(16)僕の失恋日記

 

 

ユノが駅に着くまであと30分。

 

改札口の前で待っていよう。

 

残りページはあと少しだ。

 

僕は大きく息を吸って吐いて、ページをめくった。

 

とても大事なシーンだ。

 

丁寧に詳しく書いてくれてありがとう、と20歳の自分にお礼を言う。

 

だって、これを読みながら、ユノのことをあらためて好きになっているから。

 

そうそう、ユノのこういうところに好きになったんだよね、って。

 

 


 

ー15年前の5月某日ー

 

<送別会の夜のこと>

 

勢い任せの告白。

するつもりのなかった告白。

思い出すだけで、火が出そうだ。

 

 

【僕の告白を受けて、ユノの反応】

 

泣き出した。

ポロポロ涙をこぼしていた。

 

ユノ「悪くない。

全然、悪くないよ。

大歓迎だ」

 

僕もじんときてしまって、こぶしで涙を拭った。

互いの首をタックルするみたいなハグをした。

 

ユノ「よりを戻すわけないじゃん」

僕「どうして元気がないの?」

 

ユノ「俺って最低だなぁ、って。

俺は浮気は出来ない質なんだ...なんて言ってて、浮気したんだけど」

僕「あははは、そうだね」

 

ユノ「元通り付き合おうと言われたとき、すげぇ腹が立った。

俺を2度もフッたくせに...って。

今さら遅いよって。

...まあ...とにかく、復活したいと言われて、お断りしたって話だ。

...それだけの話さ」

 

僕「駄目だよ、端折らないで。

それだけじゃ、ユノの元気がない理由が分からないままだ。

全部話して」

 

 

ユノ「彼はね、初めての彼氏だったんだ。

付き合いの期間も長くて、別れるなんてあり得ないと思ってたんだ。

呑気に構えていた俺の隣で、彼の気持ちはどんどん離れていってたらしい。

純粋に気持ちが冷めたんだってさ...俺といると疲れるって。

そう言われた俺は、『至らない所があるなら直すから、別れるなんて言わないでくれ』ってお願いしたんだ。

チャンミンには偉そうなことばっかり言ってたのに...無様だろ?

俺の恋はそんな具合だし、チャンミンは失恋中だし。

その上、チャンミンを深く知りたいと思うようになるし、わけわかんなくなってきたんだ。

いい加減CCなんて諦めて、現実を見て欲しくて、あえてキツイことを言ったりした。

...ごめんな」

 

僕「謝るなって。

ユノの言葉に、僕はとても助けられたんだよ」

 

僕の言葉に、ユノの肩からはふっと力が抜けた。

 

僕「続きを話して、全部。

全部聞かせて。

どうして元気がないの?」

 

 

この後、ユノは何ていったんだっけ?

ユノと交わした言葉のひとつひとつを、鮮明に記録に残したかった。

ユノの腕の下から抜け出た僕は今、デスクにこのノートを広げている。

室内はとても蒸し暑く、エアコンを入れた。

ユノはぐうぐう寝ている。

ぽりぽりと裸のお腹をかいている。

さっき僕が強く吸いついた痕が痒いのかなぁ。

それは、生まれて初めて付けたキスマークだ。

 

 

 

 

 

ユノ「チャンミンを放っておけなかった。

そんな俺を側で見ていた彼はどう思ったか。

分かりやすい俺の変化に『あれ?』って変に思うだろ?

たちが悪いことに、俺は全然気付いていないんだ。

チャンミンの世話に奔走してしまう動機が恋だってことに。

彼から『ユノの態度が変だ。好きな奴が出来たのか?』と訊かれても、ハテナ?だ。

『俺を疑ってるのか?』なんて、逆に彼を責めたりしてさ。

一緒にいたくなくなって当然だ」

 

ユノは僕をハグしたまま、話し続ける。

 

ユノ「...昨日呼び出されて、『よりを戻したい』って言われて、すぐに断った。

『好きな奴がいるから無理だ、ゴメン』って」

 

ドキッとした。

 

ユノ「そうしたらこう言われた。

『やっぱり...そいつだったんだ。

俺と付き合ってるのに、そいつとずっと会ってたんだろう?

俺は知っていたよ。

別れ話の時、俺は追求せずにいたんだ...ユノはそいつが好きだったんだろ?』って。

...そう言われた」

 

僕「『そいつ』って...」

ユノ「チャンミンのことだよ」

 

 

ユノ「さらに彼から、こう言われた。

『ユノは酷い男だ。

とっくの前によその男に気持ちがいってしまっているのに、自分じゃ気付いていない。

その上、悪いところは全部直すから、別れたくない、なんて言い出すんだから。

どこまで無神経なんだよ』

...って言われた。

彼から見れば、俺は浮気をしてたってことだ。

恐ろしいことに、俺にその自覚ナシだったんだ。

チャンミンにぺらぺら偉そうなこと言っておいて、俺自身の恋愛はこんな有様なの。

俺はずっと、被害者意識でいたんだ。

心変わりしたのは彼じゃなくて、俺の方だったんだ。

彼を傷つけていたのは、俺の方だったんだ。

俺さ、すげぇ落ち込んでしまって...」

 

僕「ユノ...」

 

ユノ「鈍感にもほどがあるよなぁ。

誤解するなよ?

チャンミンのせいじゃないからな。

俺が馬鹿だっただけの話だ。

俺が元気がない理由の話は、これでお終いだ」

 

僕らはずーっとハグしたままだった。

 

ユノ「CC、新曲を出したらしいね」

僕「詳しいね」

 

ユノ「もちろん、注文しただろ?」

僕「ううん、していない。

買うのは止したんだ」

 

ユノ「どうして?」

僕「欲しがる理由がなくなったから」

 

 

集中して書き続けていたせいで指が痛い。

首をぐるりと回転させ、大きく伸びをした。

ユノは目を覚まさない。

ひと晩で視界がぐんと、広がった気がする。

たったひと晩で、随分遠くまでワープしたみたいな感じなんだ。

でも、CCによって負った傷の痛みは消えていない。

僕は分かりやすく打ちひしがれ、いつまでもいつまでも、いつまでもいつまでもCCを引きずっていたんだ。

そうそう簡単に消えるものじゃない。

しつこく残っているけれど、それどころじゃなくなってしまっただけのこと。

だからユノの登場は、CCの延長線上にあるものじゃない。

目が覚めた、と言った方が...

うまく書きあらわすことができなくて、ジレッタイ!!

 

 


 

(※ユノとのことをうまく言い表せなくて、苦労している様子が、何度も書き直した文章から伝わってくる。

 

当時の僕はとても素直で、うつむきもせず真っ直ぐ前を向いて、襲い掛かる負の感情をまともに味わいながら、前進していた。

 

心を庇うために中途半端な嘘までついたりして、それでも逃げていなかった。

 

早く楽になりたくて一生懸命、手足を動かしていた。

 

ポンポンと後ろから肩を叩かれた。

 

僕はわざわざなのか、敢えてなのか、振り向くことなく、肩を叩いた人物と会話を交わす。

 

その人物はもちろん、ユノだ。

 

僕の背中はムズムズしてくる。

 

振り向きたいのを我慢してた。

 

いよいよ耐えきれずに振り向いた時、凄いことが起こった。

 

その時がいつだったのか、20歳の僕は分かっているのかな?

 

正解は、初めて寝た日だよ)

 

 

BL小説TOP「僕らのHeaven's Day」