(3)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~ユノ~

 

 

「ただいまー」

 

チャンミンは大声で声をかけた。

 

...ということは、俺たち二人きりにはなれない、ということか、とちょっぴり残念だ。

 

玄関先でもじもじしていると、「遠慮していないで、入りなよ」と急かされた。

 

「お邪魔します...」

 

外観通り、チャンミン宅の中も普通だった。

 

その家独特の匂い、というものがあるものだ。

 

俺は鼻をくんくんさせて、その匂いを嗅ぐ。

 

チャンミンのTシャツの匂いと、バターと漬物の匂いがする...でも、決して嫌な匂いじゃない。

 

玄関の上がり框に階段があり、左手に居間の引き戸、突き当りの台所のドアは開けっ放し。

 

靴箱に杖が引っかけてあり、チャンミンのじーさんかばーさんは足が悪いのかな、と思った。

 

俺の部屋なら脱ぎっぱなしにするスニーカーを、きちっと揃える。

 

「あらあらあらあら。

いらっしゃい」

 

台所の方からエプロンで手を拭き拭き、チャンミンのばーさんが出迎えにやって来た。

 

失礼ながら、長身・美形のチャンミンの家族にしては、ころころ太った小柄な平凡な顔立ちの(高い頬骨はばーさん譲りかな?)、薄化粧と小綺麗な洋服を着た60代の女性だった。

 

「初めまして。

ユノ、と言います。

俺...僕はチャンミンさんと同じ大学の...」

 

俺の自己紹介にかぶせる恰好で、

 

「ユノは僕の彼氏なんだ。

恋人なんだ」

 

「!!!!」

 

俺は隣に立つチャンミンを勢いよく振り向く。

 

この男は一体何を言い出すんだ!?

 

ばーさんも目を丸くして、チャンミンと俺とを交互に見る。

 

3人揃っての無言タイムの間、俺の全身はカッと熱くなり、よくわからない汗がどっと噴き出た。

 

「...まあ、そうなの」

 

彼女は強張った表情を崩すと、

 

「狭い家でしょ。

どうぞゆっくりしていってくださいな。

クッキーを焼いたから、あとで食べていってね」

 

にっこり笑って、パタパタとスリッパを鳴らして台所へ引き上げていった。

 

「......」

 

「ふふっ。

ばあちゃんったら、ユノが来るからって張り切ってる。

化粧なんてしてさ」

 

「......」

 

「僕の部屋は2階なんだ。

こっちだよ」

 

理解が追い付かず目を白黒させている俺の腕を引いて、傾斜の急な階段を上っていく。

 

 

 

 

パタン、と部屋のドアが閉まるなり、

 

「お前な~。

『彼氏』って...『彼氏』ってなぁ?」

 

バッグを放りだして、俺はチャンミンの首を絞める真似をした。

 

「ちょっ、ユノ!」

 

全力で抵抗するチャンミンの背中にのしかかり、お次は脇をくすぐった。

 

「『恋人』って何だよ!?」

 

「ひゃははははは!」

 

くすぐりの刑のお返しをくらった俺も、身をくねらせて、チャンミンの両膝を片足でホールドする。

 

「やめっ、やめろっ!

ひひひひひ!」

 

「やめっ、やめて。

ひゃはっ!

お腹が...お腹...死ぬ、苦し!」

 

小学生みたいにじゃれあう俺たち。

 

「わっ!」

 

チャンミンに足をすくわれ、俺たちは絡まったままベッドに倒れ込んだ。

 

男2人分の体重を受け、シングルベッドのマットレスがギシギシたわんだ。

 

向かい合わせに寝転がった俺たちのクスクス笑いは止まらない。

 

「ふぅ...」

 

呼吸が整ったところで、俺はチャンミンの片頬を包み込む。

 

とっくみあいのせいで、チャンミンの頬は燃えるように熱く、汗に濡れた前髪が額に張り付いていた。

 

「お前のばーさん、心臓発作起こすぞ?

年寄の頭は固いんだぞ?

...そうじゃなくても、普通の人だってびっくりするよ。

俺は『彼女』じゃない、『男』だ」

 

「うん、分かってるよ」

 

「『友達』でよかったのに...」

 

チャンミンをたしなめた俺だけど、彼の意図はなんとなく分かった。

 

俺が新学期を恐れるように、チャンミンはチャンミンなりに気にしていたんだな。

 

チャンミンは俺と違って、ケロッとしていそうだ、と勝手に想像していた。

 

付き合って1週間、この短期間のやりとりから「チャンミンはこういう奴じゃないかなぁ?」って。

 

突然キスをしてくる大胆な行動、どこかとぼけた口調で自身をあっけらかんと開示する。

 

平気なフリしてくれたのは、俺のためなんだろうな。

 

だからこそ、こそこそと隠す前にさっさと宣言したのだ。

 

...多分、そういうことなんだろうな、と思っていたら、

 

「こういうことは早めに知らせておいた方いいんだよ」

 

と、チャンミンは俺の思いと同じことを言った。

 

「...そうだね」

 

「ばーちゃんはじーちゃんに報告するだろうね。

じーちゃんは、『チャンミンの冗談に決まってる』って、取り合わないかもしれない。

悩むだろうね。

でも、僕やユノには嫌な顔は見せないと思う。

時間はかかっても受け入れようと、頑張るんじゃないかな」

 

「そっか...」

 

我が家族は、天と地がひっくり返ったかのように仰天するだろうなぁ。

 

こんこんと説教するかもしれない...いや...ケロッとしてるかもしれない。

 

分からない。

 

だって、「俺の恋人は『男』なの」なんて、カミングアウトの経験はないんだもの。

 

先のことは今からくよくよと思い悩むのは止しておこう。

 

俺たちの恋はスタート地点に立ったばかり。

 

チャンミンのことなら何でも知りたい。

 

新たな発見を積み重ねていくうちに、俺たちを包み込む層も厚くなる。

 

 

 

 

すーっとチャンミンの顔が近づき、優しく柔らかなキスをされた。

 

俺は上半身を肘で支えて、深い深いキスをお返しする。

 

俺はチャンミンの頬を両手で挟み、チャンミンは俺のうなじと背中に両腕を回す。

 

チャンミンも身を起こし俺を下敷きにして、俺の首筋に吸いついた。

 

「あ...は」

 

下半身がぞくり、とうずく。

 

チャンミンのTシャツの下から手を忍ばせる。

 

熱い肌。

 

まっ平の胸。

 

指先に触れた小さな突起を摘まんで、2本の指でこすり合わせた。

 

「ひゃ...はっ」

 

チャンミンの背がのけぞった。

 

「え?

気持ちいいの?」

 

チャンミンはこくこくと頷く。

 

へぇ...男でもそこは気持ちいんだ、知らなかった。

 

Tシャツの中に頭を突っ込もうとしたら、チャンミンに頬をつかまれ引き上げられた。

 

チャンミンの唇は唾液で光り、半開きでキスをねだっている。

 

室内に、くちゅくちゅ、ちゅうちゅういうエロい音。

 

上になり下になり、くんずほぐれつ絡み合う。

 

その度にベッドはきしみ、壁伝いに伝わった振動で、蛍光灯の紐が揺れた。

 

両腿を絡め、互いの膨らんだものをこすりつけ合う。

 

4枚の生地越しがもどかしいけれど、そのソフトな刺激が興奮をあおる。

 

ウエストボタンを早業で外し、緩んだ隙間へ片手を突っ込んだ。

 

熱く蒸れたブツをつかみ、上下させる。

 

「なあ。

ばーさんが上がってくるんじゃないの?

...んっ。

クッキー焼いたって言ってたじゃん」

 

「んっ...だいじょう、ぶ。

気を利かせてっ...ふっ...ん。

しばらく...っ...来ないよ」

 

チャンミンの手も、俺の下着の中にもぐりこんだ。

 

「どんだけ理解あるんだよ」

 

「恋人を連れてきたって...あっは...。

...邪魔しないようにっ...って」

 

「普通は、邪魔しに...はっ、はぁ。

...来るんじゃないの?」

 

「そのときは、そのとき...だよ」

 

チャンミンと絡み合うのは、例の旅行以来だ。

 

俺たちの中で膨れ上がった欲望は、止められない。

 

止められないけど、止めるしかない。

 

この後の進行に、迷いと戸惑いがあったからだ。

 

「タンマ」

 

「んっ...?」

 

「タンマだ、チャンミン」

 

「......」

 

「一旦離れようか?」

 

「...うん。

そうだね」

 

俺たちはそれぞれ、握ったブツから手を離した。

 

「はあはあはあはあ...」

 

「暑いね」

 

「続きは、今日の用事を...済ませてからにしよう」

 

「...うん」

 

飛び出したブツを下着におさめ、ファスナーをあげた。

 

不完全燃焼だけど、今はストップだ。

 

止められなくなる。

 

俺としては、いろいろと整理しておきたいことがあったからだ。

 

 

(つづく)

 

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