【20】僕を食べてください(BL)

 

 

~人形のよう~

 

 

処理場に繋がる道から下りてきた1台トラックと、二人の乗ったX5が三差路で鉢合わせになった。

 

2台の車がすれ違えない道幅で、ユノはX5を退避場まで後退させた。

 

すれ違いざま、トラックの運転手は高級車の助手席に座るチャンミンに気付いて、停車した。

 

荷台には4匹の猟犬を閉じ込めた4台の檻と、イノシシ用の箱罠、何かが入ったポリタンク、鎖などの物騒なものが載せられている。

 

猟犬たちは、柵の隙間から鼻づらを出して歯をむき出して唸ったり、唾を飛ばしながらチャンミンたちに向かって吠えたてていた。

 

「おお、チャンミン!」

 

サイドウィンドウが開いて、Sがチャンミンに声をかける。

 

運転席のユノに気付くと、Sは驚愕の表情を見せたが、瞬時にそれを消した。

 

Sの問うような表情に気付いたチャンミンは、「ユノのことを、なんて紹介しよう」と逡巡しているうちに、

「同じ学校に通っています」とユノは如才なく答えた。

 

Sはしばらくチャンミンとユノを交互に見ていたが、「じゃあな」と手を挙げて発車させた。

 

クラクションを鳴らすと、吠え喚く猟犬の乗せたトラックは走り去っていった。

 

Sとユノの視線が、一瞬意味ありげに絡んだことに、チャンミンは気付かなかった。

 

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

僕の背後に音もなく忍び寄れるのだから、野生動物のような俊敏さを持っているはずだ。

 

けれど、今のユノは動きにキレがなく、気怠そうだった。

 

ところが、「お手並み拝見」

 

廃工場に着くなり、そう言ってユノは服も下着も全部脱いでしまった。

 

「今日はもう、ヤラないんじゃ...」

 

ユノに添い寝しながら、たわいもない会話を交わすつもりでいた。

 

「疲れているんだろ...だから、やめておこう...」

 

高い位置から差し込むオレンジ色の夕日に、ユノの白い身体が照らされて、息をのむほど綺麗だった。

 

肩からウエスト、腰へと逆三角形に流れる直線、太ももに挟まれた翳りなど、全身がきゅっと引き締まっていて、理想的なパーツを組み立てたらこうなるんじゃないだろうか。

 

そういえば、明るい日の下でユノの裸を見るのは初めてだった。

 

呆けてしばらく、見惚れていた。

 

彼が綺麗過ぎて、欲情がわいてこなくて焦った。

 

ユノに倣って僕も、Tシャツもデニムパンツも、下着も全部脱いだ。

 

僕のその気がない振りも、こんな程度だ。

 

数日前まで知らなかった愉悦の沼に足を浸けてしまった僕。

 

僕の中に天秤があって、片方に心という名の分銅が、もう片方に肉体という名の分銅が乗せられていて、その場の雰囲気で容易に揺れる。

 

両方がつり合っている時間が極めて短い。

 

今の僕の天秤が、どちら側に大きく傾いているかは言わずもがな。

 

もちろん、ユノとの精神的な繋がりを欲している。

 

小学生の僕とユノは会っていた。

 

墜落寸前の事故車から僕を救い出してくれた。

 

ユノの年齢のことや、くるくる変わる瞳の色のことや、不思議が沢山つまった彼のことをもっと知りたい。

 

もしかして、ユノは人間じゃないのでは?

 

シリコン製の人形のように温かみのない肌を持っている。

 

怪我をしたのかしていないのか、現実と夢も分からなくなってしまった。

 

きっとそうだ。

 

故郷に着いたあの日、僕はエアーポケットみたいな所に迷い込んでしまった。

 

そこで、僕は綺麗なお人形と戯れているんだ。

 

街へ帰らなければならない2日後に、気付いたら駅のロータリーにいたりするんだ、きっと。

 

それならそれで、いい。

 

いや、その方がいい。

 

白昼夢の世界にいるのなら、不思議は多いほどよい。

 

ユノの裸を前にしても、僕のものはわずかに顔をもたげた程度で、僕は焦った。

 

しごいても、反応がない。

 

「くそっ」

 

僕はユノが信じる愛に応えなければならないのに。

 

刺激すればするほど、僕の手の中でそれは惨めに小さくなっていくばかりだ。

 

情けない僕は、全裸でマットレスに腰掛けたユノの肩を押して仰向けにさせると、彼に身体を密着させた。

 

横抱きにしたユノの首に顔を埋めて、「ごめん」と謝った。

 

「チャンミンのは勃たなくてもいいんだよ」

 

「それはそうだけど...」

 

さらさらとこすれるユノの肌が冷たくて気持ちがいい。

 

僕も疲れているみたいだ。

 

ユノの耳に「好きだ」と囁いた。

 

今の僕は、ユノの信じる愛に応えられないから、僕の信じる愛を言葉で伝える。

 

(僕がここにいられるのは、あと2日。

それも、明後日の午前中にはここを発たなければならない。

時間がない)

 

ユノの身体に刻みつけなければ。

 

ユノのみぞおちに広げた片手を乗せた。

 

柔らかく押し返す弾力の心地よさを味わいながら、手の平で触れるか触れないかの距離で、そうっと下へ撫でおろした。

 

その間、半開きにしたユノの瞳から目をそらさない。

 

ユノの瞳の色が、瑠璃色だった。

 

やっぱり、ユノは人形だ、と思った。

 

僕の手はユノの太もものつけ根まで到達し、下へ忍び込む。

 

僕は初めてユノのそこに触れた。

 

なんて大きくて固いんだろう。

 

それから...なんて美しいんだろう。

 

人差し指と親指で輪を作り、ゆっくりと上下にしごいた。

 

ユノの肩に鼻先を押しつけて、僕は吐息を漏らす。

 

柔らかな袋をかき分けて、手の平で優しく揉んだ。

 

ユノの腰がぴくりと震えた。

 

指を濡らすユノの先から湧いた液に、僕の呼吸は荒くなる。

 

ユノの表情と身体の震えに神経を注ぐ。

 

どうやればいいか分からないけれど、ユノを気持ちよくさせたい。

 

指を手前に引いて、曲げた指先でそこをタップするように刺激した。

 

ユノの顎が上がって、半開きにした唇からかすかに声が漏れた。

 

じわっとぬるりとした粘液が溢れてきて、先走りという名の愛液か、と思った。

 

よかった、感じてくれてる。

 

僕はもう片方の手でユノの顎をつまむと、深く口づけた。

 

ユノの腰が浮いて、膝が小さく痙攣した。

 

ユノの甘い吐息を飲み込む。

 

嬉しくなった僕はユノの舌をからめて、ぐるりと上あごを舐め上げた。

 

僕の舌の動きに合わせて、ユノの引き締まった白い腹が揺れる。

 

ユノの手が僕の手首を押さえたが、僕は無視をした。

 

本気で嫌なら、ユノに手首をを折られているだろう。

 

僕の手はどんどん濡れていく。

 

僕の身体も火照ってきて、その熱はユノの肌に吸い込まれていった。

 

この数日、イってばかりの僕のものは半勃ちにしかならない。

 

次は僕の唇で。

 

両膝を大きく押し開き、僕はユノの両ももの間に顔を埋める。

 

舌全体を使ってぺろりと舐め上げ、尖らせた舌先でちろちろとくすぐった。

 

ユノのものが完全に直立した。

 

ユノを舌で刺激しながら、輪にした指も強弱をつけて上下にこする。

 

自身の自慰の時を思い出しながら。

 

もう片方で太ももを優しく撫でさする。

 

唇はもちろん、僕の鼻先からあご先までユノのぬめりにまみれて、僕は手探りでユノを愛した。

 

ユノの足先が伸びて、小刻みに腰が震えている。

 

いける。

 

ユノの腰の上に跨った。

 

ユノのものに手を添えて、ゆっくりと挿入した。

 

「は...あ...」

 

ユノのものは僕の中へと吸い込まれ、うごめく僕の中が窮屈だ。

 

「あ...」

 

なんて気持ちがいいんだろう。

 

最初は緩く大きくスライドしていたけど、駄目だ、余裕がなくなってしまう。

 

「はっ...はっ...」

 

ユノにぶち当てるように、激しく腰を突き落とす。

 

肌同士が叩く音が響く。

 

「好きだ、ユノ、好きだ」

 

もっと深く、深く、ユノに挿ってほしい。

 

仰向けだったユノの腕を引っ張って起こして、彼の首に腕を回す。

 

ユノに跨って、隙間なくぴったりと肌同士を密着させ、口づけて...上も下も全部、彼と一体になりたい。

 

それまで、僕に身をゆだねていたユノが、動きを開始させた。

 

ユノは僕の腰を押さえつけ、自身の腰をグラインドさせる。

 

ねっとりと、僕の吐息に耳をすましながら、僕の中をかき回すのだ。

 

「あっ...はっ...」

 

腰を大きく突き上げられる度に、僕の身体は踊った。

 

ユノと僕の腹の間で、僕のものもぴたぴたと揺れて叩く。

 

「好きだ...んっ...」

 

ユノは僕の胸先を口に含んで、舌で転がし、強く吸った。

 

「...あはっ...」

 

僕は喘ぎと共にユノに問う。

 

「好き?

僕のこと、好き?」

 

ユノを知りたい。

 

ユノの身体を通して、彼の心を探ろうとしても。

 

言葉で通じない代わりに、身体で愛を注ごうとしても。

 

ユノから快楽以外のものを引きずり出せない。

 

「好き?」

 

「...好きだ」

 

ユノはそう答えてくれたけど...彼が指摘した通りだ。

 

抱き合っている間は、互いのことしか考えていない。

 

ユノと繋がっているという行為に興奮し、全身を震わす快感に夢中になり、そして彼の心も欲しいと願う。

 

身体を離した後も、繋がっていたいと願う。

 

繋がるとは...心のこと。

 

でも、ユノはそうじゃないらしい。

 

だから僕は、ユノとずっと身体を繋げていないといけないんだ。

 

もっと話がしたいのに、結局交わり合うことに終始してしまうのは、そのためなのか?

 

ユノとの精神的な繋がりを求めれば求めるほど、かえって僕が溺れていくだけだった。

 

 

 

(つづく)

 

 

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