外したばかりのゴムの中身に、「Dちゃんとできなかった後、自分で抜いただろ?」と、チャンミンをからかった。
チャンミンは背中をまるめて、自身の股間の処理をしている。
「うん...。
不発弾を抱えてるのは、気持ち悪いでしょ?」
「ティッシュついてるぞ」
チャンミンのブツにへばりついた紙片を、取ってあげた。
「ユノも、毛のところに...飛んでる。
あ、僕、ウェットティッシュ持ってるよ」
この光景は一体、何なんだ。
半裸で、局所だけ出した男2人、ブツの後片付けをしているのだ。
昨夜の俺は、女の子とやっていたんだぞ?
翌日の俺は、その女の子の女友達の彼氏としごきあった。
信じられない展開だけど、受け入れるしかない。
チャンミンとこうしたかったんだから。
「なあ」
「んー?」
「ちゃんと言ってなかったけど。
俺とチャンミン...こんな風になっちゃったけど...」
「その先は言わないで」
とっさに伸びてきたチャンミンの手に、口を塞がれた。
「なかったことにしよう、とか言わないで。
ユノは、後悔してるかもしれないけど...僕は。
...僕は、嬉しいんだ」
俺はチャンミンの手首をつかんで落とした。
「俺も...よかったよ、今の」
「...え?」
「こんなこと出来るくらい、チャンミンのことが気になってたっていうか...。
近づきたいっていうか...。
うまく言えなくてゴメン」
言葉が見つからないんじゃなく、恥ずかしくてあの一言が言えないだけなんだ。
すると、チャンミンがしがみついてきた。
「...好き」
胸元に顔を押しつけたままの、くぐもった声。
俺は男相手に、きゅんと胸をときめかせた。
・
俺とチャンミンは仲良く並んで横たわり、揃って天井を見上げていた。
照明は全て落としていたから、実際は暗闇を睨んでいた。
暑苦しくてボトムスは脱いでしまい、パンツ一丁で、手を繋いでいた。
俺たちは一体全体、どうしてこんな感じになっちゃったんだ?
自分の中に存在する、客観的で冷静な俺がぼそっと俺の耳に囁いている。
それに応えて、「こうなるしかなかったんだ」とつぶやいてみる。
当然のことをしたまでに過ぎず、突拍子もないことをしでかしたわけじゃないのだ。
「僕...」
おもむろにチャンミンは口を開いた。
「女の子ともできなかったし、ユノともできなかった」
「...すぐにできるわけないじゃん。
全くの予定外だったんだから。
...俺だって、童貞みたいなもんだよ」
「ホントに3人?
10人とか20人とかって言うかと思った」
どうやらチャンミンは、俺が申告した経験人数について気になったままの様子。
「どこから20の数字が出てくるんだ?」
「...ユノって、そんな感じの見た目」
「軽いって意味?」
仰向けから横向きの姿勢へ寝返りをうち、肘枕をした。
「...モテるだろうなぁ、っていう意味。
ユノってカッコいいから。
ねぇ、ユノの初めてはいつだった?」
「...18歳かそれくらいかなぁ。
普通だろ?
20人も経験してたらさ...3年で20人。
どれだけやりまくってるんだよ?
1年で6人か...ん...あり得ない数でもないか、ハハッ」
打ち明け話ついでに、このことも暴露してしまおうと思った。
「...女の子とやるのは気持ちいいし、
彼女ができればその子とやって当然、ってやってきたんだけど。
なんだろう...『だから何?』っていうか...。
何言いたいのか分かんないな、これじゃあ、ハハッ」
「...それって、ホントはやりたくないんじゃないの?」
「え?」
「Dとできなかった話をしたよね?
できなかったのは、『したくなかった』んだよ」
チャンミンの指摘で、ハッとする。
「ユノとこういうことしちゃった後だから、よく分かったんだ。
ユノはどう感じたのかは分かんないけど、僕は...すごかった」
「よかったぁ...」
「ホントに?」
「うん」
「ユノにそう言ってもらえて嬉しい。
でね、分かったんだ
好きな人とえっちをしたいってのは、こういう気持ちを言うんだろうって。
ユノとしたい、って思った。
やり方はよくわかんなかったけどね」
チャンミンは、凄いことをさらっと言いのけた。
「ユノと会った時、本能に近いところで仲良くなりたい、って思った。
ビックリしちゃったよ。
気持ちの正体を知りたくて、ついついユノをジロジロ見ちゃって。
見れば見るほど、仲良くなりたい気持ちが強くなっちゃって。
気持ち悪かったでしょ?」
俺は感動と感心で言葉が出ずにいた。
「ごめん...引いてもいいよ。
気持ち悪いこと言ってる自覚はあるから」
「気持ち悪くないよ。
俺だって...チャンミンのことをジロジロ見てた」
「知ってる」
「ジロジロ見てしまったのは...好きになったからだよ」
興奮の最中、互いの身体をまさぐるのに夢中で、チャンミンがつぶやいた「好き」に応えていなかった。
「...嬉しい。
ユノ、どうしよう!
僕たち、浮気してるよ」
「確かに...」
今さらながら、俺にはAという彼女がいることを思い出した。
「Dちゃんとはどういうきっかけで?」
「サークルが一緒なんだ。
Dはみんなの前では大人しくて、でも僕といる時は思っていることをズケズケと言う子で。
それって僕に気を許しているんだって...勘違いしてたみたい。
その上、Dのことを理解しているつもりでいた。
よ~く考えてみたら、単にDの扱いに慣れているってだけのこと。
僕って、好意と恋愛感情の区別がうまくつけられない人間みたい。
僕はね...勘違いが多いんだ。
...でもね、分かったんだ」
「分かってる」
チャンミンの頬を手探りで包み込み、ここだと見当をつけたそこに唇を落とした。
・
女の子は不思議な生き物だけど、男だって不思議な生き物だ。
俺とチャンミンは男という点では共通しているけど、隣にいるこいつは、俺にとっては未知の生き物だ。
そっか...俺は、Aであろうと、その子がBやCであっても、全部まとめて女の子という集合体で見てきたんだな、と。
1歩下がった立ち位置で、彼女を醒めた目で見てしまうから、甘える言葉に媚の匂いを嗅いでしまうのだ。
彼女自身には興味がなかったんだから、一緒にいてなんか違うんだよなぁ、とぼやいてしまっても当然だった。
だからAやDが、俺たちへの不平不満を暴露していたのを聞いてしまっても、腹が立つくらいで、強い怒りを抱くほどまでには至らなかったんだ。
Dがどんな子なのか俺は知らないから、Dについては判断できない。
半年近く恋人同士をやってきたAについてなら、多少はどんな子かは分かるつもりだ。
Aも俺と似たようなスタンスで、俺の彼女でいるんだと思う。
だとしても、ずいぶん失礼なことを彼女にしてしまったなぁ、と反省しなくては。
俺の眼差しは隣に寝っ転がっている、のっぽな男にのみ注がれている。
性別を抜きにした時、その人物に興味を抱けるかどうか、好きになれるかどうか...ここが肝心なのだ。
今さら視点を変えてAと向き合えるかといえば、それは出来ない。
Aには興味はないのだ。
ところが極端な話、もしチャンミンが女の子だったとしても、俺は気になって仕方がなかっただろう。
実際はチャンミンは男だったから、並んだ2本のブツに困ってしまっただけのことだ。
(つづく)
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