~もっともっと~
僕らは交わりながら、体位を変える合間に会話をする。
もしくは、激しく互いを貪るようなセックスの後に裸のまま。
「人間の血の味に慣れると、大変なんだってさ。
もっともっと欲しくなるんだって。
力がみなぎって感覚が研ぎ澄まされて...人間でいうと、麻薬をやったみたいになれるんだって。
これは、同じ種族の者に聞いた話」
ユノはするすると僕の股間まで頭を下げて、勃ち上がりかけた僕のペニスの亀頭にちゅっとキスをした。
唇を離すと、つーっと僕の先走りが糸を引き、ユノはそれを舌で舐めとった。
「チャンミンの味がする」と耳元で囁いたりするから、僕は赤面するしかない。
「飢えて苦しむのは目に見えてるから、人間の血にだけは手出ししないようにしてた。
俺はせいぜい、恋人のものを一滴舐めるだけ。
...何度も噛みついてしまってごめん」
僕を射精に導いたユノは、口を拭いながら枕の高さまで戻ってきた。
「本当は、飲んでみたいんでしょう?」
「そうだなぁ...。
でも、俺は生きている人間から直接飲んだ経験はないからなぁ。
その魅力がどれくらいのものなのかは、俺は知らない。
憧れるけどね」
「僕を...もっと美味しくしてから、食べるってどういう意味なんだ?」
「愛する恋人っていうのを、食べてみたかったんだ」
「恋人?」
「食べるって言い方はおかしいな...。
恋人の生き血を飲んでみたかったんだ。
老いさらばえて死を迎えるのを待つことに、ウンザリしていた」
心など摩耗してしまったとユノは言うけれど、本当は恋人を亡くし続けて悲しくて仕方がないんだ。
ユノの言う「ウンザリ」とは、そういう意味に僕は捉えていた。
「一度だけでいい。
自分の手で恋人の命を奪ってみたかった。
若く、美しい姿でいるうちに」
ユノの指が僕の顎を捕らえた。
顎の骨が砕けそうな力加減ではなく、ふわりとしたタッチで。
ユノの中に残る優しい気持ちのあらわれなんだ、きっと。
内出血で青黒い痣が浮かびかけた両手首をさすりながら、僕はそう思った。
「チャンミンを惚れさせ、服従させ、怯えた視線を浴びながら、じわじわと少しずつ血を抜いてやろうと思った。
残忍だろ?」
ユノが言うと、全然残忍じゃなかった。
僕はごくりと喉を鳴らす。
恐怖じゃない。
ユノの小さな頭が僕の肩にもたせかけられた。
その軽さがユノの命の重さなんだと想像して、哀しくなる。
命を節約しながら生きているユノは、僕らから見ると、生きているとは言えないくらい薄い命なんだ。
「でも、途中で気が変わった。
俺は、チャンミンに惚れた。
生かしておきたい」
僕もユノに惚れている。
命がけで。
近くまで『調達』しに来るというユノと、僕は街中で待ち合わせることもあった。
ユノの廃工場には電話がないから、ユノから誘いの電話がかかってくるのを、僕は寮で待つ日々だった。
僕は毎日でも交わりたかった。
がむしゃらだった僕のセックスも、コントロールする術を身につけてきていた。
「チャンミンもうまくなった」とユノに褒められると僕は赤面してしまい、そんな僕の様子をユノは笑った。
ユノのX5のラゲッジスペースには大きなクーラーボックスとスーツケースが積み込まれていた。
ユノの食糧調達に必要なもの。
(Sさん経由のものだけじゃ足りない時は、それなりのルートを通して手に入れているんだって)
X5はホテルの地下駐車場のスロープをゆっくりと下りていく。
この日のユノは、ダスティブルーのサマーニットとホワイトデニムという爽やかないでだちで、係員にキーを預けた。
僕はユノにもたれて腰を抱かれる。
エレベータの中で、股間をつかまれた。
デニムパンツの上からでもくっきりと、僕のものが浮かび上がるくらい、高ぶっていた。
部屋に入るなり、互いの唾液でどろどろになるような深いキスを交わす。
互いに性急に衣服を脱ぎ捨てる。
「あっ...あ...あっ...」
ユノの白い腰の中心で猛々しくなったものに、僕は欲情で沸騰しそうになる。
ユノは僕を仰向けにすると、お尻をこちらに向けてまたがった。
心得ている僕は、開脚して腰を浅く持ち上げた。
僕のお尻を割ったユノは、「おやおや」と呆れ声を出す。
「...だって...」
「準備万端じゃないか。
いつから入れてた?」
「...あ、朝から」
「チャンミンは、どスケベのど変態だ」
その口調は嬉しそうだった。
ユノと会えない期間が空くし、僕の手だけじゃ限界もある、会ったら直ぐに繋がりたかった。
「おい。
口が留守になってるぞ」
「...うんっ...」
上からぶら下がるユノのペニスを喉をのけぞりながら咥え、破裂音を発せながらしゃぶった。
ペニスの先をしごきながら、ユノの睾丸を口いっぱいにふくんだり、柔く吸ったりする。
「フェラチオは下手クソのままだな」
僕のお尻はバシッと叩かれ、かっと熱く広がる痛みが快感に変わる。
「...だって...だって」
ユノは、僕の穴を塞いだプラグをねじったり、抜けるぎりぎりまで引いたかと思えば押し込んだりする。
「んあっ!」
それを使ってのピストン運動が始まった。
僕のお尻をユノの手の平が叩く音が、室内にリズムを刻む。
僕の膝が小刻みに震えている。
「だめぇっ」
ユノの手が僕のペニスに回ってきたから、跳ねのけた。
イキそうになって、自身の根元を指で締め付けた。
「それ、やだっ...やだ...。
ユノの...ユノのでイキたい!」
ユノの両ももの間から抜け出た僕は、傍らに膝まずいて彼のペニスを頬張り直した。
頭を前後に動かし、手も舌も使って愛撫する。
ユノも僕の後頭部を押しつけながら、かくかくと腰を前後させる。
「んっ...んぐっ...ぐっ、んん...!」
ユノのペニスが喉奥に当たり、窒息しそうになるけど、ユノはこれ程度じゃ解放してくれない。
えずきを堪えて、涙をにじませながら僕は必死で奉仕する。
ぐぐっとユノの腰が痙攣して、喉奥に注ぎ込まれた熱いものを、僕はごくりごくりと飲み込んだ。
ユノのものは未だ臨戦態勢で、粘液にまみれて光っている。
僕の喉が、ごくりと鳴る。
気付けば僕は、うつぶせになって尻を高く突き出した姿勢でいた。
「欲しくてたまらないんだな。
ゆるゆるだぞ?」
僕のお尻に刺さったプラグを、くいくいと引っ張るから、それに合わせて僕はおかしな声をあげてしまう。
「このまま挿れてやろうか?」
ユノは信じられないことを言った。
「やっ!
無理、無理だって...」
ユノは自身ののペニスにたっぷりとローションを追加した。
「さて...と」
根元に手を添えて、シリコン製のものが刺さったままの割れ目に沿って滑らした。
「やだっ...抜いてよ、抜いてから!」
「どうかなぁ。
やってみないと分かんないよ」
「やっ、やっ...ダメっ...ダメだってぇ」
どうやらユノは、小道具を埋めたままの入り口に、自らのペニスを突っ込もうとしているようだった。
「...そんなっダメ、ダメ、無理無理っ...止めてったら!」
ぞっとした僕は叫ぶ。
身を起こそうとしたのを、強靭なユノの手で封じられる。
「ふうん。
チャンミンが可哀想だから、これは止めといてやるか」
「ひゃあんっ!」
勢いよくプラグが抜かれ、全身を貫く電流に僕は前のりに突っ伏してしまった。
ユノは手にしたそれをベッドの向こうに放り投げた。
「こいつで勘弁してやるか」
「えっえっえっ...?」
ぬるっと冷たいものが入り口に当てられ、とまどう間もなく、ユノの指によってその何かが押し入れられた。
振り向くと、僕のお尻からひも状のものがぶら下がっていた。
「凄いなぁ...飲み込んでいくぞ」
「ああぁんっ!」
紐の先の先端のものを装置を操作した。
腰奥で振動する異物...ちょうど弱くて敏感な箇所に位置していたから、視界が真っ白になる。
「ひゃぅっ...やー、やっ、壊れるって、壊れるっ!」
僕の制止なんて聞く耳を持たないユノは、ダイヤルを最強にしたようだった。
「いっ、いいっ...ひっ、ひぃっ...!」
快感を逃そうとシーツを握りしめる。
ホテルのシーツはパリッと糊がきいていた。
「いい子だから、じっとしていろ...。
もう一個追加だ」
「そんな...ダメ...ダメだって...!」
「気持ちよくさせてやるから」
「それはっ...あっ...あぁぁ...!」
ユノはもう1つのそれを僕の奥まで押し込むと、ひも状のものの先端を操作した。
2つの異物がぶつかり合い、振動を増幅させるから、快感もとんでもないことになる。
多分、この時点で一度はイッてしまったと思う。
「すごいねぇ。
エロおもちゃだけで、イッちゃったよこの子は」
「...っく、ひっく、ひぃっく...」
僕はしゃくりあげている。
「さてさて、3つ目はどうかなぁ?」
返事が出来る状態じゃなかった。
口は開きっぱなしになり、とめどなく唾液が顎を濡らす。
「...と思ったけど、可哀想だから止めておく。
その代わりに、お待ちかねのを突っ込んでやるよ」
ユノのペニスがみちみと僕の中に侵入してくる。
「やーやー、壊れる...!
おっきいの、ダメ...おっきいの、壊れるっ...やー!」
ユノの亀頭が入り口をずくずくと刺激する。
加えてユノの根元が、僕の股間の裏を振動する卵を圧迫する。
ユノのピストン運動に合わせて、僕の両ももの間でカチャカチャと2つのスイッチがぶつかっている。
切な過ぎる痺れに、僕は肩からベッドに倒れこんだ。
「イっちゃうイっちゃうイっちゃう、イっちゃうってばぁ!!」
イキそうになると、僕の尻は叩かれる。
「イクな!
...なんて言ってて、もうイッてるじゃないか」
「ひぃっ...ひぃっ...ひっ、ひっ...」
腰が砕けるような恍惚の世界を知ってしまったら、僕はユノにひれ伏すしかないじゃないか。
叩きつけるユノの腰のスライドも、勢いも加速した。
僕は枕を噛みしめた。
ユノの低い呻き声が、僕を感じさせる。
「やめてっ...もう無理無理...!」
「止めて欲しいのか?」
再びユノにお尻を叩かれた。
「や、ヤダっ...止めないで...!」
僕らの蜜の池は水深100メートルまで深くなり、黄金色の水面は遠すぎてもう見えない。
浮上したくない。
水面から顔を出したら、モノクロの世界が広がっているだけなのだから。
幸せなのに不幸せ。
僕を混乱させる。
(つづく)