(5)Hug

 

 

~ユノ~

 

 

チャンミン、ごめんな。

 

チャンミンをからかうのが楽しいんだ。

 

ちょっとやり過ぎたかな?

 

いちいちムキになるチャンミンが可愛いんだ。

 

確かに俺は、チャンミンと比べると若い。

 

チャンミンが、年の差を気にしていることは、十分わかってる。

 

俺がその壁を壊してあげるからな。

 

でもね、俺も年の差を気にしてるんだ。

 

年相応にみられない自分がコンプレックスなんだ。

 

 

 


 

 

朝食後は、翌日の準備にとりかかるため、それぞれが持ち場に向かった。

 

からりとよく晴れ、機材をのせた軽トラックが走り回り、祭り旗を揚げる掛け声が遠くから聞こえる。

 

学校が休みの子供たちは、いつもと違う雰囲気に興奮を隠せず、まとわりついては大人たちの邪魔をしている。

 

チャンミンは母セイコと共に、宴会会場になる広間を掃除していた。

 

ふすまを外して、畳敷きの2部屋をつなげて広々とさせた。

 

縁側の雨戸も開け放ち、空気を入れかえた。

 

「チャンミン」

 

日光にあてるため、座布団を縁側に並べていたチャンミンにセイコが声をかけた。

 

その固い声に、チャンミンは「とうとうきたか」と気を引き締めた。

 

「そこに座りなさい」

 

正座をしたセイコの正面に、チャンミンも座る。

 

(何を言われるか、想像がつく!)

 

緊張のあまり、チャンミンの手の平はすでに汗ばんでいた。

 

「ユノ君とは、どういう関係なの?」

 

(やっぱり母さん、単刀直入にきたか)

 

「単なる『後輩』じゃないでしょ?」

 

「...うん」

 

チャンミンは観念して、あっさり認めることにした。

 

「付き合っているの?」

 

「...うん」

 

「いつから?」

 

「半年くらい前」

 

「彼はいくつなの?」

 

「いくつだっていいじゃないか」

 

「彼といくつ年が違うの?」

 

「母さんには関係ないだろう?」

 

「彼は、学生?」

 

「『後輩』だって言っただろう?

社会人してるって」

 

(まるで尋問みたいだ。

母さんが引っかかってるのは、

僕とユノとの年齢差、それだけなんだ!)

 

予想はしていたが、やっぱりショックだった。

 

『職場の後輩』設定にしておかないと、セイコにつっこまれる要素を増やすだけになるので、実際のところはぼかしておくことにした。

 

ユノはチャンミンの『元教習生』だ。

 

チャンミンが先生でユノが生徒だった。

 

ユノが若すぎることに加えて、教え子に手を出したと誤解されてしまうと、頭の固いセイコの拒絶反応を煽ってしまう。

 

実際のところ、ユノと個人的な連絡を交わすようになったのは、彼が卒業してから。

 

正式に交際するようになったのは、それからずっと後のことだ。

 

あと一歩のところで奥手な2人だったから、交際半年になっても軽いキスを交わしただけの関係だ。

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

「いい年して、若い子に手を出して...」

 

母さんの言葉に、僕の全身がカッと熱くなった。

 

一番言われたくない台詞だった。

 

「そんな言い方...ひどい!」

 

たまらず大声を出した。

 

「その通りでしょう?」

 

僕の目に涙がふくらんできたのが分かる。

 

「若い子にのぼせて...。

母さんは、チャンミンに泣いてほしくないだけよ」

 

「......」

 

「男の子を連れてきたことを、責めてはいないからね。

そこは誤解しなくていいからね」

 

僕の恋愛対象が女性じゃなく男性であることを、僕は10代の頃から家族には隠さなかった。

 

僕の家族は最初は驚いていたけれど、どうってことない風を貫き通してくれた。

 

事情を知らない親戚や知人が、お節介に女の子を紹介してくることもあったけど、父さんや母さんがシャットアウトしてくれていた。

 

実際は複雑な心境だったと思う。

 

僕は泣き虫なところがあって、失恋の涙を家族に見せたことも1度や2度の話じゃない。

 

僕の性的嗜好がご近所や親せきに知られるようになってからは、家族は嫌な思いをしたこともあっただろうに。

 

分かってる...お母さんが咎めているのは、ユノの年齢だってことは。

 

「チャンミン...悪い言い方をして悪かったね。

母さんはチャンミンが心配なんだよ。

あんなことがあったでしょ?」

 

「......」

 

「ユノ君は、知ってるの?」

 

僕は首を振る。

 

「知られたら、ユノ君に逃げられると、思ってるの?」

 

「そんなんじゃないもん。

ユノは...っ...そんな人じゃないもん」

 

しゃくりあげる僕をしばらく見つめていた母さんは、僕の背中をなぜた。

 

「ユノ君が、ちゃんとした人だってことは、ちゃんと分かってるよ。

少し心配だっただけよ。

母さんの言い方が悪かったね」

 

母さんは立ち上がると、首にかけていたタオルで僕の涙をぬぐった。

 

「さあさあ、10時のお茶にしようかね。

皆を呼んでおいで」

 

 

僕は大きく頷いた。

 

 

 

 

気持ちをストレートに表現するユノだけど、実は相当な照れ屋さんだ。

 

人付き合いが得意な質だけど、いきなり彼氏の実家に連れてこられて、彼なりに緊張して、明るく人懐っこくふるまっているに違いない。

 

ごめんね、ユノ。

 

「彼氏です」って紹介してあげられなくて。

 

ユノのことが恥ずかしかったわけじゃないんだ。

 

自分が恥ずかしかった。

 

ユノと2人きりのときは全然意識していないのに、いざ第三者の目を意識すると、自分が恥ずかしくてたまらない。

 

自分ってば、まだまだだね。

 

ユノの邪気のない澄んだ目に映る自分が、少しでも彼にふさわしい姿でいてあげたい。

 

ユノは賢いから、僕が教えてあげられることは何もないよね。

 

少しでも若く、カッコよくいられるように努力するからね。

 

 

 

(つづく)

 

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