【27】添い寝屋

 

 

~ユノ~

 

 

唯一の誰かが欲しくて、どん欲に出逢いを求めていた。

 

常軌を逸した行為と熱にうかされたような愛の言葉に恐れをなして、彼らは早々と俺の前から退散していった。

 

まるでヤクをやってるアブナイ奴だと、思われていただろう。

 

俺の胸奥に赤々と熾った炭火がある。

 

激情に刺激されて炎を上げることのないよう、合間あいまで深呼吸をして、脳内で鎮火のイメージをリフレインさせて、クールダウンに努める。

 

絶え間なく薪は追加されていく。

 

燃料は過剰なのに、窯の容積は限られている。

 

得たばかりの出会いを、はやばやと俺の炎が燃やしてしまう。

 

熱風が草木を一瞬で灰にしてしまう...かろうじて俺のハートだけは延焼を免れていた。

 

必死になって庇っていたから。

 

いっそのこと、俺の心身を燃やし尽くしてくれれば楽になれるのに。

 

眠れない日を重ねるごとに、頭の芯が麻痺したかのように思考力は低下していくのに、気分はハイテンションなのだ。

 

ぐつぐつと煮えたぎった窯の水も蒸発していって、残り数センチで空焚きになりそうだった。

 

汗をかくことはほとんどなかったから、熱がこもった手足は不快そのもの。

 

噴出する出口を求めて、身体の中心は昂る一方。

 

仕事中は、隣で眠る客に注意を払い続ける必要があって気が紛れた。

 

なぜなら、眠りについた彼らが目覚めるのを確認するまで気が抜けないからだ。

 

息をしているかどうか、鼻や耳の下に指をあてて、吐息と脈拍を感じられるかを、定期的に確認をした。

 

「この人だ!ついに出逢えた」と錯覚できた人物に、別れを告げられた時だった。

 

その時の俺は、怒りと絶望で火勢が増し、俺の中の窯がいよいよ干上がるイメージに襲われた。

 

昂るものの処理に苦慮していた頃でもあった。

 

ホンモノの出逢いなど、諦めかけてきた頃でもあった。

 

ハードな行為を好む者が集う、アングラなクラブの存在は知っていた。

 

一見さんお断りのそこにメンバーとして迎え入れられるために、既にメンバーだった男と何度か関係を持った。

 

意に沿わないセックスだったとしても仕方ない、それくらい俺は切羽詰まっていたのだ。

 

俺との行為後、イキまくって息も絶え絶えな男は、「今夜、連れていくよ」と首を縦に振ってくれた。

 

「あんたなら、クラブの奴らを誰彼構わず抱きつぶすだろうね。

大歓迎だよ」と。

 

 

 

 

そこでは日替わりでイベントを行っているとのこと。

 

その日は、暗闇プレイイベントだった。

 

アナウンス無しにクラブの照明が落とされ、肌に触れたものと交わるという。

 

男にあたるか、女にあたるかはその時次第だ。

 

ストレートオンリーの者は、50%の確率。

 

俺はどちらでもいけたから、挿入できる『穴』さえあれば構わなかった。

 

非常灯すらない違法建造物のそこは、真の意味で暗闇だった。

 

怪しげなハーブの香りや、裸の人間が放つ生臭い性の香り、あちこちであがる悲鳴、獣じみた唸り声。

 

俺のブーツがぐにゃりと柔らかいものを踏み、ぎょっとした。

 

(早くもスタートさせた行為に夢中になるあまり、踏まれたことに気付いていない様子)

 

後ずさった時、背後に立っていた者と衝突してしまった。

 

「きゃっ」と悲鳴をあげたその子の腰を、身をひるがえすなり抱き寄せた。

 

性欲を発散させるために飛び込んだ世界だったが、俺なりに緊張していて、好きでもない酒を煽っていた。

 

さらに、俺と同行した男から一服盛られてもいて、意識はふらふらで、感覚だけ研ぎ澄まされた異常な状態だった。

 

彼女こそが、チャンミンに話した『例の彼女』だった。

 

俺は彼女と『脳ミソが溶けるほど』のセックスをして、『真の意味でひとつ』になったのだ。

 

一生に一度現れるか現れないかの稀有な存在、真の意味で相性抜群だった。

 

俺が覚えているのは、繋がった直後の衝撃。

 

凄まじかった。

 

30分の暗闇タイムが終了して、灯された照明に目が眩んだ時、俺の下敷きになっていた彼女が俺を振り向いた。

 

彼女の顔を認識し、記憶に刻もうと脳ミソを起動しかけた瞬間。

 

俺は背後から2人の男に羽交い絞めされ、2人のウケを相手にせざるを得なくなってしまった。

 

赤いチャイナドレスを着た彼女の上に、別の男が覆いかぶさっていた。

 

 

 


 

 

 

~チャンミン~

 

 

奥を突かれ埋められる快感に溺れていた当時。

 

そのクラブに集まる男たちの大半は、女性との繋がりを求める者たちだった。

 

男相手を好む者は少数派だったから、プレイする相手が偏ってしまうのも当然のこと。

 

相性が合う者であっても、回数を重ねているうちに飽きてくるし、違う刺激が欲しくなる。

 

そこで僕は考えた。

 

女の人になればいいじゃないか、と。

 

ワンピースを着てかつらをかぶって、女の人の恰好をしてクラブに出入りするようになった。

 

それ程僕は、性に狂っていたのだ。

 

裾をまくって突き出したそこは、たっぷりローションで滑りがよく、念入りにほぐしたおかげでいつでも受け入れられる。

 

(毎晩使っていたから、わざわざほぐさなくても準備オーケーなんだけどね)

 

クラブ内は酒と特殊なハーブに酔った客ばかり、突っ込む相手が男であっても疑いをもつ者は少ないのだ。

 

僕が男だと気付かないなんて、お馬鹿さんだなぁ、と思っていた。

 

ぶらさがる袋とアレは、片手で覆って隠せばいい。

 

腰の上にまたがる体位の時は、ワンピースの裾で男である印を覆い隠して行為にふけった。

 

女の人のアソコと僕の穴とでは、締め付け感や中の感触が違って当然。

 

途中で気付かれて、突き飛ばされて罵詈雑言を浴びせられることもある。

 

中には、男同士の行為にハマってしまう者もいた。

 

ワンピースを着ていると、相手選びに苦労しなかったのは確かだ。

 

当時の僕は、思考はからっぽ、快楽に溺れきった浅ましきマシンだったのだ。

 

あそこは四六時中、勃っていた。

 

その夜の僕は浴びるようにアルコールを飲み、酩酊した頭でそこにいた。

 

手に入れたばかりのチャイナドレスを着ていた。

 

クラブ内は換気が不十分なこともあり、肌が発散する体温で蒸していた。

 

ピンク色の照明、そちこちからリズミカルにあがる悲鳴めいた嬌声。

 

僕の底からエロい期待感が、ぞくぞくと湧いてくる。

 

今夜は不定期で行われるイベントが行われる。

 

照明が落とされた真っ暗闇の中、最初に触れた者と交わるのだ。

 

顔はもちろん、性別も分からない誰かと。

 

30分ばかりすると照明が復活し、そこで初めて自分が交わっていたお相手が分かるのだ。

 

腰を抱かれた。

 

力強さと感触から、男の腕だとすぐにわかった。

 

ビンゴ!

 

女の人に当たるとがっかりだから。

 

僕の耳元に熱い吐息がかかる。

 

太ももからお尻へと撫ぜ上げられ、それだけで膝の力が抜ける。

 

下着を付けていないあそこはきっと、ぱくぱくと口を開いている。

 

僕は後ろ手に、その者の股間辺りをまさぐった。

 

ビンゴ!

 

握ったそれは太く、固くて逞しい。

 

期待で僕の胸ははちきれそうだった。

 

早く挿れて!

 

挿れて、僕を壊す勢いで突いて欲しい。

 

僕の袋と竿は、片手で前にすくいあげて隠した。

 

彼の先端を僕の割れ目に誘導した。

 

ローションをたっぷりと中に注入していたし、直前までプラグで十分拡張してあったから、用意万端なのだ。

 

僕は大きく息を吐いて、彼のものを中へと送り込んだ。

 

太い...。

 

根元まで刺さった時には、胃腸がせり上がるくらいだった。

 

挿入されただけで、僕はイッてしまいそうだった。

 

彼のそれをみっちりと包み込む、僕の腸壁が悦んでいた。

 

何これ...?

 

僕の中全部が、快感ポイントになってしまった。

 

彼がわずかに腰を引いただけで、僕は甲高く啼いてしまう。

 

何、これ?

 

肌と肌が触れ合った瞬間に、世界一相性がいい相手だと悟る。

 

僕のためにオーダーメイドされたくらいに、ぴったりサイズだった。

 

後ろの彼と僕は、相性が抜群にいい!

 

今回の相手は、『大当たり』だ。

 

 

 

 

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった僕は、床にうつ伏せになっていた。

 

鼻が詰まっていたせいで、喘ぎ混じりの口呼吸だった。

 

彼の呼吸も下腹が大きく波打つほど荒々しいのを、僕の背中は受け止めていた。

 

僕の中を埋めたそれを、抜かないで欲しい。

 

でも、いつまでも繋がっているわけにはいかない。

 

ずるん、と僕の穴から抜かれた時...。

 

スポンと栓を抜かれて、50メートルプールの水が渦巻きを作って、排水口へ吸い込まれていく...。

 

そんなんじゃない。

 

プールの底がダイナマイトで爆破され、一瞬でプールを満たしていた水が消えてしまう...。

 

僕の中で異常発酵していた欲が、消滅してしまった瞬間だった。

 

あまりにも相性が良すぎて、僕の性欲は一滴残らず...この先何十年分も全部...消費されてしまったんだ。

 

あたりが明るくなり振り仰いだところ、いつものお相手が覆いかぶさってきたせいで、彼の顔を確かめることはできなかった。

 

以上が、僕が『不能』になった出来事の全てだ。

 

 

(つづく)

 

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