~チャンミン~
「えっと...」
行き場を失った、僕の両手。
「えーっとね、ユノ?」
僕の背中に回された、ユノの両手を意識する。
ゆうべのようにひんやりとした手じゃない。
汗ばんで、熱い熱い手だった。
僕の喉はからからだった。
(参ったなぁ)
ユノは、僕の胸に顔を押し付けたまま、低い声でつぶやいている。
「...心配したんだから」
「あのさ、ユノ?」
「......」
ユノは僕の胸に頭を押し付けたまま動かない。
ユノに驚かされて、現状把握できずにいたけど...。
この状況は、かなり...かなり...恥ずかしい...。
僕はなんて格好をしてるんだ。
ユノの涙も止まったみたいだ。
「あのね、ユノ?」
「......」
「あのね」
僕は出来るだけ優しい声を意識して、ユノに話しかけた。
「僕...パンツを履いても...いいかな?」
「!」
ぴたっと、ユノの動きが止まった。
僕は、じっと彼の動きを見守っていた。
ユノは、そうっと腕をといた。
小さな声で「失礼しました」と言うと、ロボットのように回れ右をして、バスルームを出て行ったのであった。
(えっ?)
「はぁ...」
僕は深く深く、ため息をついた。
(びっくりしたー)
今日の僕はため息をついてばっかりだ。
急展開過ぎて、追いつかないよ...。
湯上りだった身体も、すっかり冷えてしまった。
脇の下にひどく汗をかいていたようだ。
僕は下着をつけ、黒いスウェットパンツとTシャツを身に着けると、ユノを追った。
ユノの想像力が、ずいぶんとたくましいことを、ひとつ学習した僕だった。
・
「さあさあ、たんと召し上がれ」
ユノはビニール袋からどんどん取り出す。
ダイニングテーブルじゃなくて、ここがいいとユノが言うから、床に座って彼からの差し入れを食べることにした。
僕はあぐらをかいて、ユノと対面して座る。
「ねぇ、ユノ...。
セレクトが妙というか、変わってるというか、偏っているというか...」
「えっ?
どこが?」
ユノも床の上に胡坐をかいて座り込み、グラスにスポーツドリンクを注いで僕に手渡した。
「飽きたらいかんと思って、バリエーション豊かにしてみたんよ」
ゼリー飲料レモン味、ゼリー飲料マスカット味、ゼリー飲料ライチ味、ゼリー飲料アップル味。
(おいおい)
プレーンヨーグルト、ストロベリーヨーグルト、ブルーベリーヨーグルト、アロエヨーグルト、オレンジゼリー、ピーチゼリー、マスカットゼリー、アップルゼリー、コーヒーゼリー...各3個。
(おいおいおい)
「こいつら液体だからさ、めっちゃ重いのなんのって」
コラーゲンドリンク、プロテインドリンク、滋養強壮タウリン3000mgドリンク、ビタミンドリンク、マムシドリンク...。
(おいおいおいおい!)
「お前は風邪っぴきだろ?
冷たくてさっぱりしてて、消化がよくて、身体への吸収がよくて。
ビタミンが摂れるっていえば、これらしかないでしょ?
ユノさんの心遣いに、涙がでちゃうね、チャンミン?」
さっき大泣きしていたユノは、真っ赤に充血した目を三日月にしてにっこり笑った。
僕はどう反応したらよいかわからなかった。
嬉しさ反面、呆れていたし、ユノの極端なところに、どう反応したらよいかわからなかったのだ。
「......」
黙りこくっている僕の様子に、
「どうした、チャンミン?
頭が痛いのか、僕ちんは?」
ユノは僕の肩に手を添えて、僕の顔を覗き込んだ。
(まただ。
僕はこれに弱いみたいだ)
さっきの涙で目尻を赤く染め、目元がうんと幼い感じになっている。
「呆れてた」なんて言ったけど、実はじわじわと感激していた。
嬉しかった。
(つづく)
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