(59)時の糸

 

 

「泣くなチャンミン」

 

ユノは指先でチャンミンの涙を拭った。

 

「ユノ...」

 

眉を下げたチャンミンの顔が、くしゃくしゃにゆがんだ。

 

「僕は...」

 

「!」

 

あっという間に、ユノはチャンミンの胸元に引き寄せられていた。

 

チャンミンは火の玉みたいに熱いユノを、力いっぱい抱きしめた。

 

(チャンミンにハグされるのは、これで...2度目か?

こらこら、冷静に何考えてるんだ、俺?)

 

「聞こえてた?」

 

「うん」

 

「僕の言ったこと、聞こえてた?」

 

「聞いてたよ」

 

「ユノ、寝たふりしてただろ?」

 

(どきぃ)

 

「寝てたよ!

うとうとと。

クスリ飲んだし、熱あるし、ぼーんやりなわけ」

 

「で?」

 

「『で』って?」

 

「僕は、ユノのことが好きです」

 

チャンミンはユノを抱く腕に力をこめる。

 

(潔い男だなぁ。

こうもはっきり言われると、調子が狂う。

おし!

俺も応えないと)

 

「俺も...」

 

ユノは熱めの湯船に浸かっているかのようだった。

 

38.5℃の体温と、緊張と照れで火照ったチャンミンに包まれて、のぼせそうだった。

 

「俺も...好き」

 

チャンミンの腕が一瞬ピクリとしたが、無言のままだった。

 

「......」

 

「こらこら、黙るな」

 

(聞えなかったのか?)

 

「俺も、チャンミンのことが好きだよ」

 

「......」

 

「おーい。

チャンミン?」

 

「......」

 

「おい!」

 

「......」

 

「好きだって、言ってんだよ!

聞こえただろ?」

 

チャンミンの胸がくっくと小刻みに揺れている。

 

「チャンミン?」

 

(まさか、面白がって笑っているのか?)

 

「おら!」

 

チャンミンを睨みつけようと、胸にくっつけていた顔を上げた。

 

「えぇっ!?」

 

チャンミンが嗚咽の声を漏らして、泣いていた。

 

「チャンミン...」

 

ユノはチャンミンの背中を撫でてやる。

 

「泣くなよ」

 

「だって...」

 

チャンミンはユノを深く抱きしめ直して、ユノの肩に目頭を押しつけた。

 

熱い涙が次から次へと溢れてきて、ユノのパジャマを濡らしていく。

 

(チャンミン、泣き過ぎだよ)

 

「僕は...嬉しい」

 

「うん、そうだね」

 

「ユノ...好きです」

 

「うん、俺も好きだよ」

 

「...嬉しい」

 

「俺も、嬉しいよ」

 

(幸せな気持ちというのは、今の気持ちを言うんだろうな。

僕は、幸せだ。

ユノが僕のことが好きなんだってさ。

幸せだ。

僕もユノのことが好きなんだ)

 

「好き」の応酬に疲れた2人。

 

顔を見合わせて苦笑し合う。

 

「チャンミン、鼻水垂れてるよ」

 

「え?

...ホントだ」

 

「しょうがないなぁ」

 

ユノはパジャマの袖口で、チャンミンの目と鼻をごしごし拭ってやった。

 

「......」

「......」

 

自分たちが置かれた状況にはたと気付いた2人の間に、気まずい空気が流れた。

 

(僕はどうして、ユノのベッドにいるんだ!?

看病するはずが、ユノと一緒に寝ててどうするんだ!?)

 

(ちっとばかし、くっつき過ぎやしないか?)

 

「チャンミン...腕、離して。

トイレに行きたい」

 

口実を思いついたユノは、チャンミンの胸を叩いた。

 

「ごめん!」

 

チャンミンの腕から抜け出すと、ユノは半身を起こした。

 

(いったん身体を離そう。

クールダウンが必要だ)

 

ぐらりと視界が回る。

 

「ユノ!

ふらふらじゃないか!」

 

すかさずチャンミンがユノを支えた。

 

「うん...だいじょうぶ...」

 

ユノの動きが止まった。

 

(足!)

 

床に下ろそうとした脚を素早く布団に隠した直後、

 

「わっ!?」

 

チャンミンに抱き上げられて、ふわっとユノの視界が高くなった。

 

「こらっ!

チャンミン!」

 

チャンミンの歩みに合わせて揺れるユノの裸足に、チャンミンは目をそらさないし、何も言わない。

 

(見られたくないものが、丸見えだ)

 

いたたまれなくなったユノは、チャンミンの首にしがみついて顔を埋めた。

 

「......」

 

意外にがっしりとしたチャンミンの首に、無言で頬をくっつけていた。

 

(お姫様抱っこなんて...照れるんですけど。

俺は男なんですけど...?)

 

チャンミンはユノをトイレの便座に下ろすと、「終わったら呼んでね」とドアを閉めた。

 

「...ふう」

 

ユノは白い天井を振り仰いだ。

 

(夢の中みたい。

吐きそうに具合が悪いのに、頭はふらふらなのに、喜びがふつふつと湧き上がってくる。

嬉しいよぉ)

 

心の中で「ひゃー」っと叫んで、ユノは自分を抱きしめる。

 

(チャンミンが俺のことを好きだって。

俺も言っちゃった。

両想いだって。

青春ドラマみたい。

大事件だ大事件だ!!)

 

 

(つづく)

 

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