義弟(7-2)

 

 

~ユノ32歳~

 

翌週、いつものようにポーズをとるチャンミンの足元に俺はひざまずいた。

 

「チャンミン。

頭を下げて」

 

ビロード張りの小箱から取り出したものを、チャンミンの長い首にかけた。

 

呼吸に合わせて上下する胸の谷間を、真珠の粒が彩る。

 

平らな胸に真珠のネックレス。

 

人造真珠じゃ駄目だった。

 

Bが俺に贈ってくれたブレスレット...おそらく、高級ブランドもの...以上のものだ。

 

先週、チャンミンを帰した後、宝飾店まで車を走らせた。

 

ブレスレットはもう外していた。

 

チャンミンの前では付けまい、と決めたのだ。

 

あれを付けていたら、フェアじゃない気がしたのだ。

 

フェアって、どういう意味だ?

 

...うまく説明ができない。

 

エアコンだけでは肌寒いため、ソファの側に灯油ストーブを置いていた。

 

裸のチャンミンに風邪をひかせたらいけない。

 

それでも十分ではなくて、チャンミンのくすんだピンク色のものが、小さく尖っていた。

 

たまらない。

 

口に含んで、温めほぐしてやりたいと思う俺はどうかしている。

 

 


 

 

~チャンミン15歳~

 

自室に置いた鏡の前で、僕は全裸になって立っていた。

 

鏡に映る自分を、ためつすがめつ眺めていた。

 

不格好だ、と思った。

 

以前の僕なら、無駄なものがなくて中性的で悪くないと満足だった。

 

けれども、義兄さんのアトリエで裸婦画を見て以来、自分の身体つきを恥ずかしく思うようになった。

 

年をとった義兄さんが失った若さを、今の僕は持っているんだぞと、堂々としていた。

 

僕の整った顔にふさわしい、余分のない身体なんだぞ、と。

 

でも、そうじゃないことを知ってしまった。

 

鏡の前で胸から腹に向けて撫でおろしてみた。

 

手の平に触れる肌はすべすべしているけれど、指をはね返す弾力がない。

 

腕も脚も長いばかりで、動物の脚みたいだ。

 

その手をもっと下に滑らせて、指先がふさふさとしたものに行き当たる。

 

柔らかくしぼんだものを、そっと握ってみる。

 

義兄さんはきっと...服の上から想像するしかできないけれど...きれいに筋肉がついたカッコいい身体をしているに違いない。

 

顔は天使で身体はデッサンで使う彫像みたいなんだ、きっと。

 

僕とは違う。

 

僕は女の身体になれないし、男の身体にしては貧弱だ。

 

手の中のものが膨らんできたことにぞっとして、鏡の前から身をひるがえしベッドにダイブした。

 

僕はどうなってしまうのだろう?

 

 

 

~チャンミン16歳~

 

試験期間に突入し、2週連続でアトリエに行けずにいた。

 

僕の通うところは中高一貫校で、入学試験は免除されていたが、期末試験は当然ある。

 

必死に試験勉強しなくても、そこそこの成績をとる自信はあった。

 

でも義兄さんは「君の仕事は勉強をすることだ」と言って、いつものようにアトリエに来ようとする僕を拒んだ。

 

だから僕は、フラストレーションを抱えていた。

 

大人ぶる義兄さんに腹が立ったし、当たり前のことを口にする義兄さんがダサいと思った。

 

僕の知らないうちに33歳になっていた義兄さんに、ムカついていた。

 

僕にとっての義兄さんとは、どんな存在なのかを探っているうちに、頭の中がぐちゃぐちゃになってきて、モヤモヤしていた。

 

ムカムカするけど...義兄さんの顔を見たかった。

 

この頃の僕はもう、義兄さんを睨みつけることを忘れていた。

 

制作中や休憩中、僕が聞いていようがいまいが気にせず、義兄さんはあれこれと喋っている。

 

僕からは話題を振ることはなく、義兄さんに尋ねられた時だけ首を振るか、言葉短めに答える程度だった。

 

面白エピソードの話の途中、つい吹き出してしまって、そんな時義兄さんは真顔になった。

 

それから、ふわりと花咲く華やかな笑顔を見せた。

 

僕も真顔になってしまう。

 

僕が初めて、階段ホールから義兄さんを見下ろした日のこと。

 

義兄さんを、白い衣をまとった天使のようだと目を奪われた瞬間。

 

「この人に決めた」と、理由の分からない決心。

 

あの感情を、義兄さんの笑顔を目の当たりにしたその時、再体現したのだった。

 

義兄さんは、僕が笑ったことをとても喜んでいるようだった。

 

そのことに、気まずいような、胸がこそばゆいような感じになった。

 

もしホンモノの兄がいたら、こんな風に思うのだろうか?

 

例えば姉さんの笑顔を見たからといって、義兄さんに対して抱くような感覚は訪れない。

 

僕はどんな目で義兄さんをみているのか?

 

義兄さんは「兄さん」じゃない。

 

それとは違う。

 

そんな健全なものじゃないことに、徐々に気づきかけていた。

 

 

(つづく)

 

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