(66)時の糸

 

 

膝上に組んだ腕に顎をのせて、チャンミンは赤々とした炭をぼぉっと眺めていた。

 

一人でいるのを好むことを知っているスタッフたちは、出来上がった料理をチャンミンの元へ運んでくる以外は、無理に会話の輪に引き込むことはしない。

 

次々と皿の上にのせられる、蒸し焼きにしたサツマイモや、ソーセージ、魚のホイル焼き、炙ってとろとろに溶けたマシュマロなどを、チャンミンは順に胃袋におさめていった。

 

お腹は満たされた。

 

アルコールは頭痛を誘発しそうだったため、ミネラルウォーターを飲んでいた。

 

「はぁ...」

 

チャンミンはユノが隣に座るのを、待っていた。

 

甘いもの好きのユノのために、余分にもらったマシュマロも、皿の上で冷めてしまっている。

 

つまらない、と思った。

 

(僕を一人にするなんて...)

 

ユノから不当な扱いを受けていると拗ねるチャンミンだった。

 

いつまでも戻ってこないユノに業を煮やして、すっくと立ちあがった。

 

(アルコールを持ちに行く、と言っていた。

重くて運ぶのに苦労しているかもしれない。

僕ときたら、気が利かないんだから)

 

「チャンミン!」

 

スタッフの一人に声をかけられ、チャンミンは回廊に向かおうとした足を止めた。

 

「行ったついでに、ビールの追加を頼めるかな?」

 

チャンミンはこくりと頷いた後、事務棟へ駆けて行った。

 

(ビール、ってどこにあるんだ?)

 

火熾し担当だったチャンミンは、大量に用意されているはずのドリンクの場所が分からない。

 

事務所の冷蔵庫を開け、保管庫の冷蔵室も覗いてみたが見つからない。

 

追加のものが配達されたままになっているかもしれないと、エントランスを確認しに行ったが、やっぱりない。

 

「おかしいなぁ」

 

(ユノはどこに取りに行ったんだろう?

裏口の方かな)

 

裏口はドームを挟んで事務棟の反対側にある。

 

チャンミンがドームへ引き返そうとしたとき、

 

「マックス!」

 

悲鳴に近い、鋭い女性の声に、チャンミンは振り返った。

 

エントランスのドアの前で、一人の女性が両手で口を覆って立ち尽くしていた。

 

「?」

 

チャンミンは背後を振り向いたが、エントランスには自分以外の者はいない。

 

「マックス...」

 

背の高いスリムな女性だった。

 

「あの...人違いじゃ...?」

 

大きく見開いた目尻が切れ上がった目は真剣だった。

 

「嘘でしょ...。

マックス...」

 

「あの...マックス...って?

僕は...違います」

 

チャンミンがそう言い終える前に、その女性は体当たりする勢いでチャンミンにしがみついてきた。

 

「!」

 

「マックス...」

 

「あの...」

 

彼女はチャンミンの胸に顔を押しつけ、彼の背中に巻き付けた腕に力を込めた。

 

「違います...僕は...」

 

頭の中にクエスチョンマークが飛び交っている。

 

(この女の人は誰だよ?

誰だよ、マックスって?

全然、意味が分からない...)

 

「どこにいたのよ...。

死んじゃったのかと思ってたのよ...」

 

「!」

 

見知らぬ女性に抱き着かれたチャンミンは、突き放すこともできず、両腕を宙に浮かせた状態で、されるがままでいるしかなかった。

 

 

(つづく)

 

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