さすがに今夜は、ユノがチャンミンの布団にもぐりこんでくることはなかった。
(この3日間で、これまでお互いに触れていなかった事を、打ち明け合って距離が縮まった気がする。
ユノの爆弾発言も、内容はともかく、恥ずかしそうに打ち明けた姿が可愛かったな。
きちんとしてて、ぽわぽわしてる子が、あそこまで獣になっちゃうとこも意外だったな)
「ねぇ、チャンミン。
怒らないで」
「聞くのが怖いんですけど?」
「あのね。
俺のが、元気になってきた。
ちょっとおさまりがつかないんで...えっと。
俺の上にまたがってくれないかな?」
「!!!!」
「オレの上に乗ってチャンミンが動いてくれれば、出来るよ。
俺の腰は使いものにならないけど、あそこは元気だから。
ほら、よくあるだろ?
足を骨折して入院中の男の人に、セクシーな看護師さんが上に乗って...あっ!」
繋いでいた手が、勢いよく振り払われた。
「ねぇ?
ユノは『そんなこと』しか考えてないの!?
僕とエッチすることしか、頭にないんだろ!?」
「......」
チャンミンの押し殺すような低い声に、ユノは言葉を失う。
チャンミンの目から涙がぽろぽろとこぼれ出てきた。
(口を開けば、下ネタばっかり。
この子ったら、僕と『ヤること』しか考えていないわけ?)
「なんだか...悲しいよ」
チャンミンの目に涙が光っていることに気付いて、ユノはひやりとした。
「チャンミン...」
チャンミンの近くへ寄ろうとしたが、腰に激痛が走る。
「ごめん。
チャンミン、ごめん。
泣かないで」
ところがチャンミンはくるりと、ユノに背を向けてしまった。
「誤解しないで。
『そのこと』ばっかり考えているわけじゃないんだ。
俺の中に、ジェラシーがあるんだろうね。
俺はチャンミンのことが大好きだけど、言葉や態度だけじゃあ伝えきれない想いがあふれているんだ。
やっぱり身体でもひとつになりたい、って思うようになってきて。
そう願って、当然だよね?
だって俺たちは大人の男と男なんだから。
チャンミンの過去に比べたら、俺なんて...って自信がないんだ。
言葉や態度で、いっぱい伝える自信はある。
でも、それだけじゃ不安なんだ。
昔の男との記憶を塗り替えるには、やっぱり身体を繋げるしかないな、って思ってて。
あ、もちろん!
俺は若くて健康な男だから、スケベなこともいっぱい考えてるよ。
チャンミンを思い浮かべて、ひとりエッチしたこともあるくらいだ」
ユノはチャンミンの背中に向かって必死になって言葉を継ぐ。
「えーっと、つまり...。
何が言いたいかというと、
チャンミンとえっちなことをしたい欲求は、やりたい盛りばかりじゃない、ってことを分かってもらえたらなぁ、って。
俺の言いたいこと、ちゃんと伝わった?」
ゆっくりとチャンミンは、ユノの方へ向きを変えた。
(よかった、もう怖い顔はしていない)
「ホントに?」
「ほんとほんと」
チャンミンは手を伸ばして、ユノの手を握った。
「僕のことを考えて、ひとりエッチしたって言ってたよね?
どんな破廉恥なことを、想像の中でさせてたわけ?」
「うふふふ。
内緒」
「怖いなぁ」
「チャンミンの裸...綺麗だった。
中も気持ちよかった」
「ホントに?」
「ほんとほんと。
俺の想像通りだった」
「若い身体じゃなくて、ゴメン」
「チャンミン!
そういうことを言うな!」
ユノの鋭い声に、チャンミンはビクリとした。
「ねえ、ユノ。
僕の方だって不安なんだよ。
年甲斐もなく、ユノみたいな若い子に夢中になって。
ユノはカッコいいから、いっぱいモテるんだろうなって。
ユノと同じくらいの年の可愛い子の方が、ユノには似合うんだろうなって。
ユノは若い。
ユノはいい男だ。
これから沢山の人と出逢うだろう。
沢山の人がユノを好きになると思う」
「...チャンミン」
「年の差が僕を苦しめているのは、そういうことなんだ。
ユノには沢山の未来が待っているんだよ。
『これから』の人なんだ。
僕はバツイチだ。
このことを隠した状態でユノと付き合ってきた。
ユノはどう思った?」
「ムカついたよ」
ユノは渋々認めた。
「でしょう?
ユノには分からないだろうなぁ。
僕はもともと女の人とは恋愛が出来ない。
でも、ユノは違うだろ?
男と恋愛するのも、僕が初めてだろう?
ユノには普通の恋愛を選ぶ自由があるんだよ。
僕みたいな過去ありのおじさんなんかじゃなく」
「だからさ!
そういうこと口にするのは止めろ!
第一、チャンミンはまだまだ若いじゃん。
30代で年寄りのつもりでいたらさ、ゲンタさんなんて仙人になってるぞ?」
ユノは顔をしかめながら、じりっとチャンミンの方へにじり寄ってきた。
「俺はまだまだだね。
チャンミンが、どうしてこうまで年の差にこだわるのか、正直、今の俺には理解できない。
チャンミンの今の話を聞いても、俺には全然分かんないんだ。
俺は、『今の』チャンミンが好きなのに。
俺と同い年のチャンミンなんて、全然魅力的じゃないな。
あ!
そんなことないか。
同い年のチャンミンは、それはそれで素敵だろうね...いてて」
ユノはもっとチャンミンの側へにじりよってきた。
チャンミンも布団から出て、ユノの枕元に座った。
「チャンミン。
...今も前の旦那さんのこと...思い出すこと...ある?」
布団からすっかり這い出たユノは、チャンミンの太ももにしがみついた。
「全然。
思い出さないよ」
「別れた時、苦しかった?
悲しかった?」
「辛かったよ」
「駆け落ちするくらい、好きだったんだよね?」
「...うん。
あれ?
やっぱり、全部知ってるんだろ!?」
「ふふん。
チャンミンのことは全部、俺は知りたいんだ。
でも、ざっとしたことしか知らないよ。
俺の存在を知らなかった頃のチャンミンを知りたい。
チャンミンとの歳の差を埋めたいんだ。
駆け落ちした時...チャンミンは俺より若かったんだろ?
で、旦那さんの方は、今のチャンミンと同じくらいの歳?」
中途半端に隠さず、ユノには全てを話そうとチャンミンは決心した。
「...うん。
猪突猛進。
若かったからね。
うんと年上だった彼が、僕の全てだった」
(く、苦しい!
チャンミンの過去を知るのは辛い!
でも!
知らないままだと、勝手な想像で苦しみそうだ。
俺は全部、教えてもらうからな!)
「あの頃の家族は、男の人が好きな僕のことを受け入れてはいたけれど、複雑な心境だったと思うんだ。
この町に赴任してきた人でね...奥さんがいた人なんだ」
「うわぁ...トラブルの匂いがする」
「その通り。
家族が大反対しても当たり前なんだ。
離婚した彼の新しい赴任先について行ったから...駆け落ちみたいな形になったんだ。
3年ももたなくて...結局は捨てられた格好になってしまったけれど」
「...それは、キツイね」
(若かった僕。
恋に全力投入できた時代。
だから、分かるんだ。
僕に向けるユノの心が、どれだけ真っ直ぐで強いものかを)
「...彼は、いい男だった?
俺よりも?」
「...比べられないよ。
あの時の僕は、彼が一番だと思っていた。
それが事実だよ」
「...そっか」
(胸はズキズキするけど、はっきりと認めるチャンミンが、俺は好きだ)
ユノの形のよい後頭部を、チャンミンは何度も何度も撫ぜた。
ありったけの愛情を込めて。
(当時の逆バージョンを再現しようとしている風に見えて、家族が心配しても仕方がない)
「あの時はあの時。
過去は過去だ。
もう過ぎてしまったことだ。
彼は彼。
ユノはユノだよ。
彼は過去の人。
ユノはね...」
太ももが熱く濡れていることにチャンミンは気づいていた。
(ユノの涙...)
「今の僕にとって、ユノが全てだよ。
今だけじゃなく...これからも。
これからずーっと先も、僕の全てがユノだからね」
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(つづく)