(9)僕らが一緒にいる理由

 

「そんな男にあいそ尽かして、新しい男を見つけたんじゃないかって...そう思ったんだ。

いや...『女かもしれない』とも思った」

 

「見つけるかよ」

 

僕は夫の首に両腕を巻きつけた。

 

「最初から言ってくれればよかったのに」

 

「...ごめん」

 

真正面から抱き合ったのって、いつ振りだっけ?

 

「さっきも言ったけど、気軽な話し相手のつもりでいたんだ。

事情有りの子だったし、チャンミンに深入りさせたくなかった...っていうか。

はは、言い訳してるね。

とにかく俺が悪かった。

ごめん」

 

「アオ君だけじゃなく、僕も面倒くさい男だ!」

 

「...俺は、面倒くさい男が好きだ。

一筋縄ではいかない男が好きだ」

 

夫は僕の背をさすった。

 

こんな風に全身を互いに預け密着しているのに、ムラムラくるどころか、安心感に包まれるのは『家族』だから?

 

「俺も面倒くさい男だ」

 

「そうだよ、ユノは面倒くさい男だよ。

僕がいないと何もできない男だよ」

 

「ああ。

チャンミンがいないと駄目なのに、浮気なんてするわけないよ」

 

「...僕は家政夫じゃないんですけど?」

 

ああ言えばこう言う男、それが僕。

 

「そういう意味で言ったんじゃないよ」

 

「あっそ」

 

僕は素っ気なく言い、夫の腕の中から逃れて洗面所へ向かった。

 

我が家ではリビングが唯一温かい部屋で、しんしんと冷え込む廊下の床なんてスリッパ無しで歩けない。

 

「チャンミ~ン」と、夫は僕を追いかけてくる。

 

「ごめんよ、チャンミン。

黙ってた俺が悪かった。

今思うと、どうして内緒にしていたのか分かんないよ」

 

「歯が磨けないじゃないか、離れてよ」

 

「離れない」

 

にゃんにゃん猫のようにすり寄ってくる夫を肘で押しのけ、カゴからパジャマを取って再び温かいリビングに戻った。

 

もちろん夫は僕の後を追ってくる。

 

「機嫌直して、お願い」

 

「......」

 

「チャンミ~ン」

 

(そうだそうだ。

せいぜい僕のご機嫌取りをするんだな。

悶々と過ごす羽目になった期間を償ってもらうには、無視程度じゃ足りないけれどさ)

 

ストーブの前でパジャマに着替えていると、背後からすっぽり夫に抱きくるまれた。

 

「もう寝るの?」

 

「ああ、そうだよ。

くたくただよ。

全部、ユノのせいだよ」

 

「ごめん」

 

夫は僕の背中に体重を預け、僕の首筋に鼻を擦りつけ、ついでに耳たぶを噛んだ。

 

「おい!

やめろ!」

 

「やめない」

 

僕の肩はがっちり夫の腕に捉えられているから、逃れようにもそれが出来ない(悔しいが、夫の腕力には勝てない)

 

「あっそ」

 

仕方なく僕は寝室まで夫を引きずっていくのだが、僕の耳にふうふうと熱い吐息が幾度も吹きかけられた。

 

背筋にぞくぞくと痺れが走り、その痺れが下半身を刺激し出したのだ。

 

そして不覚にも、「あ、はぁん」なんて声を漏らしてしまった。

 

「許して、チャンミン。

今夜は目一杯可愛がってやるから」

 

「可愛がって『やる?』」

 

「可愛がらせてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「......」

 

「精一杯ご奉仕させていただきます」

 

先ほどから僕の腰につんつん当たるものを、僕は後ろ手でぎゅっと握った。

 

「...しゃあねぇな」

 

僕らは寝室に着くなり、もつれあったままベッドにダイブした。

 

夫は素早く掛け布団を床に落とし、僕はサイドテーブルの引き出しを漁る。

 

ぱぱっと服を脱ぐ。

 

色気もムードもないけど、夫夫なんてこんなものではないでしょうか?

 

...その後の流れはご想像通り。

 

どれくらいぶりだっけ?

 

1か月?

 

3週間?

 

明日、日記帳で確認してみようっと。

 

 

パンツだけ穿いて、温かい布団の中でごろごろしていた(ベッドの下に散らかしたティッシュは朝、片付けることにしよう)

 

ベッドサイドの目覚まし時計を見ると、午前1時...かれこれ1時間ほど睦み合っていたようだ(言い表し方がいやらしいな)

 

カーテンで隠された窓ガラスは今、僕らが発散した熱と汗で結露しているだろうし、朝日が昇る頃には真っ白に凍り付くと思われる。

 

腕をめいっぱい伸ばして、ベッドの足元に置いた電気ストーブのつまみをひねった。

 

喉が乾いていたけれど、布団から出たくなくて我慢していたら珍しく、本当に珍しく夫が「俺が行く」と申し出たのだ。

 

夫は僕愛用のフリース・ガウンを裸に羽織り、つま先立ちで台所まで走り、水道水をグラスに汲んで戻ってきた。

 

「水~?」と不平を漏らしたら、「ほらよ」とポケットに突っ込んでいた缶ビールを僕に放ってくれた。

 

「おつまみも欲しい」

 

「おっけ」

 

夫は僕のリクエストに応えて台所まで再び走り、袋入りのピーナッツとキムチの大瓶を抱えて戻ってきた。

 

「アオ君ちの虫は退治しなくてよかったの?

僕が来たせいで、それどころじゃなくなったでしょ?」

 

「布団をかぶって震えているだろうね」

 

「えっ!?

そんなの駄目じゃん。

今から助けにいってあげようよ」

 

「スト~ップ!」

 

跳ね起きようとした僕は、夫によってベッドに引きずり戻された。

 

「やり過ぎは駄目だって言ったばかりじゃん。

「虫くらい自分で何とかしないといけない

甘やかしたらいけない

殺虫剤を持っていってやったんだから、後は自分で頑張るだけさ」

 

(つづく)

 

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