(18)僕を食べてください(BL)

 

~繋がるだけが愛なのか~

 

「あ...」

 

ユノの喘ぎを聞いた気がして、ついで出たのは「好きだよ」の言葉。

目の前が真っ白になって、つむったまぶたの裏で赤い星がチカチカする。

奥深く突き刺されたまま、腰だけ小刻みに揺らした。

ユノの首にしがみついた両腕が限界だった。

ユノの熱い吐息が僕の首筋にかかる。

僕の吐息が、ユノのひと突きごとに不規則に乱れる。

 

「ユノ...好きだ」

 

感じるユノを見たくて、ユノのサングラスを取り上げた。

眩しいのかユノは、固く目をつむって顔をそむけた。

 

「ユノが...好きだ」

 

こんなにも綺麗な人から、例え同意のもとのものだったとしても、凌辱されているんだと想像すると、たまらなくなる。

貫かれることに幸福を感じている。

そう思った途端、僕の中が引き締まり、膨れ上がったユノのもので中が窮屈だ。

 

「んっ」

 

ユノの耳たぶを食み、耳を頬張った。

耳の穴に、溝に舌を這わせ舐め上げた。

 

「好きだ」

 

ユノの鼓膜に僕の言葉がダイレクトに伝わるといい。

「好きだ」と繰り返しつぶやいた。

ユノの両手が、僕の髪をかき乱す。

ユノの指が触れた頭皮から、ぞくぞくとしたさざ波が背筋へと下りる。

ぴったりと僕の唇がふさがれた。

同時に舌が強めに吸い上げられた。

 

「んっ...」

 

息が苦しい、だから余計に気持ちがいい。

痩せているとはいえ、大の男を軽々と抱えるユノ。

僕はまるで小柄な女の子みたいに、ユノに揺さぶられている。

 

「...無理、もう無理...!」

 

「そんなに...締めつけるな...」

 

他の体位を試す間もなく、僕の絶頂は間際まで来ていた。

 

「おくっ...奥はだめ...もう、ダメっ...奥だめ、奥...ダメっ...奥、奥はぁ!」

 

内へ内へと、ユノのものを飲み込み、うねる僕は...男を忘れた。

 

「ひぁ...ひぃ...や、やぁ...やめ、やめ...」

 

気持ちが良すぎる...。

歯を食いしばって、やり過ごそうとしたが、もう限界だ。

 

「好きだ」

 

抱え上げなおしたユノの腰も揺らし、僕の腰も揺らした。

心臓が痛いくらいに打つ。

鼻水が詰まって、口で呼吸するのがやっとだ。

 

「イキそう...!」

 

水浴びをした後のように、ずぶ濡れに汗をかいていた。

 

「んっ、んっ...」

 

こんなところで、何やってんだ。

両親の事故現場なんだぞ。

罰当たりな。

でも、いいんだ。

全然、構わない。

 

「ユノ...っ!」

 

股間の底が張り詰めてきた。

 

「イキそ...う...」

 

額をユノの肩にあずけ、僕は目をつむる。

 

「ユノ...っ...

ユノっ...。

好き...だ...好き。

...ユノ、好き...好き...はっ、んっ、はっ...」

 

最後のひと突きで絶頂を迎え、ドクドクと僕の中へ注ぎ込まれたもの。

これは...。

僕の排泄器官に満たされたもの。

これって...。

くっくっとユノの腰が痙攣し、最後の一滴まで、僕の中へ放った。

ユノのものが収縮しきるまで繋がったまま、僕は彼の肩に頭をもたせかけていた。

 

「はあ、はあ、はあはあはあはあはあ...」

 

自身の荒い呼吸音が鎮まるにつれ、周囲を包むセミの声と川音が戻ってきた。

ずるんと引き抜いて、僕の身体は地面に下ろされた。

かくんと膝が抜け、ユノに支えられた。

 

「ふらふらじゃないか?」

 

「う、うん...」

 

砂利上に膝をついてしまった僕。

ユノは互いの粘液だらけなのにも構わず、それを下着におさめると、脱ぎ捨てられていたTシャツをとって、僕の背にかけてくれる。

 

「起きれるか?」

 

僕の傍らにひざまずいて、肩を抱くユノの声音が優しい。

 

「...うん...」

 

立ち上がったことで僕の割れ目から、とろっとしたものが垂れる感触が。

指を濡らす白濁した粘液に、僕の幸福感といったら。

なんて光景だろう。

ユノのもので汚された証を目にして、彼の『獲物』になれたと満足だった。

同時に、征服欲が満たされた。

征服感...僕の身体はユノを絶頂に導いてやり、僕の中で放たせてやったのだ。

なぜか、そんな充足感があったのだ。

川砂に投げ捨てられたユノのサングラスを拾い上げた僕は、ふざけてかけて見せた。

そんな僕の仕草に、橋げた下の日陰のユノが微笑んだ。

つくづく、美しい人だと思った。

僕は下着を付け、デニムパンツを履き、Tシャツをかぶった。

下着の後ろがねちゃりと濡れて、その冷たさにうっとりとしてしまう。

僕は水際まで近づきしゃがみこんだ。

川水に浸した手で、火照ったうなじを冷やした。

 

「ユノ」

 

背後のユノに、川面を眺めながら語りかける。

 

「僕らは知り合って未だ4日だ。

『好き』と口にするには、早すぎるのかもしれない。

でも、好きだと言わずにはいられなかったんだ。

僕は明後日には戻らなくちゃいけない。

もし...もしもだよ。

ユノがよければ...もし、僕のことが嫌じゃなければ。

これからも僕に会って欲しい。

ここまで会いにいくから。

僕らはこんなことばかりしてるけれど...。

本当は、ユノと話がしたいんだ。

僕は...ユノのことを知りたい」

 

「知る必要がある?」

 

僕の真後ろからユノの声がした。

汗ばんだ僕の首筋に、ひやりとしたユノの指が触れた。

いつの間にか、足音なく背後にまわっていたらしい。

 

「あるよ!」

 

振り向くと、ユノのホワイトデニムの裾と、キャンバス地のスリッポンが視界に入った。

 

「どんな人なんだろう、って知りたくなるのは当然だろ?」

 

「愛し合うのに、そういう知識は必要なのか?」

 

「え...?」

 

「なあ、チャンミン。

お前は俺と抱き合っている間は、俺のことしか考えていないだろう?

それで十分じゃないか?

初めに言ったように、俺はチャンミンのことが気に入った。

今も、チャンミンのことが気に入っている。

初めて会った時から、チャンミンには俺の気持ちを伝えていたはずだ。

ちゃんと伝わっていなかったのか?」

 

穏やかな口調で、同時に冷静で淡々とした言い方だった。

それが寂しかった。

僕とユノとの間に、大きなすれ違いが横たわっている。

 

「チャンミンのことを気に入っているって言っただろ?

それで十分じゃないか?」

 

額の上に手をかざしてひさしを作ったユノは、僕の隣にしゃがんだ。

 

「チャンミンの顔も身体も声も匂いも、全部好きだ。

特に、お前が喘ぐ声が好きだ。

お前の細くて真っ直ぐなペニスが好きだ。

それじゃ駄目なのか?」

 

「セフレってことか?」

 

「どうしてそんな発想になるのかな。

好きじゃなければ、チャンミンのを舐めたりしないし、挿れたりしない。

俺の気持ちは伝わっていなかったのかな?」

 

そういうことか。

ユノは僕の顔と身体を気に入って、それを恋だと勘違いをしているのかもしれない。

肉体の愛。

互いの身体に舌を這わせ、指をなぞらせ、性器を接触させる行為そのものを、彼は愛と思い込んでいる。

僕はとっくの前に、彼に夢中になっているというのに。

ユノの身体を求めてしまうのは、股間を熱くさせてしまうのは、肉体の繋がりこそがユノの信じる愛なんだということを、僕は察していたのだろう。

僕の身体に触れることが、イコール、僕への愛情。

ユノに触れられて漏らす恍惚の喘ぎが、イコール、ユノへの愛のささやき。

身体の繋がりなしに僕らの関係は成立しないのか。

生まれてはじめての、脳みそまで痺れてしまうほどの愉楽を知った。

僕も僕だけど、ユノもユノだ。

今さら、心同士の繋がりを育てていくことは可能なのだろうか?

 

「僕は好きな人とヤリたいよ」

 

と、ユノの手が伸びて僕が制する隙もなく、デニムパンツのボタンが外された。

 

「やめろ!」

 

続けてファスナーが下ろされ、下着から萎えた僕のものが引っ張り出された。

 

「やめ...ろ!」

 

ユノは僕の股間に顔を伏せ、柔く小さくしぼんだ僕のものを口に頬張った。

 

「ひぃっ...」

 

ユノの肩を押して抵抗したけど、それは形ばかりのものに過ぎない。

口で愛撫されてしまったら...もう...僕は。

 

「ああぁ」

 

敏感に反応してしまう、自身の浅ましさときたら...。

ユノの口の中で、あっという間に勃起する。

亀頭を咥えながら、根元からカリの部分まで、ゆるく握った手でしごかれた。

最初は機械的なリズムで、ゆっくりと上下にしごかれる。

カリのくぼみをちろちろと舐めまわされ、唇でひっかけられた。

 

「あっ...」

 

裏筋が吸い上げられながら、小刻みに舐められる。

快楽の泥沼の底に沈んでいく。

僕は黄金色の沼に沈んだままだ。

恍惚の沼の底に横たわって、光きらめく水面を見上げていた。

黄金色の蜜がとろとろと揺らめいている。

綺麗だった。

僕はもう浮上できない。

 

「ひっ...」

 

たっぷりの唾液でぬるぬるになって、ユノの口内で舌が踊って、僕は天を仰いで恍惚の世界を漂う。

 

「あぁ...っ」

 

深く咥えこまれ、喉奥で圧迫された。

 

「ひっ...!」

 

かすれた悲鳴が漏れた。

きつく握られていた根元が解放された。

緩く早く、柔くきつく刺激されて、僕は達する。

ユノの喉が動いて、放出された薄い吐精がごくりと飲み込まれた。

これがユノの好意の証か。

顔を起こしたユノは、唾液でつややかに濡れた唇を手の甲で拭った。

 

「わかった?」

 

サングラスをかけていない、明るい日差しの下のユノの顔。

柔らかそうな前髪が、川風にさらわれおでこが露わになった。

 

「眩しい。

返せ」

 

かけたままだったサングラスを、僕は外してユノに手渡した。

僕の瞳は、色彩と光、そして現実世界を取り戻した。

 

「ユノ...」

 

この時だ。

順光にさらされたユノの紺碧色の瞳と、初めて真正面から目が合ったのは。

 

(つづく)