膝上に組んだ腕に顎をのせて、チャンミンは赤々とした炭をぼぉっと眺めていた。
一人でいるのを好むことを知っているスタッフたちは、出来上がった料理をチャンミンの元へ運んでくる以外は、無理に会話の輪に引き込むことはしない。
次々と皿の上にのせられる、蒸し焼きにしたサツマイモや、ソーセージ、魚のホイル焼き、炙ってとろとろに溶けたマシュマロなどを、チャンミンは順に胃袋におさめていった。
お腹は満たされた。
アルコールは頭痛を誘発しそうだったため、ミネラルウォーターを飲んでいた。
「はぁ...」
チャンミンはユノが隣に座るのを、待っていた。
甘いもの好きのユノのために、余分にもらったマシュマロも、皿の上で冷めてしまっている。
つまらない、と思った。
(僕を一人にするなんて...)
ユノから不当な扱いを受けていると拗ねるチャンミンだった。
いつまでも戻ってこないユノに業を煮やして、すっくと立ちあがった。
(アルコールを持ちに行く、と言っていた。
重くて運ぶのに苦労しているかもしれない。
僕ときたら、気が利かないんだから)
「チャンミン!」
スタッフの一人に声をかけられ、チャンミンは回廊に向かおうとした足を止めた。
「行ったついでに、ビールの追加を頼めるかな?」
チャンミンはこくりと頷いた後、事務棟へ駆けて行った。
(ビール、ってどこにあるんだ?)
火熾し担当だったチャンミンは、大量に用意されているはずのドリンクの場所が分からない。
事務所の冷蔵庫を開け、保管庫の冷蔵室も覗いてみたが見つからない。
追加のものが配達されたままになっているかもしれないと、エントランスを確認しに行ったが、やっぱりない。
「おかしいなぁ」
(ユノはどこに取りに行ったんだろう?
裏口の方かな)
裏口はドームを挟んで事務棟の反対側にある。
チャンミンがドームへ引き返そうとしたとき、
「マックス!」
悲鳴に近い、鋭い女性の声に、チャンミンは振り返った。
エントランスのドアの前で、一人の女性が両手で口を覆って立ち尽くしていた。
「?」
チャンミンは背後を振り向いたが、エントランスには自分以外の者はいない。
「マックス...」
背の高いスリムな女性だった。
「あの...人違いじゃ...?」
大きく見開いた目尻が切れ上がった目は真剣だった。
「嘘でしょ...。
マックス...」
「あの...マックス...って?
僕は...違います」
チャンミンがそう言い終える前に、その女性は体当たりする勢いでチャンミンにしがみついてきた。
「!」
「マックス...」
「あの...」
彼女はチャンミンの胸に顔を押しつけ、彼の背中に巻き付けた腕に力を込めた。
「違います...僕は...」
頭の中にクエスチョンマークが飛び交っている。
(この女の人は誰だよ?
誰だよ、マックスって?
全然、意味が分からない...)
「どこにいたのよ...。
死んじゃったのかと思ってたのよ...」
「!」
見知らぬ女性に抱き着かれたチャンミンは、突き放すこともできず、両腕を宙に浮かせた状態で、されるがままでいるしかなかった。
(つづく)
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