~ユノ~
あそこを通して、俺と彼女は身体だけじゃなく、内に秘めた情熱も含めて一体となっていた。
彼女の奥で俺のものを放ち、しばし繋がった感触を愉しんだ。
凄かった。
俺のものと彼女の穴は、真の意味でジャストだった。
ところが。
引き抜いた時、俺の中に彼女が入ってきた。
肉体以外の彼女のものが全部、俺の中に注入された。
高さ数十メートルの堤防が決壊したかのように、押し寄せてきた。
押し流され、溺れるところだった。
大量のエネルギーが投入され、俺の精神は焼き尽くされてもおかしくないのに、俺はこうして今、ちゃんと生きている。
なぜなら、俺の中の窯のサイズが...例えで言うと、ピザ焼き窯から突如、鉄鋼炉サイズに...拡大したからだ。
全然、喜ばしいことじゃない。
彼女の熱を取り込んだせいで、2人分の...いや、それ以上だ...2乗の熱量を抱える羽目に陥った。
俺は絶望した。
心だけは決して燃やすまいと、守り続けてきたが、燃え移るのも時間の問題。
...そんなある日。
奪ってしまった熱を、持ち主に還す時が訪れた。
『彼女』はチャンミンだった。
チャンミンの入り口に埋めた時、俺の中が瞬時に沸点に達した。
身体は覚えていた。
あの時の...!
チャンミンが持ち得た熱い心を5年間、チャンミンの代わりに俺の中で預かっていたってわけだ。
~チャンミン~
ユノのものが埋められた時、あの日の衝撃が蘇った。
これは...あの時の...!
忘れられるわけないよ。
僕を『不能』にしてしまうくらい、世界で唯一のものだったんだから。
四つん這いになった姿勢のまま、後ろのユノを振り仰いだ。
ユノは腰を振ることなく、下になった僕を見下ろしている。
切れ長なはずのユノの目が、真ん丸になっている。
僕も同様に、目を見開いている。
「...チャンミンだったのか...?」
「...そうみたいだね...」
僕の腰をつかみ直したユノは、深々と埋めた自身の腰を引いた。
ユノの太い首が、僕のいいところを刺激するもんだから、「ひゃん」って。
引いた腰が押し込まれた時なんか、「ぐはっ」って、もっと変な声が出てしまった。
全然、恥ずかしくなかった。
相性がいいレベルじゃない、ユノのものは僕のもの。
僕のあそこは、ユノのためにオーダーメイドされたんだ...大げさに言うとね。
グラグラ沸いた巨大な鍋に投げ込まれた僕の氷はハイペースで溶けていった。
火のユノと氷の僕は、足して1になった。
・
1度目は良すぎるあまり、数突きで失神してしまった。
ひと休憩の後の2ラウンド目。
「どうして、女の恰好をしてたんだ?」
「男より女の人の方が人気があるんだよ。
ドレスを着ているとね、相手選びに苦労しないんだ」
「まさか男を相手にしてたなんて、全く疑いもしなかった...」
「あそこにいる者はみんな、頭がおかしくなってるから。
棒と穴があればいいんだ。
僕のあそこなんて、使い過ぎて女の人みたいになってたし」
言葉を交わしながら、僕らは身体を繋げ合う。
「今もそんなようなものだぞ?
5年ぶりだとは思えないくらいだ。
...すごいな...俺のに吸い付いてくる」
「...それはね、ユノのものだからだよ」
びっくりするくらいフィットするんだ。
ユノの腰の動きに合わせて、僕のあそこも揺れる。
あそこが充血していることは、触って確かめなくても分かった。
もし、サイズを取り戻せなかったとしても構わない。
ユノといいコトをして、いい気分になれるのなら、僕のあそこが男になる必要はない。
「チャンミンと『したい』と言ったけどさ、暴走するんじゃないか、って怖かったんだ。
ちゃんとコントロールできるかどうかね。
抱きつぶしてしまうんじゃないか、って」
「ギラギラしているユノは怖かったけど、絶対に大丈夫だって自信があったんだ」
僕はユノの上にまたがって、後ろ手にユノの膝をつかんで背中を反らしていた。
「どこからそんな自信が?」
「ユノはすごく熱くて蒸発しそうだし、僕なんて凍死しそうだった。
だから...っんん...うんっ...。
ああっ!
ユノ!
今喋ってるんだから、動かさないで...っよ!」
「いい眺め...。
男のM字開脚もそそるねぇ」
「わっ!」
途端に恥ずかしくなってしまい、両膝を閉じようとしたけど、ユノによってもっと開脚させられてしまった。
いろんなところを全部見られてしまったけど...もう、いいや。
「俺たちは足して割ると、適温なんだな」
「そうだよ。
ほら、僕の指を触って」
僕の腰を支えてたユノの片手を、僕の足先に誘導した。
「お!
あったかい」
「でしょ?」なんて、得意げになっていたら、ユノったら僕の足の指を舐めるんだから。
くすぐったくて身をよじった僕は、バランスを崩した挙句、ごろんと見事な後転を披露してしまった。
バスタブに頭から突っ込んでしまった日みたいに(あれは何日目だったっけ?)、間抜けな恰好になってしまった。
ユノはゲラゲラ笑っているし、プンプンの僕は枕に顔を埋めてしまうし、情事が中断してしまうし。
でも、よかった。
濃淡のない漆黒な眼の色は、前と同じだったけど、ブラックホールみたいな怖い渦は消えていた。
「そうなるね。
チャンミンが『不能』になってしまってもおかしくないよ。
それにしても...チャンミンの欲の熱量は凄かった。
さすが、淫乱だっただけあるよ」
「むぅ」
「俺も強い方だったけど、俺が引き受けた熱量はそれを上回った。
おかげで不眠記録を更新し続けて、はや5年だ」
「更新記録をストップできるかな?」
僕の頬はユノの両手に包まれた。
ユノは僕の涙を舐めとると、優しくキスをした。
「チャンミン」
唇が重ねたまま、僕は「はい」と応えた。
「俺たち、これからどうなる?」
「契約期間はあと1日残ってるよ」
「契約なんて、とっくに白紙になってるよ」
「へ?」
「チャンミンからのオーダーは、辞退したんだ。
今朝のうちに。
2日分は返金したよ」
「ええっ!」
「これで俺は、チャンミンにとって『添い寝屋』じゃなくなった」
「...うそ」
「ついでに、チャンミンへの予約も解約した。
これで俺は、添い寝屋チャンミンの『客』じゃなくなった。
お前のところは、たっぷりと違約金をとるんだなぁ。
返金されたのは、たったの0.5日分だぞ」
「...ごめん」
「俺ばっかり、払い損だよ」
「ごめん。
その分はちゃんと払うから」
「とんちんかんなことを言うなって。
チャンミンから金を貰っても、これっぽっちも嬉しくない。
埋め合わせに...」
「ごくり」
「チャンミン...。
お前は相変わらず、『そういうこと』しか考えないんだなぁ」
「う、うるさい!
...ん?
2日分?」
「今さら気付いた?
今日の時点から、俺はチャンミンの『客』でもないし『添い寝屋』でもなかった」
「...ってことは?」
「そうだよ。
ついさっきまでのセックスは、正真正銘、恋人同士のセックスだ」
「コイビトドウシ...」
素敵な響きにうっとりとしてしまう...。
「俺たちはいわゆる...運命の再会を果たした、ってわけだろ?」
「運命...かぁ。
...ユノは僕の熱を吸い取ってしまった」
「チャンミンの熱は、ちゃんと返却したよ」
「うん。
確かに返して貰いました」
「俺の気持ち...伝わった?」
「...うん」
僕の全身のすみずみまで、温かいものが行き渡り、からからだった心も滴りそうに潤った。
さらに、ユノの台詞にちりばめられた愛ある言葉に、僕の涙腺は限界を超えてしまった。
おちゃらけて誤魔化していたけど、もう駄目だ。
嬉し過ぎて、幸せ過ぎて...。
「...ユノっ...好き。
ユノが好きなんだ...っく...好きなんだよぉ!」
ユノが愛しくて仕方がない。
愛情があとからあとからと湧き出てきて仕方がないんだ。
しまいには涙までこぼれてくるんだ。
熱い涙が、今度は溶けた水を温めていく。
「...好きでたまらないんだよぉ...」
ユノの腕にさらわれついでに、僕はユノの首に腕を回して、もっと泣いた。
ユノは片手で僕の後頭部を撫ぜ、もう片方で背中を擦ってくれる。
「俺も、好きだよ」
僕は幸せで幸せで、幸せだ。
添い寝屋をやってきて、本当によかった。
・
「もう一回しようか?」
「うん...」
僕らはかれこれ3回?4回?交わっている。
全然、足りないんだ。
何百回繋がっても、大丈夫。
僕は枯渇することはないし、ユノも過剰に取り込むことはない。
2人が1人になる。
どこからがユノでどこまでが僕なのか、区別がつかない。
ユノはフルーツ、僕はミルク。
ジューサーに入れられ攪拌され、僕らは美味しい美味しいミルクシェイクになった。
そしてそれを『半分こ』して、二人仲良くごくごく飲むんだ。
ミルクシェイクは永遠になくならない。
あとからあとから、無限に湧いてくるんだから。
ユノが好き。
ユノに恋している限り、僕は凍ってしまうことはない。
僕がぶるっと震えたら、すかさずユノが温めてくれる。
ユノだってそうだよ。
そばに僕がいる限り、僕がかまど番をしてあげるから。
ユノの真摯で真っ直ぐな情熱を、受け止められるのは僕だけだ。
だって僕らは運命の者どうし。
この世で唯一無二の、凸と凹。
ミルクシェイクは永遠に無くならない。
僕らはミルクシェイクのプールを、仲良く全裸になって泳ぐんだ。
(おしまい)
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