【28 最終話】添い寝屋

 

 

~ユノ~

 

 

あそこを通して、俺と彼女は身体だけじゃなく、内に秘めた情熱も含めて一体となっていた。

 

彼女の奥で俺のものを放ち、しばし繋がった感触を愉しんだ。

 

凄かった。

 

俺のものと彼女の穴は、真の意味でジャストだった。

 

ところが。

 

引き抜いた時、俺の中に彼女が入ってきた。

 

肉体以外の彼女のものが全部、俺の中に注入された。

 

高さ数十メートルの堤防が決壊したかのように、押し寄せてきた。

 

押し流され、溺れるところだった。

 

大量のエネルギーが投入され、俺の精神は焼き尽くされてもおかしくないのに、俺はこうして今、ちゃんと生きている。

 

なぜなら、俺の中の窯のサイズが...例えで言うと、ピザ焼き窯から突如、鉄鋼炉サイズに...拡大したからだ。

 

全然、喜ばしいことじゃない。

 

彼女の熱を取り込んだせいで、2人分の...いや、それ以上だ...2乗の熱量を抱える羽目に陥った。

 

俺は絶望した。

 

心だけは決して燃やすまいと、守り続けてきたが、燃え移るのも時間の問題。

 

...そんなある日。

 

奪ってしまった熱を、持ち主に還す時が訪れた。

 

『彼女』はチャンミンだった。

 

チャンミンの入り口に埋めた時、俺の中が瞬時に沸点に達した。

 

身体は覚えていた。

 

 

あの時の...!

 

 

チャンミンが持ち得た熱い心を5年間、チャンミンの代わりに俺の中で預かっていたってわけだ。

 

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

ユノのものが埋められた時、あの日の衝撃が蘇った。

 

 

これは...あの時の...!

 

 

忘れられるわけないよ。

 

僕を『不能』にしてしまうくらい、世界で唯一のものだったんだから。

 

四つん這いになった姿勢のまま、後ろのユノを振り仰いだ。

 

ユノは腰を振ることなく、下になった僕を見下ろしている。

 

切れ長なはずのユノの目が、真ん丸になっている。

 

僕も同様に、目を見開いている。

 

 

「...チャンミンだったのか...?」

 

「...そうみたいだね...」

 

 

僕の腰をつかみ直したユノは、深々と埋めた自身の腰を引いた。

 

ユノの太い首が、僕のいいところを刺激するもんだから、「ひゃん」って。

 

引いた腰が押し込まれた時なんか、「ぐはっ」って、もっと変な声が出てしまった。

 

全然、恥ずかしくなかった。

 

相性がいいレベルじゃない、ユノのものは僕のもの。

 

僕のあそこは、ユノのためにオーダーメイドされたんだ...大げさに言うとね。

 

グラグラ沸いた巨大な鍋に投げ込まれた僕の氷はハイペースで溶けていった。

 

火のユノと氷の僕は、足して1になった。

 

 

 

 

1度目は良すぎるあまり、数突きで失神してしまった。

 

ひと休憩の後の2ラウンド目。

 

「どうして、女の恰好をしてたんだ?」

 

「男より女の人の方が人気があるんだよ。

ドレスを着ているとね、相手選びに苦労しないんだ」

 

「まさか男を相手にしてたなんて、全く疑いもしなかった...」

 

「あそこにいる者はみんな、頭がおかしくなってるから。

棒と穴があればいいんだ。

僕のあそこなんて、使い過ぎて女の人みたいになってたし」

 

言葉を交わしながら、僕らは身体を繋げ合う。

 

「今もそんなようなものだぞ?

5年ぶりだとは思えないくらいだ。

...すごいな...俺のに吸い付いてくる」

 

「...それはね、ユノのものだからだよ」

 

びっくりするくらいフィットするんだ。

 

ユノの腰の動きに合わせて、僕のあそこも揺れる。

 

あそこが充血していることは、触って確かめなくても分かった。

 

もし、サイズを取り戻せなかったとしても構わない。

 

ユノといいコトをして、いい気分になれるのなら、僕のあそこが男になる必要はない。

 

「チャンミンと『したい』と言ったけどさ、暴走するんじゃないか、って怖かったんだ。

ちゃんとコントロールできるかどうかね。

抱きつぶしてしまうんじゃないか、って」

 

「ギラギラしているユノは怖かったけど、絶対に大丈夫だって自信があったんだ」

 

僕はユノの上にまたがって、後ろ手にユノの膝をつかんで背中を反らしていた。

 

「どこからそんな自信が?」

 

「ユノはすごく熱くて蒸発しそうだし、僕なんて凍死しそうだった。

だから...っんん...うんっ...。

ああっ!

ユノ!

今喋ってるんだから、動かさないで...っよ!」

 

「いい眺め...。

男のM字開脚もそそるねぇ」

 

「わっ!」

 

途端に恥ずかしくなってしまい、両膝を閉じようとしたけど、ユノによってもっと開脚させられてしまった。

 

いろんなところを全部見られてしまったけど...もう、いいや。

 

「俺たちは足して割ると、適温なんだな」

 

「そうだよ。

ほら、僕の指を触って」

 

僕の腰を支えてたユノの片手を、僕の足先に誘導した。

 

「お!

あったかい」

 

「でしょ?」なんて、得意げになっていたら、ユノったら僕の足の指を舐めるんだから。

 

くすぐったくて身をよじった僕は、バランスを崩した挙句、ごろんと見事な後転を披露してしまった。

 

バスタブに頭から突っ込んでしまった日みたいに(あれは何日目だったっけ?)、間抜けな恰好になってしまった。

 

ユノはゲラゲラ笑っているし、プンプンの僕は枕に顔を埋めてしまうし、情事が中断してしまうし。

 

でも、よかった。

 

濃淡のない漆黒な眼の色は、前と同じだったけど、ブラックホールみたいな怖い渦は消えていた。

 

「そうなるね。

チャンミンが『不能』になってしまってもおかしくないよ。

それにしても...チャンミンの欲の熱量は凄かった。

さすが、淫乱だっただけあるよ」

 

「むぅ」

 

「俺も強い方だったけど、俺が引き受けた熱量はそれを上回った。

おかげで不眠記録を更新し続けて、はや5年だ」

 

「更新記録をストップできるかな?」

 

僕の頬はユノの両手に包まれた。

 

ユノは僕の涙を舐めとると、優しくキスをした。

 

「チャンミン」

 

唇が重ねたまま、僕は「はい」と応えた。

 

「俺たち、これからどうなる?」

 

「契約期間はあと1日残ってるよ」

 

「契約なんて、とっくに白紙になってるよ」

 

「へ?」

 

「チャンミンからのオーダーは、辞退したんだ。

今朝のうちに。

2日分は返金したよ」

 

「ええっ!」

 

「これで俺は、チャンミンにとって『添い寝屋』じゃなくなった」

 

「...うそ」

 

「ついでに、チャンミンへの予約も解約した。

これで俺は、添い寝屋チャンミンの『客』じゃなくなった。

お前のところは、たっぷりと違約金をとるんだなぁ。

返金されたのは、たったの0.5日分だぞ」

 

「...ごめん」

 

「俺ばっかり、払い損だよ」

 

「ごめん。

その分はちゃんと払うから」

 

「とんちんかんなことを言うなって。

チャンミンから金を貰っても、これっぽっちも嬉しくない。

埋め合わせに...」

 

「ごくり」

 

「チャンミン...。

お前は相変わらず、『そういうこと』しか考えないんだなぁ」

 

「う、うるさい!

...ん?

2日分?」

 

「今さら気付いた?

今日の時点から、俺はチャンミンの『客』でもないし『添い寝屋』でもなかった」

 

「...ってことは?」

 

「そうだよ。

ついさっきまでのセックスは、正真正銘、恋人同士のセックスだ」

 

「コイビトドウシ...」

 

素敵な響きにうっとりとしてしまう...。

 

「俺たちはいわゆる...運命の再会を果たした、ってわけだろ?」

 

「運命...かぁ。

...ユノは僕の熱を吸い取ってしまった」

 

「チャンミンの熱は、ちゃんと返却したよ」

 

「うん。

確かに返して貰いました」

 

「俺の気持ち...伝わった?」

 

「...うん」

 

僕の全身のすみずみまで、温かいものが行き渡り、からからだった心も滴りそうに潤った。

 

さらに、ユノの台詞にちりばめられた愛ある言葉に、僕の涙腺は限界を超えてしまった。

 

おちゃらけて誤魔化していたけど、もう駄目だ。

 

嬉し過ぎて、幸せ過ぎて...。

 

 

「...ユノっ...好き。

ユノが好きなんだ...っく...好きなんだよぉ!」

 

 

ユノが愛しくて仕方がない。

 

愛情があとからあとからと湧き出てきて仕方がないんだ。

 

しまいには涙までこぼれてくるんだ。

 

熱い涙が、今度は溶けた水を温めていく。

 

 

「...好きでたまらないんだよぉ...」

 

 

ユノの腕にさらわれついでに、僕はユノの首に腕を回して、もっと泣いた。

 

ユノは片手で僕の後頭部を撫ぜ、もう片方で背中を擦ってくれる。

 

 

「俺も、好きだよ」

 

 

僕は幸せで幸せで、幸せだ。

 

添い寝屋をやってきて、本当によかった。

 

 

 

 

「もう一回しようか?」

 

「うん...」

 

僕らはかれこれ3回?4回?交わっている。

 

全然、足りないんだ。

 

何百回繋がっても、大丈夫。

 

僕は枯渇することはないし、ユノも過剰に取り込むことはない。

 

2人が1人になる。

 

どこからがユノでどこまでが僕なのか、区別がつかない。

 

ユノはフルーツ、僕はミルク。

 

ジューサーに入れられ攪拌され、僕らは美味しい美味しいミルクシェイクになった。

 

そしてそれを『半分こ』して、二人仲良くごくごく飲むんだ。

 

ミルクシェイクは永遠になくならない。

 

あとからあとから、無限に湧いてくるんだから。

 

 

ユノが好き。

 

 

ユノに恋している限り、僕は凍ってしまうことはない。

 

 

僕がぶるっと震えたら、すかさずユノが温めてくれる。

 

 

ユノだってそうだよ。

 

 

そばに僕がいる限り、僕がかまど番をしてあげるから。

 

 

ユノの真摯で真っ直ぐな情熱を、受け止められるのは僕だけだ。

 

 

だって僕らは運命の者どうし。

 

 

この世で唯一無二の、凸と凹。

 

 

ミルクシェイクは永遠に無くならない。

 

 

僕らはミルクシェイクのプールを、仲良く全裸になって泳ぐんだ。

 

 

 

(おしまい)

 

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