~繋がるだけが愛なのか~
「あ...」
ユノの喘ぎを聞いた気がして、ついで出たのは「好きだよ」の言葉。
目の前が真っ白になって、つむったまぶたの裏で赤い星がチカチカする。
奥深く突き刺されたまま、腰だけ小刻みに揺らした。
ユノの首にしがみついた両腕が限界だった。
ユノの熱い吐息が僕の首筋にかかる。
僕の吐息が、ユノのひと突きごとに不規則に乱れる。
「ユノ...好きだ」
感じるユノを見たくて、ユノのサングラスを取り上げた。
眩しいのかユノは、固く目をつむって顔をそむけた。
「ユノが...好きだ」
こんなにも綺麗な人から、例え同意のもとのものだったとしても、凌辱されているんだと想像すると、たまらなくなる。
貫かれることに幸福を感じている。
そう思った途端、僕の中が引き締まり、膨れ上がったユノのもので中が窮屈だ。
「んっ」
ユノの耳たぶを食み、耳を頬張った。
耳の穴に、溝に舌を這わせ舐め上げた。
「好きだ」
ユノの鼓膜に僕の言葉がダイレクトに伝わるといい。
「好きだ」と繰り返しつぶやいた。
ユノの両手が、僕の髪をかき乱す。
ユノの指が触れた頭皮から、ぞくぞくとしたさざ波が背筋へと下りる。
ぴったりと僕の唇がふさがれた。
同時に舌が強めに吸い上げられた。
「んっ...」
息が苦しい、だから余計に気持ちがいい。
痩せているとはいえ、大の男を軽々と抱えるユノ。
僕はまるで小柄な女の子みたいに、ユノに揺さぶられている。
「...無理、もう無理...!」
「そんなに...締めつけるな...」
他の体位を試す間もなく、僕の絶頂は間際まで来ていた。
「おくっ...奥はだめ...もう、ダメっ...奥だめ、奥...ダメっ...奥、奥はぁ!」
内へ内へと、ユノのものを飲み込み、うねる僕は...男を忘れた。
「ひぁ...ひぃ...や、やぁ...やめ、やめ...」
気持ちが良すぎる...。
歯を食いしばって、やり過ごそうとしたが、もう限界だ。
「好きだ」
抱え上げなおしたユノの腰も揺らし、僕の腰も揺らした。
心臓が痛いくらいに打つ。
鼻水が詰まって、口で呼吸するのがやっとだ。
「イキそう...!」
水浴びをした後のように、ずぶ濡れに汗をかいていた。
「んっ、んっ...」
こんなところで、何やってんだ。
両親の事故現場なんだぞ。
罰当たりな。
でも、いいんだ。
全然、構わない。
「ユノ...っ!」
股間の底が張り詰めてきた。
「イキそ...う...」
額をユノの肩にあずけ、僕は目をつむる。
「ユノ...っ...
ユノっ...。
好き...だ...好き。
...ユノ、好き...好き...はっ、んっ、はっ...」
最後のひと突きで絶頂を迎え、ドクドクと僕の中へ注ぎ込まれたもの。
これは...。
僕の排泄器官に満たされたもの。
これって...。
くっくっとユノの腰が痙攣し、最後の一滴まで、僕の中へ放った。
ユノのものが収縮しきるまで繋がったまま、僕は彼の肩に頭をもたせかけていた。
「はあ、はあ、はあはあはあはあはあ...」
自身の荒い呼吸音が鎮まるにつれ、周囲を包むセミの声と川音が戻ってきた。
ずるんと引き抜いて、僕の身体は地面に下ろされた。
かくんと膝が抜け、ユノに支えられた。
「ふらふらじゃないか?」
「う、うん...」
砂利上に膝をついてしまった僕。
ユノは互いの粘液だらけなのにも構わず、それを下着におさめると、脱ぎ捨てられていたTシャツをとって、僕の背にかけてくれる。
「起きれるか?」
僕の傍らにひざまずいて、肩を抱くユノの声音が優しい。
「...うん...」
立ち上がったことで僕の割れ目から、とろっとしたものが垂れる感触が。
指を濡らす白濁した粘液に、僕の幸福感といったら。
なんて光景だろう。
ユノのもので汚された証を目にして、彼の『獲物』になれたと満足だった。
同時に、征服欲が満たされた。
征服感...僕の身体はユノを絶頂に導いてやり、僕の中で放たせてやったのだ。
なぜか、そんな充足感があったのだ。
川砂に投げ捨てられたユノのサングラスを拾い上げた僕は、ふざけてかけて見せた。
そんな僕の仕草に、橋げた下の日陰のユノが微笑んだ。
つくづく、美しい人だと思った。
僕は下着を付け、デニムパンツを履き、Tシャツをかぶった。
下着の後ろがねちゃりと濡れて、その冷たさにうっとりとしてしまう。
僕は水際まで近づきしゃがみこんだ。
川水に浸した手で、火照ったうなじを冷やした。
「ユノ」
背後のユノに、川面を眺めながら語りかける。
「僕らは知り合って未だ4日だ。
『好き』と口にするには、早すぎるのかもしれない。
でも、好きだと言わずにはいられなかったんだ。
僕は明後日には戻らなくちゃいけない。
もし...もしもだよ。
ユノがよければ...もし、僕のことが嫌じゃなければ。
これからも僕に会って欲しい。
ここまで会いにいくから。
僕らはこんなことばかりしてるけれど...。
本当は、ユノと話がしたいんだ。
僕は...ユノのことを知りたい」
「知る必要がある?」
僕の真後ろからユノの声がした。
汗ばんだ僕の首筋に、ひやりとしたユノの指が触れた。
いつの間にか、足音なく背後にまわっていたらしい。
「あるよ!」
振り向くと、ユノのホワイトデニムの裾と、キャンバス地のスリッポンが視界に入った。
「どんな人なんだろう、って知りたくなるのは当然だろ?」
「愛し合うのに、そういう知識は必要なのか?」
「え...?」
「なあ、チャンミン。
お前は俺と抱き合っている間は、俺のことしか考えていないだろう?
それで十分じゃないか?
初めに言ったように、俺はチャンミンのことが気に入った。
今も、チャンミンのことが気に入っている。
初めて会った時から、チャンミンには俺の気持ちを伝えていたはずだ。
ちゃんと伝わっていなかったのか?」
穏やかな口調で、同時に冷静で淡々とした言い方だった。
それが寂しかった。
僕とユノとの間に、大きなすれ違いが横たわっている。
「チャンミンのことを気に入っているって言っただろ?
それで十分じゃないか?」
額の上に手をかざしてひさしを作ったユノは、僕の隣にしゃがんだ。
「チャンミンの顔も身体も声も匂いも、全部好きだ。
特に、お前が喘ぐ声が好きだ。
お前の細くて真っ直ぐなペニスが好きだ。
それじゃ駄目なのか?」
「セフレってことか?」
「どうしてそんな発想になるのかな。
好きじゃなければ、チャンミンのを舐めたりしないし、挿れたりしない。
俺の気持ちは伝わっていなかったのかな?」
そういうことか。
ユノは僕の顔と身体を気に入って、それを恋だと勘違いをしているのかもしれない。
肉体の愛。
互いの身体に舌を這わせ、指をなぞらせ、性器を接触させる行為そのものを、彼は愛と思い込んでいる。
僕はとっくの前に、彼に夢中になっているというのに。
ユノの身体を求めてしまうのは、股間を熱くさせてしまうのは、肉体の繋がりこそがユノの信じる愛なんだということを、僕は察していたのだろう。
僕の身体に触れることが、イコール、僕への愛情。
ユノに触れられて漏らす恍惚の喘ぎが、イコール、ユノへの愛のささやき。
身体の繋がりなしに僕らの関係は成立しないのか。
生まれてはじめての、脳みそまで痺れてしまうほどの愉楽を知った。
僕も僕だけど、ユノもユノだ。
今さら、心同士の繋がりを育てていくことは可能なのだろうか?
「僕は好きな人とヤリたいよ」
と、ユノの手が伸びて僕が制する隙もなく、デニムパンツのボタンが外された。
「やめろ!」
続けてファスナーが下ろされ、下着から萎えた僕のものが引っ張り出された。
「やめ...ろ!」
ユノは僕の股間に顔を伏せ、柔く小さくしぼんだ僕のものを口に頬張った。
「ひぃっ...」
ユノの肩を押して抵抗したけど、それは形ばかりのものに過ぎない。
口で愛撫されてしまったら...もう...僕は。
「ああぁ」
敏感に反応してしまう、自身の浅ましさときたら...。
ユノの口の中で、あっという間に勃起する。
亀頭を咥えながら、根元からカリの部分まで、ゆるく握った手でしごかれた。
最初は機械的なリズムで、ゆっくりと上下にしごかれる。
カリのくぼみをちろちろと舐めまわされ、唇でひっかけられた。
「あっ...」
裏筋が吸い上げられながら、小刻みに舐められる。
快楽の泥沼の底に沈んでいく。
僕は黄金色の沼に沈んだままだ。
恍惚の沼の底に横たわって、光きらめく水面を見上げていた。
黄金色の蜜がとろとろと揺らめいている。
綺麗だった。
僕はもう浮上できない。
「ひっ...」
たっぷりの唾液でぬるぬるになって、ユノの口内で舌が踊って、僕は天を仰いで恍惚の世界を漂う。
「あぁ...っ」
深く咥えこまれ、喉奥で圧迫された。
「ひっ...!」
かすれた悲鳴が漏れた。
きつく握られていた根元が解放された。
緩く早く、柔くきつく刺激されて、僕は達する。
ユノの喉が動いて、放出された薄い吐精がごくりと飲み込まれた。
これがユノの好意の証か。
顔を起こしたユノは、唾液でつややかに濡れた唇を手の甲で拭った。
「わかった?」
サングラスをかけていない、明るい日差しの下のユノの顔。
柔らかそうな前髪が、川風にさらわれおでこが露わになった。
「眩しい。
返せ」
かけたままだったサングラスを、僕は外してユノに手渡した。
僕の瞳は、色彩と光、そして現実世界を取り戻した。
「ユノ...」
この時だ。
順光にさらされたユノの紺碧色の瞳と、初めて真正面から目が合ったのは。
(つづく)