~ユノ33歳~
「あ...義兄...さんっ...」
塞がれた唇の下で、チャンミンは苦し気に俺の名前を呼ぶ。
チャンミンの熱い息がふうふうと、合わせた唇の隙間から漏れた。
俺の両頬をもっともっとと引き寄せられて、チャンミンの背後にあるソファへ彼を押していく。
後ずさりするチャンミンの足がもつれ、体勢を崩しそうになるのを抱きとめる。
チャンミンは背中から、俺は彼の上に重なりどさりとソファにダイブした。
チャンミンの指が頬に食い込むほどで、俺を求める欲情の強さに、俺のそれも火力を増すのだ。
チャンミンの背中をまさぐりながら、より深く口づけようとうなじを引き寄せる力も増していく。
勢いの激しさに、歯同士ががちりと当り、どちらのものかわからない血の味。
互いのあごまで食らいつこんばかりの、口という穴を征服するキス。
「...んっ...ふっ...ふ...」
チャンミンの口は俺のもので密閉されているから、彼の鼻息が不規則に吹きかけられる。
もっともっと、違う角度で繋がりたくて、一旦唇を離した。
「好きです...」
チャンミンのつぶやきに、俺は頷く。
俺も好きだ...だが、口に出したらいけない気がするんだ。
好きのひと言で片付けられるような感情じゃないんだ。
それから、狡くて申し訳ないが、責任がとれない。
チャンミンとは、今この時、今この場所で、どろどろに塗れ合いたいんだ。
好きだから抱きあいたいのか、抱きあいたい気持ちが先にきているのか、保留にしているんだ。
真正面に鼻頭を合わせ、唇は触れ合わせず、舌先だけを繋ぐ。
焦らしたのち、チャンミンの舌を咥え、前後にしごく。
「...んんっ...んっ」
俺の口内にチャンミンの舌を引きずり込んで、きつく吸うと彼の喉が鳴る。
胸が苦しい。
この後の本命の行為に期待を馳せた。
上の...唇と舌...粘膜同士の接触といたぶりで、焦れ合うのだ。
俺の腹に、弾力ある固いものが押し当てられている。
チャンミンは衣服をまとわない姿で、すべてを俺にさらけだしていたから。
切っ先に雫がぷくりと浮いていた。
この子は、男だ。
立てた両膝が俺の腰を挟んでいる。
股間が引き締まる緊張は高まり、チャンミンの背に回した手を彼の正面に移した。
女の曲線をたどるように、チャンミンの敏感なものをたどる。
太く浮いた血管と折りたたまれた柔らかい皮、窪みとでっぱりを、指の腹でたどる。
「...や...あ...義兄さん...」
俺の身体の下で、チャンミンの腰がびくびくと震えた。
うなじを押さえていた手を放し、チャンミンの細いウエストに回した。
「ああっ...あっ...」
俺はこの子をどうしたい?
睾丸をすくいあげるように包み、片膝でチャンミンの腿を割る。
ブラインドから差し込む午後の光で、チャンミンの産毛が光る。
この後、どうなっても知らないぞ。
きっとチャンミンは、俺にのめり込む。
俺を見つめる目の色が変わるだろう。
俺を求める想いに真剣みが増すだろう。
Bとの結婚生活と並行しながら、チャンミンと会うのか?
会うだろう。
Bの目、世間の目から隠れて、チャンミンと会い続けるだろう。
俺が結婚していることと、男のチャンミンと関係を結ぶことは別の話だ。
可能な気がした。
いずれにせよ、もう引き返せない。
・
チャンミンのペニスを握る俺の手を、チャンミンは押しやった。
そして、俺の喉から舌を引き抜いて、チャンミンは俺の身体の下から抜け出した。
「?」
今回はチャンミンのその気が萎んだのかと、思った。
「!」
チャンミンはソファから降り、身を起こした俺の足元に脚を折って座り込んだ。
「...チャンミン...」
俺のデニムパンツのボタンを外し、ファスナーを下ろした。
チャンミンが何をしようとしているのか察して、下着をずらす。
斜めに勃起した俺のペニスを、チャンミンは咥え込んだ。
躊躇のかけらもなかった。
嘘だろ...。
大胆な行動に驚いた。
俺の両腿の間で、チャンミンの頭が揺れている。
陰毛に美しい顔を埋めている。
伏せたまつ毛が長く、頬に繊細な影を落としていた。
美味そうに俺のものを味わっている。
静寂のアトリエ。
強烈な快感が、股間から腹へと走った。
「...う...ん...」
低いうめき声が喉を震わせる。
たまらなくなって、前後に揺れるチャンミンの頭を撫ぜた。
丸い後頭部、伸びすぎた身長のせいで、小さく感じる頭を撫ぜた。
見上げたチャンミンと目が合う。
黒目と白目の境がくっきりとした、あの三白眼だ。
口いっぱいに俺のペニスを頬張っているから、口元をゆがませている。
それでも、美しい顔だった。
そして、悲しいくらいに幼い目元をしていた。
「どう?」と、褒めてもらいたがっている眼だった。
罪の意識がかすめる。
「いいよ...気持ちいいよ」
チャンミンの両眉が下がり、潤んだ瞳は泣き出しそうに見えた。
愛おしい想いが溢れ、チャンミンの前髪を何度も何度もかきあげてやった。
額を露わにすると、途端に男らしい印象が強まった。
そっか...今、俺は男にフェラチオされている。
それも、義理とはいえ、弟に。
チャンミンの舌による愛撫はぎこちなかった。
きつく吸われ過ぎて、痛みを覚えた瞬間もあった。
それでも、俺を気持ちよくさせようと必死な姿に、胸を打たれた。
罪悪感で萎えるどころか、俺のペニスを頬張り味わうチャンミンの姿に、猛烈に興奮した。
チャンミンの頭を股間に押しつけ、俺の腰はオートマティックに揺れてしまうのだ。
そして、チャンミンの喉奥で絶頂を迎え、彼から引き抜き、たまらずうなじを引き寄せた。
精の香りに包まれた口づけを交わす。
自身のものを味わうのは初めてだったが、チャンミンの舌と混ぜ合いながら、舐め尽くした。
膝に引っかかっていたデニムパンツと下着を、蹴と飛ばし脱ぐ。
ボタンを外すのももどかしく、シャツを脱ぎ捨てた。
これで肌と肌を直に合わせられる。
壁に立てかけられた数十枚のキャンバス。
完成したものも、制作途中のものも。
オイルの匂い、絵の具が飛び散ったフローリングの床。
大型のイーゼル、洗筆バケツ。
真珠のネックレスで胸を飾ったチャンミンの絵。
そして、丁寧に畳まれ置かれた、チャンミンの制服。
(つづく)