(23)時の糸

 

 

~ユノ~

 

 

​で、結局、だらだらと2時間も話してた(俺が)。

​

(そろそろ、電話切ろうかな。

はっ!

もう12時じゃないか!)

​

あくびが出る。

​

(明日も早いんだよなぁ...。

​チャンミンの奴、結局、雑談だけのために電話してきたんかなぁ?)

 

『ユノ』

​

チャンミンが、俺の名前を呼ぶ。

​

「はいはい」

​

(さすがにしゃべり疲れた...)

​

『明日終わるのって、何時頃?』

​

「うーん、片付けがあるから、18時くらいかなぁ」

​

(すきっ腹に、酒はいかん、酔ってきた。

​トイレに行きたい...)

​

​『えっと...』

​

(眠い...寝たい...風呂に入らんと)

 

「それじゃ、そろそろ寝るわ」

 

会話を打ち切ろうとしたら、まさかのチャンミンの爆弾発言。

 

驚き過ぎて、ソファから転げ落ちたもんね。

​

『明日、うちに来てください』

 

「ぶはっ!」

​

​ベタな反応だったけど、本気で吹き出してしまった。

​

「なんやってぇ!?」

​

『明日、僕のうちに来て欲しい』

​

「ななな、なんやって?」

​

『ユノに、来てもらいたいんだ、うちに』

 

全くの予想外のチャンミン発言に、全身から汗が噴き出してきた。

​

​「なんでぇ?」

​

(馬鹿!

うちに来て欲しい、ってことは、アレだよアレ!

理由をはっきり聞いちゃあかんのに)

 

​『ユノに用があるからだよ!

​ユノは出張でいなかったし。

​職場じゃ、ゆっくり話せないし』

 

「そっかー...」

 

『...無理なら、いいよ。

忘れて』

​

「わかった」

​

『嫌ならいいよ』

​

「行くよ」

​

チャンミンが「すっ」と、息を吸う音が聞こえる。

​

​『いいんですか?』

(なぜ、敬語?)

​

​チャンミンの声が明るくなった。

​

「出張から戻ったら、まっすぐ寄るよ」

​

『よかった!』

​

(めちゃくちゃ嬉しそうじゃないの)

​

「うーんと、18時頃かなぁ...いい?」

​

『じゃあ、夕飯を用意しておくよ』

​

「美味しい物買っていくから、いい子でな」

​

『子供扱いは、止めてくれないかな、ユノ』

​

 

 

・

 

 

電話を切った後、ソファに寝ころんでぼんやりと考える。

​

この数日の間で、チャンミンの中で何が起こったんだ?

​

客観的に見ると、間もなく三十路になる男にしては言動が中高生レベルで、十分過ぎるほどキモイ。

​

でも、チャンミンならセーフ。

​

なぜだかは、分からないけど。

​

​照れることをスルっと発言できちゃうあたりが、単なる「ウブ」でもないわけで。

​

なかなかどうして、興味深いキャラクターだ、チャンミン君。

​

​チャンミンの『やる気スイッチ』を押してしまったのか?

​

​『やる気スイッチ』って、なんのやる気だよ!

​

先日のMとの会話を思い出す。

​

​『チャンミンのプライベートって凄そう、こわーい』

​

​チャンミンが隠している「素の姿」はすごいんだろうか...?

​

どきどき。

 

 


 

 

チャンミンは、洗面ボウルの縁にかけた手に体重を預け、ゆっくり呼吸した。

 

洗面所の鏡の前で、髪を整えようとした直後だった。

 

(まただ...)

 

視野が暗くなって、耳鳴りがする。

 

(もうすぐユノが来るのに...)

 

チャンミンは強く目をつむって、大きな深呼吸を繰り返した。

 

(!)

 

チャンミンは、自分の肩の上に重みを感じ、後ろを振り返った。

 

 

(つづく)

 

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