(31)時の糸

 

 

「あのな、俺らはいい年した大人なわけ。

キスしたくらいで、いちいち謝るな!

謝るくらいなら、キスするな!

謝るのなら...。

うーん、そうだな...」

 

ユノはしばし考えた後、

 

「酔った勢いでヤッちゃった後にしろ!」

 

一気に話すユノを見るチャンミンは、ぽかんとしている。

 

「...自分でも分からないんだ。

...つい、したくなって...」

 

「あー!

やめいやめい!」

 

「うぐっ」

 

ユノの片手が伸びて、チャンミンの口を塞いだ。

 

「いちいち説明せんでもいい!

余計照れるだろうが!」

 

(ユノは、どうってことないのか?

僕の胸はまだ、ドキドキしているのに)

 

「俺に謝らなくてもよろし」

 

ユノはチャンミンの口を塞いでいた手を、外した。

 

「ユノにとって...大したことないんだ?」

 

「そういう意味じゃないって!」

 

ユノは頭を抱えている。

 

「あーもー!

めんどくさい奴やなぁ!」

 

(!)

 

ユノの両手で、チャンミンの頬は挟まれた。

 

(近い近い!)

 

15センチの距離にあるユノの顔に、チャンミンののどがゴクリと鳴る。

 

ユノは両手に挟んだチャンミンの熱い頬と、見開いた彼の目を凝視する。

 

(丸い目しちゃって、可愛いなぁ)

 

「もう一回する?」

 

「な、何を?」

 

(とぼけてるのか、本気でわかってないのか...)

 

「決まっとるだろうが!」

 

「そ、それは...」

 

(あーもー。

面倒くさいやつだ!)

 

ユノの耳にも、チャンミンが鳴らすのどの音が聞こえる。

 

(緊張しちゃって、可愛い)

 

「嫌か?」

 

ユノはさらに、顔をチャンミンに近づける。

 

「い、嫌じゃ...ないです」

 

ユノの手の中で、チャンミンは首を振る。

 

「そっか」

 

「......」

 

チャンミンは、ギュッと目をつむる。

 

(目をつむっちゃって、女子高生か!)

 

ユノはチュッと音をたてて、チャンミンのおでこにキスをした。

 

(あれ?)

 

ユノの両手から解放され、目を開けたチャンミン。

 

ぽかんとしたチャンミンに、ほほ笑むユノ。

 

「お前がリードせんといかんよ、チャンミン」

 

「そ、そうだね」

 

(さらっと言っちゃうんだ)

 

「次はもっとロマンティックに頼むよ」

 

動揺を隠してユノは冗談っぽく言うと、チャンミンは白い歯を見せて笑った。

 

「そうするよ」

 

「はぁ?」

 

(はっきり言っちゃうんだ、そこ)

 

「素直に答えられても、反応に困るんだよ、チャンミン!」

 

ユノの言葉に、きょとんとするチャンミン。

 

(可愛らしい顔のくせして、この男...。

モジモジ君は撤回だ!)

 

 

 

 

「さぁ!」

 

チャンミンは、勢いよく両膝を叩いた。

 

「ユノ、デザートにしよう!」

 

「は?」

 

スタスタとキッチンへ歩いてゆく、裸足のチャンミン。

 

「いろいろあったから、お腹が空いた」

 

「もう?」

 

(いろいろあったって...何だよ。

俺の方だって、心がめまぐるしかったよ)

 

「お腹空いた、ってなぁ。

まだ30分しか経ってないぞ?」

 

ユノはチャンミンを追って、キッチンへ。

 

「俺も手伝うよ。

コーヒー淹れようか?」

 

ユノがコーヒーサーバーに水を入れようとすると、ひょいとそれをチャンミンから取り上げられた。

 

「ユノは皿を持って行って」

 

チャンミンはユノの背中を押して、キッチンから追い出した。

 

「ユノのコーヒーは恐ろしくて飲めない」

 

「何だとー!」

 

「泥のようなコーヒーを飲まされたからね」

 

「あは~。

ごめんな」

 

 

(つづく)

 

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