義弟(33)

 

 

~ユノ33歳~

 

 

X氏を見送った俺は、膝を抱えガウンにくるまるチャンミンを抱きしめた。

 

「嫌な思いをさせたね、悪かった。

Xさんは、ああいう人なんだ」

 

俺に肩を抱かれたまま、チャンミンは無言でじっとしている。

 

「何か...嫌なこと言われたり、されたことがあったのか?」

 

去り際のX氏の言葉と、彼への嫌悪感を隠そうとしないチャンミンの眼差しが気になっていた。

 

チャンミンは俺の言葉に応えず、代わりに

 

「...僕は、義兄さんが好きです。

何度も言ってましたね...ははっ。

しつこくて、すみません」

 

俺はずっと...チャンミンと関係を結ぶようになってからも...チャンミンの告白に、ストレートに応えていなかった。

 

チャンミンとの関係にぴったりな言葉が見つからなくて、唯一それに近い表現が『愛人』だった。

 

会えば必ず抱きしめたくなり、互いの凹凸をぴったりと重ね、もっと奥深くまで埋めたくなる。

 

男相手に、貪るようにチャンミンを欲し続けて約3か月。

 

女しか描かなかった俺が、男であるチャンミンを描き、男であるチャンミンに欲情し、性的な繋がりを持った。

 

このアトリエで何度も何度も、イケナイことをし続けていたのは、スリルを求めていたわけじゃないのだ。

 

言葉に出さずとも態度で分かるだろう?

 

お前のことをどう思っているかは、ちゃんと伝わっていただろう?

 

チャンミンは膝の前で組んでいた手を放し、俺の背中にしがみついてきた。

 

「僕は、義兄さんがいいんです」

 

俺の腹に頬をこすりつけ、小さな子供のように甘えるチャンミンが愛おしくなってきた。

 

そうだよ、この気持ちが俺の本心だ。

 

家族でもない、恋人でもない...。

 

言葉で言い表せる類のものになれないのなら、身を寄せ合うしかない。

 

美貌の少年を俺の中に取り込みたかっただけだったのに。

 

組み敷く俺を見上げる焦げ茶色の瞳を、青みを帯びた白目がくっきりと縁どっている。

 

出会ったばかりの頃。

 

じとりと湿った、暗い眼をしていた。

 

チャンミンの純粋で素直な心は、数メートル先も見通せない深い霧で覆い隠されていた。

 

今じゃそれは霧散して、すっきりと晴れわたった澄んだものになっている。

 

俺への好意をまっすぐ、さらけ出している。

 

怖くなった。

 

チャンミンは俺を取り込もうとしている。

 

この流れにゆだねてしまって、いいのだろうか。

 

その迷いが、俺を狡くさせた。

 

「義兄さん、好きです」と繰り返すチャンミンに、俺は頷くにとどめていた狡さ。

 

頷くだけで、「俺もお前が好きだ」と言葉で返さずにいた。

 

俺を求めるチャンミンに応える形で、抱いて抱かれて。

 

言葉を交わす間を与えず、抱いて抱かれて。

 

答えを出さないよう曖昧にぼかして。

 

チャンミンに甘えていたのは、俺の方だった。

 

この先、俺たちがどうなってしまうかなんて、分からない。

 

俺の腕の中におさまったチャンミン。

 

俺たちに、「関係性」は必要ない。

 

この時はそう思っていた。

 

 

 

 

湯船のない狭い浴室。

 

チャンミンの背後に立った俺は、彼の胸、腹へと石鹸を滑らせていた。

 

その手は脇腹へ寄り道し、さんざん焦らした末に、二つの丘の谷間に到達する。

 

「僕は義兄さんが、好きです」

 

今日で何度目かの、チャンミンの告白。

 

「俺もチャンミンが...好きだよ」

 

勢いよく振り向いたチャンミンは、丸く大きく目を見開いていた。

 

心底驚いた表情とは、こういうものを言うんだろう。

 

やっぱり、そうだったか。

 

これまでのチャンミンの告白は、俺からの答えを期待したものじゃなかったんだ。

 

好意を伝えるだけで十分だった...いや、それはないはずだ。

 

本当は、俺からの「好き」が欲しかったんだろう。

 

俺とこの先、どうこうなれる関係じゃないことを理解していた。

 

俺を困らせるようなことは、一切言わなかった。

 

「愛しているよ。

...とても」

 

「...義兄さん...」

 

頭上から降り注ぐシャワーで、丸い頭に髪がはりつき、長いまつ毛から雫がぽたぽたと落ちていた。

 

「...っあ」

 

チャンミンの腰を押して前かがみにさせ、俺はその場でしゃがむ。

 

目前に迫るチャンミンの2つの丘を、左右に押し割った。

 

この日、2度も俺のもので攻められていたそこは、ぽっかりと口を開けている。

 

舌先を侵入させ、ぐるりと舐め上げた。

 

「...やっ...そんなとこっ...」

 

隙間から指も差し入れる。

 

チャンミンの膝からがくりと力が抜け、尻をつかんで崩れ落ちるのを支えた。

 

1本、2本と指を増やし、俺は立ち上がってチャンミンの背にのしかかった。

 

入り口近くのその個所だけを念入りにこする度に、チャンミンの甘い悲鳴が上がる。

 

10代半ばの子供の声とは、思えなかった。

 

俺の中でくすぶっていた疑念が、むくむくと膨らんできた。

 

チャンミンの耳を咥えてねぶった後、囁いた。

 

「チャンミン...俺が初めてだったのか?」

 

「......」

 

「男とヤるのは...俺が初めてか?」

 

「えっ...どうして、そんな...ことっ...?」

 

「正直に言っていいぞ」

 

3本に指を増やし、曲げた指の関節をぐりっと回転させた。

 

「怒らないから」

 

チャンミンに「好きだ」と言葉にしてしまった結果、疑問をそのままにしていられなくなった。

 

初めてチャンミンを抱いた時に、心をかすめた違和感。

 

『男同士で交わるのは、俺が初めてではない』

 

チャンミンの恋愛対象が男だったとしても、俺は構わない。

 

偏見の念は一切、ない。

 

今はどうなっているのかは知らないが、女のMちゃんと付き合っているようだった。

 

単に、性的に早熟な少年に過ぎない。

 

X氏の台詞が、ずっと気付かないままにしておくつもりだった疑念を刺激した。

 

『ああいう寡黙な子ほど、大人の目を盗んで、とんでもないことをしていたりするんだ』

 

「男とこういうこと...俺が初めてだったのか?」

 

「...決まってるでしょう?

...っあ...っああっ...に...にぃっ...義兄さんがっ...」

 

「俺が、何だって?」

 

これは嫉妬だ。

 

「...義兄さんが...!」

 

チャンミンは、「俺」だったから好きになったんじゃない。

 

俺が「男」だったから惹かれ、俺を求めたんだろう。

 

「男がいいんだろう?」

 

「ちがっ...違います...っ...あっ...」

 

3本の指を容易に受け入れた、チャンミンの入り口。

 

チャンミンとは、前日にも2回繋がった。

 

今日も2回、繋がった。

 

念入りに解さないうちに、行為に及べるチャンミンの入り口。

 

「僕は...っ...義兄さんを想像して...自分で...」

 

「...そうなのか?」

 

揃えた指を下に向け、きつめにこする。

 

「...はい...そう...で、す...」

 

柔らかく緩んだそこは、ついに4本目を受け入れた。

 

「...っあ...っあ...ダメ...」

 

16歳の身体。

 

成長過程にある身体。

 

天を仰いで、チャンミンの口は開きっぱなしになっている。

 

チャンミンと毎日のように繋がっていたわけじゃない。

 

俺と出逢う前に既に、経験があっても仕方がない。

 

そうだとしても、チャンミンは、25歳でも30歳でもない。

 

まだ16歳だ。

 

過去と言っても、たかがしれている。

 

俺は男に詳しくはない。

 

チャンミンはああ言ったけれど、俺は信じていなかった。

 

前を刺激しないまま達せるチャンミン。

 

純真な眼差しに反して、柔らかく感度のよい淫らな入り口。

 

「過去」ではない。

 

俺以外の誰か。

 

きっと、現在進行形だ。

 

俺に覆いかぶされたしなやかな背中が、キャンバスの中の男娼にとってかわった。

 

その瞬間、繰り返し囁かれた「好きです」を、全面的に信じられなくなったのだった。

 

 

(つづく)

 

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