(17)僕らが一緒にいる理由

 

~夫の夫~

 

「チャンミンさんと居る時のユノさんって...お子様ですね」

 

「え?

お子様?」

 

俺はアオ君を手伝って寝床の用意をしていた。

 

夫は台所へ湯たんぽの湯を沸かしに行っている。

 

「はい」

 

アオ君はクスクス笑った。

 

「そうかなぁ...」

 

「そうですよ。

チャンミンさんに全てを任せてしまってる、っていうか。

チャンミンさんに世話をしてもらうのが好きっていうか。

良く言うと、信頼してるって言うんですかね」

 

「そういうもんかなぁ...」

 

「そうですよ」

 

「そうだな、うん」

 

バサバサとシーツをさばくアオ君に、「ホコリがたつから」と彼からそれを引き取った。

 

 

俺と夫、そしてアオ君との交流は加速していった。

 

夫のアオ君への過干渉は予想通りのものだった。

 

加えて、アオ君は夫の過剰な好意を丸ごと受け取りかけていた。

 

夫は毎晩のようにアオ君を泊めたがったが、俺は3回に1度は反対した。

 

「一緒に住めばいいのに...」とまで口にしていたくらいだ。

 

まさかアオ君に面と向かって「チャンミンと仲良くし過ぎるな」と注意もできないから、夫だけをたしなめることになる。

 

その度夫は「ふん、ヤキモチ妬いちゃってさ」と口を尖らせて、ぶうぶう文句を言った(30過ぎてふくれっ面ってどうなんだ?可愛いからいいけれど)

 

俺は最初のうちは「ヤキモチじゃない!」と否定していたが、次第に面倒になってきて、「そうだよ、俺よりアオ君と仲良くて妬けるなぁ」と答えてやると、夫は機嫌を直すのだった。

 

俺は2人の仲を邪魔しているかのように見えただろう。

 

しかし邪魔ではなく、あくまでも調整役として立ち回っているつもりだった。

 

俺がアオ君をチャンミンに紹介することを渋っていた理由のひとつが、度が過ぎた過干渉の恐れが夫にあったからだ。

 

俺だってアオ君を放っておけないし、初めて顔を合わせてすぐに打ち解けることができた。

 

血縁関係にあることに後押しされて、兄と弟とは違う絆を結べていると思う(アオ君の前では多少はカッコつけてしまうけれど)

 

アオ君もきっと、夫の前とは異なる甘え方を俺にしているのだろう。

 

俺の知らないところで夫とアオ君が何をしていたかについては想像するしかないけれど、容易に想像できる(詳細はきっと、夫の日記帳に記してあるだろう)

 

 

夫の話題のうち、アオ君に占められる率が日ごと増していった。

 

「まずい...」と焦っていた。

 

兄が弟を可愛がる以上の情を持って、アオ君と接している夫...そんな彼を傍で見つめていて俺は胸が痛くなる。

 

何が夫を突き動かしているのかその源が分かっているだけに、俺は夫をたしなめることは出来るが、阻止することも出来ない。

 

俺は未だ、夫に伝えていないことがある。

 

それを知った夫は、どのような反応を示すだろう。

 

(そういえば...)

 

時間とタイミングが合わなくて後回しにしていたことを、早々やらなければいけない。

 

 

この夜、俺はアオ君を外食に連れ出していた。

 

夫に内緒の行為ではなく、彼の方からそうするように言われていた。

 

「いつも僕がアオ君を独占していたから、たまには...」だと。

 

気軽なところがいいというリクエストに応え、チェーン系の焼き肉店だった。

 

「どんどん食え食え」

 

細身なのに大食いのアオ君のために、俺は切れ目なく肉を焼いてやっていた。

 

じゅうじゅうと肉が焼けるコンロを挟んで、俺たちは会話する。

 

「俺がお子様じゃなくて、チャンミンが誰かを甘やかすことが好きなだけだよ。

俺はそれに付き合っているだけ」

 

「へぇ~。

アオ君からそう見えるのなら、そうかもね」

 

「ユノさんやチャンミンさんの好意に甘えっぱなしですみません。

甘えることに慣れてるからでしょうね」

 

「いや。

アオ君が謝る必要はないさ」

 

親元を離れて暮らすアオ君は、人の愛情に飢えているわけではないし、人の干渉を疎ましく思っているわけでもない。

 

「アオ君が言ったように、俺もチャンミンに甘えっぱなしだし、あいつに対して甘々だ」

 

俺はアルコール度数低めでジュースのような梅酒ソーダ―を飲んだ(我が家の自家製梅酒の方が、100倍美味しい)

 

「たまに不安になる。

俺にとってチャンミンは完璧な夫なんだ。

完璧過ぎて、こんな俺でいいのかと不安になることがある」

 

「その気持ち...僕も理解できます」

 

「だろうね」

 

ドリンクのお代わりを頼み終えた時、俺をじぃっと見つめるアオ君の視線とぶつかった。

 

「やっぱり似ているなぁ」と思った。

 

「どうした?」

 

「ユノさんってピアスホール開いてるんですね」と、アオ君は俺の耳たぶを指さした。

 

「若い頃にね。

チャンミンもピアス付けてたんだぜ。

もう塞がってるかもだけど」

 

「嘘!?

あのチャンミンさんが!?」

 

「ああ。

『あの』チャンミンが。

絶対に嫌だ、って嫌がってたのを、俺が無理やり強制的に開けたの。

ピアッサーで」

 

「酷いですね」

 

網の上には真っ黒になった野菜だけが残されていた。

 

「ピアスってペアで売ってることが多いじゃん。

両方付けたらくどかったから、余った片方をチャンミンにあげたんだ。

せっかくなら付けてみろよ、ってことになって。

痛いのは嫌だって、きゃーきゃー騒ぐのを捕まえてさ、あの時のぶるぶる怯えたチャンミンがすげぇ可愛くって...」

 

(あ...!?)

 

「や~っぱり。

ユノさんも旦那さんのこととなると、デレデレですね」

 

アオ君はしら~っと呆れた顔でいた。

 

「だから一緒にいるんじゃないか」

 

「そうですね。

そうですよね」

 

にっこり笑うアオ君の唇の端に、焼肉のたれが付いていた。

 

もしここに夫がいたら、ためらいなくお手拭きでアオ君の口元を拭ってやっただろうな。

 

恥ずかしくて俺にはできないけれど。

 

(つづく)

 

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