義弟(13)

 

 

~ユノ33歳~

 

 

ごくり、と喉が鳴った。

 

チャンミンは俺を凝視したままで、その眼はにごりなく純真そうだった。

 

白目と黒目の境がくっきりとした、生後間もない赤ん坊のような作り立ての眼。

 

それなのに、とろんと瞼をわずかに落とした色気を漂わせた眼で、俺を見上げている。

 

「僕を...温めてください」

 

「温める...って?」

 

チャンミンの言いたいことが、どういうことなのか察していたが、行動に移すわけにはいかない。

 

「分かってるくせに」

 

くすくすとチャンミンは笑った。

 

美しく妖しい、妖婦の笑いだった。

 

自身の美しさが他人にどう影響を与えるのか、この子は16歳にして気付いている。

 

「もっと触って下さい」

 

胸に置いた俺の手首をつかむと、誘導するようにその手を動かし始めた。

 

人差し指にチャンミンの突起が触れ、彼は小さく円を描くように俺の手を動かす。

 

指の腹の下でそれは徐々に尖り、たまらず指先でそれを押しつぶした。

 

「あっ...」と、チャンミンの口から短い声が漏れた。

 

常時不機嫌そうに引き結んでいる唇が、うっすらと開いている。

 

「もっと、触ってください」

 

薄く固い胸を女にするように、手の平全体で揉みしだき、往復する度に尖りを指先で引っかけた。

 

すると、それに合わせてチャンミンは、かすれ声を漏らす。

 

視界の端で、チャンミン股間の変化を捉えていた。

 

十代後半を迎えたチャンミンの身体は、ほぼ大人と同じ。

 

けれども、見てはいけないものを目にしてしまった、気まずさがあった。

 

視線を先に延ばすと、網ストッキングを履いた両脚が膝をすり合わせるようにうごめいていた。

 

たまらない...。

 

でも...こんなの、間違っている。

 

逃げる俺の手を、チャンミンはつかんで離さない。

 

それどころか、俺を傍に引き寄せようとしている。

 

こんなやせっぽっちの少年の力くらい、簡単に引き離すことができるはずなのに、チャンミンにされるがままだった。

 

「チャンミン...駄目だよ」

 

喉がからからで、その声はひどくかすれていた。

 

「駄目じゃないですよ。

眺めるだけじゃ、傑作は描けませんよ。

義兄さんには、僕のありのままを描いて欲しいのです」

 

その解釈にのっかってみようと、俺の心が動いた。

 

チャンミンは、俺の本心を見抜いている。

 

チャンミンに対して、淫らな欲望を隠し持っていることを、知っているのだ。

 

彼は本心で俺を誘っている。

 

一瞬、チャンミンの視線が下りた時、俺の高まりを確認したに違いない。

 

隠しようがない。

 

鳥肌が立っていた青ざめた肌が、今じゃピンク色に染まっていた。

 

チャンミンの汗の匂いがする。

 

若く動物的な、濃い匂いだ。

 

チャンミンのもう片方の手が、俺の肩に乗った。

 

「...男は、イヤですか?」

 

「...」

 

肩の上の手指に、力が込められてきた。

 

「それとも...子供過ぎて、良心が痛みますか?」

 

「良心」の言葉に、俺は顔を背けた。

 

「義理とはいえ弟。

奥さんの弟です。

...気になりますか?」

 

「!」

 

ぐいと引き寄せられ、チャンミンの胸に追突しそうになった。

 

ソファの背にとっさに手を突いて、免れた。

 

端正なチャンミンの顔と、15センチの距離にある。

 

チャンミンの小さな喉仏が、こくりと上下した。

 

「姉さんが羨ましいです。

義兄さんは綺麗な顔をしています」

 

チャンミンの細い指が、俺のうなじから後ろ髪に差し込まれた。

 

頭皮からぞくぞくっと甘い痺れが走る。

 

この後の行為を容易に想像できて、俺の心は逡巡する。

 

乗るか反るか。

 

「ブランケットをとってくるよ」

 

跳ね起きるように、引きはがすように、俺は立ち上がった。

 

危なかった...。

 

チャンミンに気付かれないよう、深呼吸をした。

 

全身が熱かった。

 

「義兄さん」

 

「何?」

 

俺は振り返らなかった。

 

「残念です」

 

チャンミン。

 

俺の方は、残念じゃないよ。

 

危なかった。

 

直前で引き返せて、心からホッとしているんだ。

 

俺は後先考えず、衝動的に行動できるような子供じゃない。

 

責任がある。

 

お前のような子供にのせられて、現在と将来を複雑にするつもりはないんだ。

 

描きかけのキャンバスに対峙する。

 

見る者と目が合うように描いているから、絵の中のチャンミンもこちらを見ている。

 

作品を仕上げなければならない。

 

キャンバス越しに、ソファで横たわるチャンミンを見ると、いつも通りの不貞腐れ顔に戻っていた。

 

 


 

 

~チャンミン16歳~

 

 

Mの話が頭に入ってこない。

 

僕の頭も背中も、じんじんと熱い。

 

義兄さんの視線で焼かれているみたいに。

 

母親には友人の家に泊まりに行く、と告げていた。

 

自宅へ招かれるほど親しい友人がいることに、母親は驚いていた。

 

休日は大抵、自室にこもっていたし、部活にも入らず真っ直ぐ帰宅していた僕だから、驚いて当然だ。

 

僕に呼び出されてMも驚いていたが、僕のお願い事を聞くと「わかった」と即答してくれ、こうして僕と顔を突き合わせている。

 

「ユノさんのカフェに行ってみましょうよ」

 

Mの誘いに、空腹だった僕は頷いた。

 

義兄さんがデザインを手がけたというそのカフェは、入店すぐに飛び込んでくる壁面イラストに目を奪われる。

 

写実的な絵を描く義兄さんが、ポップなイラストチックなものも描けるなんて知らなかったから、素直に感動した。

 

客層は落ち着いた雰囲気で、2人組か1人、めいめいに読書をしたり、控えめの声量で会話を交わしていたり...大人だけの空間だ、と思った。

 

だから、高校生未満の僕やピンク色の髪をしたMが、場違いに浮いているみたいで、恥ずかしかった。

 

あれ?

 

店員に案内された席に向かう途中、僕の目はある一点にひきつけられた。

 

店内一番奥の窓際の席。

 

義兄さん...。

 

黒のタートルネックセーターが、義兄さんの白い肌を引きたてていた。

 

義兄さんの頭は窓の外を向いていて、僕とMに気付いていない風だ。

 

でも、今夜の僕は義兄さんと対面する勇気がなかったから、気付かないふりをすることにする。

 

昼間、僕は大胆なことをしでかしてしまったのだ。

 

義兄さんを誘った。

 

僕を見る義兄さんの目が、焦がれるようなものであるのは気づきかけていた。

 

だから、義兄さんの中のスイッチを入れてやろうと思った。

 

僕を見て、僕を欲しがって!と。

 

僕は裸だし、持てる限りの色っぽさを目いっぱい発揮してみた。

 

映画やアダルトな動画の中で、女の人が男を誘う時の表情を思い浮かべながら。

 

勇気がいった。

 

心臓がバクバク音をたてていた。

 

誘うと言っても、どうしたいという具体的なものがあったわけじゃない。

 

セックスを匂わせるようなことを言っただけ。

 

義兄さんを揺さぶれるには、そう言うしかなかったんだ。

 

僕は男だけど、それらしくしなをつくれば、もしかしたら...って。

 

パーカーの下の右胸が、火照ったようにじんじんした。

 

義兄さんに一瞬でも愛撫された肌。

 

義兄さんのごつごつしているのに、手先を使う仕事をしているからしなやかで繊細そうな指が、僕の肌の上を滑った。

 

とても、とても素敵だった。

 

 

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