恋をしているのではないですか?

 

当たりですか?

(僕はその辺、鋭いのです)

 

 

人間とアンドロイドの恋について、ユノはもちろん、あなたも悩んでいるのではないでしょうか。

 

安心してください。

 

僕は人間とアンドロイドの恋は成立すると思っています。

 

なぜかというと、僕の父もそうだからです。

 

ユノから聞いているかどうかは分かりませんが、父はアンドロイドの女性を愛しています。

 

その女性は、僕の母と同じ顔をしています。

 

生身の母とは共に暮らせないけれど(事情について詳しくは述べられませんが)、

 

アンドロイドだけど、彼女の性質やハートは母と同じだと思っています。

 

彼女はこれまで2回、命を落としました。

 

でも、アンドロイドなので、新しい彼女をまた手に入れることができたのです。

 

新しい彼女は、かつての彼女と同じでした。

 

いくらでも代わりがきく、というのは悲しく見えるでしょう。

 

でも、父は永遠に彼女といられるのです。

 

そして、新しくやってきた彼女も父を愛しているのです。

 

彼女は献身的に父に尽くしています。

 

不思議でしょう?

 

あなたのことだから、その不思議を知っているでしょうね。

 

 

いつかユノと一緒に、僕の街に遊びに来てください。

 

海水浴を楽しみたいところですが、あなたは水が苦手でしょうから、浜辺でキャンプなんかどうですか?

 

最後に。

 

ユノはあなたのことを心底、大事にしています。

 

このことに自信を持ってください。

 

ユノによろしく。

 

ドンホ

 

P.S.

この手紙はユノには内緒にしてください

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

ユノへ

 

 

16歳の誕生日おめでとうございます。

 

早いもので、あなたの元にやってきて9年が経ちました。

 

僕の可愛い可愛いユノが、かっこいい大人に近づいて、あと7センチで僕の背に追いつきますね。

 

ちょっと悔しいです。

 

大人になっていくのを側で見ていて、嬉しい反面、少し寂しかったです。

 

一緒に虹を見ましたね。

 

生まれて初めて見た、美しい景色でした。

 

なぜだか分かりますか?

 

僕のことを初めてLOVEって言ってくれた日だったんですよ。

 

人生で最高の、一大イベントでした。

 

あの虹を僕は一生忘れません。

 

さらに、僕のことを愛していると言ってくれました。

 

僕を助けてくれた時のことです。

 

LOVEに溢れた一日でした。

 

あなたのその言葉、僕の一生の宝物です。

 

僕もあなたを愛しています。

 

とても。

 

 

あなたの永遠の味方 チャンミンより

 

 

P.S.

バルコニー事件ももちろん、一大イベントでしたよ。

 

思い出すと、ドキドキします。

 

 

P.S.

僕はあなたへプレゼントを買ってあげられません。

 

毎年恒例で申し訳ありませんが、『何でも言うことをきくチケット』を贈ります。

 

今までのチケットを無くしていないでしょうね?

 

あなたのことだから、いっぺんに全部使いそうで、僕はドキドキしています。

 

チケットを出されなくても、僕はあなたの言うことは何でもきくんですけどね。

(追伸の方が長くなりそうなので、この辺で)

 

 

『初恋編』おしまい

 

 

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