【5】添い寝屋

 

 

ユノが...同業者だった!

 

飛び起きた僕はリビングまで走り、スリープ状態だったPCを立ち上げ、メールフォルダを開く。

 

ざっとしか目を通していなかったけど、予約確認メールを確認すると、ユノの言う通り「17:30から5日間、有料オプション付きの“スーパープレミアム”...」

 

待てよ。

 

僕が予約をした店から“出張”してきた“添い寝屋”が、果たしてユノなのかどうかの証明ができないじゃないか。

 

「“恋する男は己の能力以上に愛されたいと願望する人間だ”」

 

「?」

 

振り向くと、半身を起こし、ヘッドボードにもたれたユノはニヤニヤ笑いを浮かべている。

 

「俺はホンモノだ。

予約受付メールをよく読んでみろ。

成りすましが現れないように、客の元には合言葉をランダムで送信してるんだ」

 

確かに、ユノの言う通りの言葉がある。

 

風俗関連のポータルサイト経由で辿り着いたのが、僕が予約をした添い寝屋斡旋店。

 

客の一人から聞いた限りでは、極上の添い寝屋が、極上の眠りを約束するとか。

 

目ん玉がとび出る金額の追加料金を支払えば、客の希望に応じたサービスを受けることができる。

 

こちらから指名はできないから、その添い寝屋がやってくるまで男なのか女なのかもわからない。

 

やけくそになっていた僕は、全てのオプションを付けて予約をし、50%の前金もあらかじめ振り込んでいた。

 

余裕たっぷりだったユノの言動も、これで納得した。

 

客だと思い込んでいた自分がこっぱずかしい。

 

「そんなとこにいないで、こっちに来いよ」

 

PCの前で考え込んでしまった僕に、ユノは両腕を広げて「おいでおいで」と手を振った。

 

「......」

 

「今夜のチャンミンは、俺の“客”だ」

 

ベッドに戻ると、ユノの力強い腕でかき抱かれて、彼の胸に飛び込む格好となった。

 

「僕が雇った添い寝屋がユノ、というのは分かりました」

 

「可愛いなぁ、チャンミンは。

俺を雇うとは、よっぽど疲れているんだなぁ」

 

僕の後ろ髪に鼻先を埋めるようにして、話すんだもの、熱い吐息がかかって頭皮がびりびりした。

 

ユノの言う通り、最近の僕は頭がすかすかで...違うな、頭の中に砂が詰まっているみたい、と形容する方がぴったりかな...ぼんやりしていることが多い。

 

客の深刻な打ち明け話を聞き逃したり、氷のような僕の手足に苦情を言う客が増えてきた。

 

これまでは「冷え性なのです。男なのに珍しいでしょ」とかなんとか、適当なことを言っていて、彼らも「ふぅん」と納得していた。

 

僕に添い寝をしてもらいたくて僕を買ったのだし、基本的に自分の話を聞いてもらいたくて仕方のない彼らは、僕の「冷え性」についてすぐに興味を失ってしまうのだ。

 

ところが、僕の冷え性は尋常なく酷くなってきて、不快がるお客対策として毛糸の靴下を履いたりと工夫はしている。

 

「疲れている、とは少し違います。

身体だけじゃなく、心までしんしんと冷えてきているような気がします。

身体を温めればいいのかなぁ、と飲み物は全部、温かいものにしたり、日向ぼっこをしたり、お風呂に入ったり...効果ゼロです」

 

「心が冷えると...チャンミンは何に困るの?」

 

「他人への興味を失うというか...何事にもおいて感動が薄くなるというか...。

生きている価値が希薄になる、というか...。

...虚しいんです」

 

口にしてしまった。

 

僕の本心を!

 

僕の背中に回されたユノの腕に、力がこもった。

 

熱過ぎる体温で、僕のこわばった背中を溶かそうとしているみたいに。

 

「僕の元には毎日、いろんな客が来ます。

客に添い寝してやって、お金をもらって、シーツを洗って、また客を呼ぶのです。

その繰り返しです。

大勢の人が僕の腕の中を通過していきます。

彼らは僕に添い寝をしてもらうことで、何かしらメリットを得て帰っていきます。

じゃあ、僕は?って」

 

「へぇ...意外だな。

チャンミンは、自分の職業について達観してるかと思ったよ」

 

「これまではそうでした。

でも...すっきりした顔で帰る客を見ていると、取り残されているみたいな感じに襲われるようになりました。

ユノは言いましたよね?

客の悩みを受け止め続けていて、溜まらないのか?って。

そうじゃないんです」

 

「じゃあ、何なんだ?」

 

「客たちに吸い取られているんです。

体温と一緒に、僕の心も...!」

 

暴露してしまった!

 

「......」

 

黙り込んでしまったユノが気になって、僕はユノの中から半身を起こした。

 

フットライトだけの薄明りのもと、ユノの人形のような白い顔がぼうっと浮かんでいる。

 

落ち窪んだまぶた、削げた頬。

 

それでも、一対の眼はつやつやと光っていてみずみずしい。

 

「チャンミンの悩みは、以上?」

 

「...はい」

 

一瞬の間ができてしまい、その一瞬の迷いはきっと、ユノにバレている。

 

「でもさ。

添い寝屋を呼んで、虚しさから抜け出せるのか?」

 

「......」

 

「客に添い寝してばかりいるから、こうなっちゃったんです、多分。

だから、逆に添い寝してもらえばいいのでは?って考えたのです...」

 

「違うな...それだけじゃないな。

チャンミン...お前はいろいろと隠し事が多いなぁ」

 

やっぱりバレている。

 

「添い寝してもらいたいのに、オプションサービスを追加するかなぁ?」

 

「......」

 

それまで真顔だったのに、目尻が切れ上がった目が細くなって、笑っているそれに変わった。

 

「ま、いっさ。

少しずつ教えてもらえばいいことだ。

5日もあるんだし」

 

「...はい」

 

ユノの声は上品だ、と思った。

 

大声を出したことはないのだろう、抑えた声量と低く過ぎず高すぎない、しっとりとした声質。

 

ユノの胸に耳を押し当ててその声を聞いていると、うとうとと眠たくなってくる。

 

添い寝屋としてのレベルは高そうで、それに比例して料金が高いのも納得だ。

 

 

 

 

「次は俺の番。

俺の悩みを聞いてくれる?」

 

「お客は僕の方ですよ?

お客が添い寝屋の悩みを聞いてどうするんです?」

 

「まあまあ、ケチくさいこと言うなって」

 

それまで仰向けになったユノの上に乗っていた僕を、後ろ抱きの姿勢にする。

 

そして、僕の二の腕ごとぎゅうっと抱きしめた。

 

「俺の中では、熱がこもってるんだ。

その熱を冷ましたくて、プールに通ったり、冷やしたり、エアコンを最低温度に設定してみたり...いろいろやってみた。

体力を使い果たせばいいんだって、抱いたり抱かれたり...毎晩」

 

「えっと...それはつまり。

抱いたり抱かれたりって...“そういうこと”でしょうか?」

 

「俺の添い寝スタイルは、金さえ払ってくれれば何でもサービスする」

 

「熱を冷ましたいから、ですか?」

 

「オプションサービスを付けてくれた時に限ってるよ、当然。

それ以外は、“そういう”お友達とね」

 

「毎日?」

 

「毎日」

 

「朝昼晩と?」

 

「朝昼晩、いくらでも」

 

「はあ...そうですか...」

 

中性的とも言えるユノが、実は絶倫だったとは...!

 

「チャンミンとくっ付いていると、やらしい気分になってくるなぁ」

 

「でしょうね」

 

「お尻にあたっているの、気づいているんだろ?」

 

僕は無言で頷いた。

 

ユノは男の僕相手に、欲情しているらしい。

 

お尻に押しつけられている硬くて適度な弾力のあるもの。

 

「ムラムラするねぇ」

 

「僕をっ...そういう対象で見ないで下さい!」

 

「こればっかりはどうしようもできないさ」

 

今の僕のものはしょぼくれてるけれど、かつての感覚を思い起こせば、どうしようもできない点では同意できる。

 

「そういうわけで、俺の高ぶりと、不眠を治して欲しい」

 

「ユノの不眠症を治して欲しいと、僕に頼むのはおかしくないですか?

僕は客ですよ?」

 

「チャンミンの自己紹介の欄で、

『高ぶる精神を鎮めて、心地よい眠りを提供します』

基本料金もまあまあ高い。

これは相当、自信があるんだな、と」

 

「僕のことを調べたんですか!?」

 

「当然だろう?」

 

ユノの店では、添い寝してやる客を事前に調査するんだ、おかしな客だと困るからね、特に添い寝以外のサービスもする高級添い寝屋なら特に...と思っていたら...。

 

「俺はお前の“客”でもある」

 

「え!?」

 

「俺も予約した。

 

チャンミン指名で」

 

「ええっ!?」

 

 

 

(つづく)

 

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