15年前も今も、僕はユノとの会話がとても好きだ。
疲れている時や苛ついている時、興味がない時は、適当に聞き流したり、話を遮ってしまうけどね。
ユノが言いそうなことは大体予想がつくくらい、彼の隣で日々を送ってきた。
どんな返答がくるのかわかっているけれど、僕はユノの言葉が好きなのだ。
たまに突拍子もないことを言いだすから、そこも面白い。
小説家を目指すと宣言して以来、日記帳に綴られた文章に変化があらわれてきた。
ボイスレコーダーを仕込んでいたのでは?と疑ってしまうほど、詳細が記録されている。
脚色はしているだろうけど、話題の本質的なものの再現率は高いと思う。
だって、今の僕もそうやって日記を書いているのだから。
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「好きが先か、寝たのが先か、どちらだったっけ?」と、あいまいだった記憶がよみがえってきた。
僕という人間は、堅物で真面目で、手順にこだわるタイプだと思っていた。
アレするのならその前に、気持を確かめ合いたい、って。
その順序が逆になってしまったけれど、あの場の雰囲気と湧いてきた欲求に逆らわずにいただけのこと。
僕とユノ、同時に同じことを望んでいたこと...これが重要ポイントなんだ。
若者らしいなぁと、15年前を振り返っている。
ー15年前の3月某日ー
【ユノの部屋に泊まった翌朝】
午前10時まで布団の中で過ごす。
お尻が痛い。
裸でいることが恥ずかしくなって、ユノと顔を見合わせて照れ笑いした。
「君には彼氏がいるだろう?
それなのに、どうして僕と?」
とは、絶対に訊かない。
ユノも昨夜のことに触れない。
代わりばんこに入浴する。
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どうしてユノとしたかったのか、その理由を考えるのは今じゃないと思う。
深く追求したところで、ネガティブな理由しか思いつかないからだ。
(※失恋心を引きずる僕を励ますために?
恋人とうまくいっていないユノを慰めるために?
20歳そこそこの青年が、成り行き上で寝てしまったことに、意味深がる必要はない。
『やりたかったから』
それで十分じゃないか?
...そう言えるのも、過去のことだからだろうね)
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ユノとバイトに行く途中、ファストフード店で昼食を摂る。
【ユノの話】
前夜の電話の相手は恋人だった。
ユノからかけた電話だった。
週末に恋人と会う約束をした。
関係を終わらせると、心に決めた。
「よかったね」と言うのは無神経だから、「そうなんだ」としか言えない。
好きな奴との別れは辛いけれど、怯える関係をおしまいにできるんだから、ユノの為になる。
前に進まないと。
・
20:00
バイト終了
ユノと同じ部屋に帰る、変な感じだ。
僕らは前夜のことにはお互い一切触れておらず、何事もなかった顔をしている。
僕もユノも困っている。
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ファミレスで夕飯。
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ユノと2回した。
火がついてしまって止められなかった。
とても気持ちがよかった。
ユノも満足そうだった。
終ったあと、顔を見合せて大笑いした。
ユノは僕に「ありがとう」と言った。
僕も「ありがとう」と言った。
何に対しての「ありがとう」なのか分からなかったけど、ユノにお礼が言いたくて、次いで出てしまった「ありがとう」なのだ。
・
【今朝のこと】
目覚めたら、隣にユノがいた。
ユノはまだ眠っている。
いつもなら目を覚まして、頭がクリアになってゆくうちに、胸に靄がかかってくる。
心の中でつぶやく。
「そっかぁ、CCは結婚したんだった」
ふと手を休めた時も、同じ台詞をつぶやいている。
僕の日常に、CCへの嘆き心が組み込まれている。
オートマティックに頭にCCが浮かんでくる。
悲しい辛い感情も、オートマティックだ。
癖になっているんだ。
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今朝は違っていた。
ユノの寝顔を見ていた時に、「あれ?」と思った。
「CCが結婚してしまった、悲しいよ」の感情が湧いてこなかった。
よかった、やっとでCCを忘れられたと喜ぶのはまだ早い。
ユノと肌と肌とをくっつけあっているからだ。
生身の人間ほど凄いものはない。
ユノって...生きているんだなぁ、と当たり前なことに感動していた。
リアルって凄い、って。
CCとは、霞(かすみ)なのだ。
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眠っているのをいいことに、ユノの顔をじっくり観察した。
眉毛・・・弓型のきれいな形。
眼・・・濃いまつ毛
(ユノは一重まぶた?奥二重?)
鼻・・・鼻筋がすっと通っている。
唇・・・小さい。ふっくらとしている。
ユノはとても綺麗な寝顔をしている。
すぐ側にいる者に勝るものはない。
近づけば、見たくないものまで見えてしまうとユノは言っていたけれど、今のところ、ユノからはそういったものは見当たらない。
もっと長い間、一緒にいれば、見えてくるのだろうか。
もしかしたら、誰かと深いかかわり合いを持ったのは、ユノが初めてかもしれない。
(※僕はユノ以外の男と、付き合った経験がない)
初めて関係を持った先輩の顔が思い出せない。
・
駅でユノと別れる。
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以上が、ユノと過ごした2日間だ。
最後まで書くことができて、ほっとしている。
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明日から3日間、帰省する。
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