(26)添い寝屋

 

 

「チャンミンのは勃たなくてもいい」

 

慰めにもならない言葉だけど、僕は一気に気が楽になった。

 

僕らは今、一糸まとわぬ生まれたままの姿で重なっている。

 

僕が苦しくないよう、肘と膝で体重を逃してくれているところに、男らしい優しさにときめいてしまう(僕は女子じゃないけどね)

 

人形のように華麗に美しい顔...視線を下げていくと、がっしりした両肩と盛り上がった筋肉の二つの丘。

 

それより下は目で確かめることはできない。

 

だって、みぞおちから下はぴったりと密着しているんだもの。

 

着やせして見えるとはユノのことを言うんだろう。

 

ユノの背にしがみつくと分かる、厚みのある胸に、ああ僕は今、この逞しい身体に組み敷かれているんだ...。

 

うっとりしかけて、はっとする。

 

僕はユノを前にして、まるで女の人みたいなことを思っている。

 

(女の人がアレの時、どんなことを思っているかは想像するしかないけど、きっとそうなんじゃないかな、って)

 

僕らの身体でサンドされた、僕のアソコにユノのアソコ。

 

オイルまみれの僕の身体はユノの上でするする滑る。

 

互いの肌がこすれるごとに、ユノのアソコの先が僕の肌を刺激する。

 

触って確かめたわけじゃないけれど、僕のムスコは目覚めていないだろう。

 

僕の呼吸はふうふうと荒々しく、ユノとしたくて仕方がない興奮状態にあるのに、あそこはしょんぼりしているのだ。

 

僕の体内で欲が渦巻いているのに、出口を塞がれたアソコのせいで、股間がウズウズと熱がこもって苦しい。

 

噴火したくても火口を塞がれて、地底でマグマが滞留し続けている...みたいな。

 

視界が暗くなった途端、ユノの顔が近づいてきて斜めに唇が重ねられた。

 

ユノの熱々な舌が僕の舌をすくい、上顎の裏をくすぐられて、「んん...」と喉奥からうめき声が出てしまう。

 

ユノの髪を梳く。

 

固いのに弾力のいい筋肉質なお尻にくらくらする。

 

ユノのいいところを触りたくなって、その手を下へと移動させたとき、

 

「あ...!」

 

僕の両手首はユノの片手にねじりあげられ、頭の上に持ち上げられてしまった。

 

ユノの熱い手の力は強く、一応僕も男だから全力で抵抗すれば、その縛めも解けるはず。

 

でも僕はそうはせず、ユノのキスから逃れられない体勢を楽しんだ。

 

唇を離すと互いの間に、唾液の糸が引く。

 

その糸が切れる間際で、再び唇を合わせる。

 

ベッドサイドに置いた加湿器は水切れのランプを灯して静まり返っている。

 

僕らの営みの音を邪魔する雑音はない。

 

最高級のマットレスは、どれだけ弾んでもきしみ音をたてない。

 

僕らの唇と舌がたてる水気ある音だけが、ここにある。

 

頭の芯がしびれる。

 

ユノの体温で茹だってしまいそうだった...でも、不快じゃない。

 

僕の氷が溶けてゆき、閉じ込めてきたものが解放されてゆく...。

 

「...あっ...ユノ、ダメ...」

 

ユノの指僕のお尻に回ってきたのだ。

 

いよいよとなると、怖気づいてしまうのだ。

 

ユノはサイドテーブルからオイルの瓶を取り上げ、窪ませた手の平にとろりと垂らした。

 

「力を抜いて...リラックスして」

 

「あ...でも...その」

 

ユノは僕の背後にまわり、くの字に横たわった僕を横抱きにした。

 

僕はユノの片腕にしがみついた

 

「やっぱり...えっと...その...怖い...。

怖いよ...ほら、久しぶりだし...それに...」

 

「ゴニョゴニョ言っていないで、ケツの穴に集中しろ」

 

ユノの言い方が面白くて、笑ってしまった。

 

笑うと力が抜けるのかな、ユノの指を受け入れ始めたのがすぐに分かった。

 

最後にここを使ったのは数年前。

 

数年前と言えば、淫乱だった僕が性欲を失い、『不能』となった時。

 

勃たない自分に大いに焦った当時の僕は、「前がダメなら後ろならどうだ?」っていじってみたけれど、僕のアソコは僕の指を強固に拒絶した。

 

「よっぼどご無沙汰なんだなぁ。

カチコチだぞ」

 

ユノは「ここまでがやっとだな」と言って、僕の人差し指の第二関節を指した。

 

僕的には、根元まで入った気分でいたけれど、まだまだ先は長い。

 

「ほぐさないとな」

 

ひと晩で挿入に至るなんて、常識的に考えても無理な話だけど、僕らはそれじゃあ困るのだ。

 

なんとしてでも「今」、百歩譲って明日までに繋がりたいのだ。

 

これが達成されなければ、何のために添い寝屋同士が出逢ったのか意味を失いそうで。

 

僕らは熱と冷気の交換をするのだ。

 

繋がり合えばきっと、僕らはそれぞれちょうどいい感じになるはずなのだ。

 

僕の入り口を緩めようと、ユノの指は念入りに、丁寧に、丹念にうごめく。

 

僕はその間、力を抜こうと努めて深い呼吸をこころがけた。

 

ユノは焦るでもなく、この行為を楽しんでいるようだった。

 

そのうち鼻歌でも口ずさむんじゃないかな。

 

ユノのリラックスした姿に、僕も身を預けて、彼の指がもたらす感触に全神経を集中させた。

 

僕は今、好きな人と裸になって、『いいこと』をしようとしているんだ。

 

僕の肩をくるんだユノの腕に、頬をすりよせては口づけた。

 

どうして僕は、ユノが好きなんだろう、なんて考えてみたりして。

 

惹かれたところは数えきれない程沢山ある。

 

お互いが添い寝屋で、客として出逢ってしまったあたり、運命っぽい。

 

ユノの苦しみに寄り添い、楽にしてあげたい。

 

かさかさに乾いた心でも、恋をする余力があったことに感動した。

 

ユノは投げやりな人生を送る僕のことを、真剣に怒ってくれた人だ。

 

ユノも僕を好きだと言ってくれた。

 

これで十分じゃないか。

 

今はまだ、僕の方がべた惚れだろうけど...。

 

瞬間、視界が真っ白になった。

 

次いで、動物の鳴き声みたいな、変な声をあげていた。

 

なんだったんだ...今のは!

 

「どう?」

 

僕の肩ごしに、ユノが様子を窺った。

 

「...電気が走った」

 

「ここじゃないかなってとこがビンゴだった。

おめでとう、チャンミン。

お前の身体はちゃんと『感じている』」

 

「そ、そう?」

 

「チャンミンはもしかしてここが...」

 

「ひゃん!」

 

僕のお尻に埋めたままの指をうごめかし始めたんだから。

 

僕の反応を楽しむユノの眼が、暗がりの猫のようにらんらんと、光を集めて輝いていた。

 

足先の感覚はないけれど、身体の中心はかっかと熱い。

 

「ねぇ、ユノ」

 

僕のお尻に指を出し入れさせるユノの手を押さえた。

 

「2本は苦しいのか?」

 

「そうじゃなくて...。

ユノのを挿れて欲しいんだ」

 

「指2本がやっとなんだぞ?」

 

と、ユノは僕のお尻から抜いた指をピースサインして見せた。

 

「大丈夫!

久しぶり過ぎて緊張してるだけだよ。

すぐに思い出すよ」

 

僕は四つん這いになって、お尻を揺すってみせた。

 

ユノへの気持ちが溢れそうになったんだ。

 

指だけじゃ足りない。

 

本命が欲しい。

 

僕らには時間がない。

 

「俺だって、早く挿れたくて仕方ないんだぞ。

ほら」

 

30代にしては角度深めに反った、ユノのものに釘付けになってしまう。

 

「......」

 

どうしよう...大きい。

 

ごくり、と喉が鳴る。

 

僕のあそこは壊れてしまうかもしれない。

 

「きつかったら直ぐに教えて」

 

ユノに腰を押され、僕は猫が伸びをするみたいに肩を落とした。

 

この姿勢はユノも挿れやすいし、僕の負担も少ないはずなんだけどいかんせん、敏感な箇所が全部、丸出しになるんだ。

 

恥ずかしくて、僕は組んだ両腕に顔を埋めていた。

 

ユノに気付かれないよう、自身の股間を確かめかけた時...。

 

「こら!

触ったらダメだ」

 

と、ユノに怒られてしまったけど、もう遅い。

 

ふにゃふにゃの可愛い僕のあの子は、可愛らしいままだった。

 

振り仰いで、僕の後ろに膝立ちしたユノに向かって、こくこくと頷いてみせた。

 

僕の頷きに、ユノも頷き返した。

 

よし、いよいよだ。

 

ユノは自身の根元を持って、僕に見せびらかすみたいにゆらゆらさせている。

 

どうしよう、大きい。

 

ユノの片手が僕の腰骨をつかんだ。

 

僕の敏感なところに、先っぽを押し付けてくるくると円を描く。

 

くすぐったい。

 

「ぐはっ!」

 

心臓を直につかまれたかと思う程の衝撃だった。

 

 

 


 

 

 

肌と肌が触れ合った瞬間に、世界一相性がいい相手だと悟る。

 

 

そんな経験だった。

 

 

比較できるほどの経験をしてきたわけじゃないけれど、絶対にそうだと確信した。

 

 

恐らく...大げさな表現で言うと、一生に一度の。

 

 

足元の床が消えて、すこーんと落下していった。

 

 

(つづく)

 

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