(6)19歳-出逢い-

 

 

俺の腹の上で果ててしまったチャンミンの背中を撫ぜる。

 

しっとりと汗で濡れた背中を、真心を込めて撫ぜる。

 

俺の鎖骨に鼻先をこすりつけながら、チャンミンは「好きです...」とつぶやいた。

 

何度も聞かされ続けてきたのに、その度に初めて聞いたみたいに俺は感動する。

 

「俺も」と囁いて、チャンミンの濡れた額に唇を押し当てた。

 

こんなに熱い肌をしているのに、俺と繋がることができるのに、チャンミンは人間じゃない。

 

全人種のよいところだけを集めて作られた、美しすぎる過ぎるアンドロイド。

 

何年経っても、この事実に哀しくなる。

 

 


 

 

チャンミンは物識りだ。

 

チャンミンの頭の中にコンピュータが入っているらしい。

 

身体のどこかに蓋やボタンがあるんじゃないかって、チャンミンの全身をくまなく探してみたけど、見つからない。

 

「つまんないの」

 

蓋を開けたら、赤いランプが点滅していたり、カラフルな電線が何本もあったり、本やアニメ、映画に登場するロボットらしいところを、チャンミンから探そうと躍起になっていたのだ。

 

「だから言ったでしょう?

僕は研究室レベルの門外不出、開発段階の最新鋭のアンドロイドなのです。

スイッチとかハッチとか、そんな無粋なものはないのです」

 

威張って胸を張るチャンミン。

 

膨れた俺は、チャンミンのおやつを全部口に頬張ってやった。

 

「ああっ!

美味しいものを最後に残していたのに...」

 

チャンミンは大人なのに、食べ物のこととなると目の色が変わる。

 

コンピュータは間違った答えは出さないと聞くのに、チャンミンには抜けているところがある。

 

カーディガンを裏表逆に羽織っていたり、文字の綴りを間違えたり。

 

(この時は、チャンミンは寝不足だったんだ。

怖い話を読み聞かせてもらった夜、寝付かれなくて一晩中、チャンミンにベッド脇に居てもらった。

チャンミンは一睡もせずに、俺と手を繋いでくれた)

 

「チャンミンはアンドロイドなのに、なんで間違えるかなぁ?」

 

指摘して笑うと、

 

「完璧すぎたら面白くないでしょう?

わざとお馬鹿な部分を敢えて出しているのです!」

 

って、威張って言うんだ。

 

俺みたいにドジなところがあったり、おやつを盗られて泣き真似をしたり、チャンミンは人間みたいだ。

 

人間よりうんと、うんと優しい心を持っている。

 

周囲の大人たちを思い浮かべながら、俺はそう思った。

 

「僕が間違える理由が...バグだったらどうします?」

 

「バグ?」

 

「プログラムの不具合のことです。

修理が必要かもしれませんね?」

 

と、意地悪気に片目を細めてみせるから、俺はチャンミンの腰にしがみつく。

 

「ヤダよ。

修理っていったら、工場に行っちゃうんでしょ?

行かないで」

 

「ふふふ。

行きませんよ」

 

チャンミンの温かい手が振ってきて、優しく俺の頭を撫ぜる。

 

「ミルクをこぼしたり、ドアに指を詰めたり、ユノの足を踏んづけてしまうのは、僕のありのままの姿です。

そうプログラムされているから、バグではありません。

大丈夫。

どこにも行きませんよ」

 

「よかった」

 

俺と同じ目線になるよう、チャンミンはしゃがんでくれる。

 

薄茶色の宝石...琥珀...みたいな綺麗な瞳。

 

「ユノと会話をするうちに、言葉や言い回しを覚えたり、ユノの性格を知るのです」

 

「チャンミンは優秀だね」

 

「はい。

僕はユノのために生きていますから。

生きる...って言い方も変ですけどね」

 

ふふっと微笑んだチャンミン。

 

「チャンミンは子供の頃、何して遊んだ?」と質問した初冬の木立の中。

 

あの時と同じようにひっそりと、寂しそうな笑顔。

 

「俺もチャンミンのために生きる!」

 

「お!

勇ましいことを言ってくれますねぇ」

 

チャンミンに頭をかき抱かれて、苦しいけど可笑しくって俺はキーキー叫び声をあげてしまう。

 

「嬉しいです」

 

俺の言うコト成すコトを、大きくて綺麗な目とぴんと立った耳でひとつ漏らさずキャッチしてくれるんだ。

 

「嬉しいですけど、ユノはユノ自身のために生きてくださいね。

僕の心配はしなくていいですから」

 

「わかった」とチャンミンの手前そう言ったけど、心の中では

 

「チャンミンに好きになってもらえるかっこいい大人になろう。

強い大人になって、チャンミンを守ってやろう」

 

と思っていた。

 

 

 

 

今夜は階下が騒がしい。

 

バルコニーに出て下を見下ろすと、駐車場は車でいっぱいだった。

 

父さんがお客を沢山呼んで「パーティ」を開くらしい。

 

昼間から嫌な予感がしていたけど、当たりだった。

 

使用人たちが屋敷内をあっちこっちで立ち働いていて、大勢の大人たちに放っておかれていられるから、ちょっとだけホッとした。

 

あの赤い車は、伯父さんのもの。

 

意地悪な従弟たちに見つからないように、チャンミンを隠さないと。

 

従順なチャンミンを玩具にするに決まっているから。

 

従弟たちによって酷い目に遭わされたチャンミンを...俺が8歳のとき...思い出すと、怒りと自分の不甲斐なさに身体が震えるのだ。

 

 

 

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