~ユノ~
閉じた入口から目を離せずにいる俺の様子を、チャンミンはじっと見つめていたが、起き上がると、俺の腕を引っ張った。
「チャンミン?」
壁にもたれるよう促され、その通りにした俺の前に、チャンミンはすっぽり収まるように腰を下ろした。
俺は大股広げたチャンミンを後ろから抱える格好となった。
なるほど...。
まともにそこを目にして、怖気付く俺を気遣ったのだろう。
チャンミンの方も、俺の手の動きを見守ることができて恐怖が和らぐのだろう。
チャンミンは邪魔になるものを、両手ですくいあげている。
「チャンミン、ケツを持ち上げられる?
この姿勢はやりづらい」
「うん」
チャンミンは腰を前にずらし、両膝を抱えてそこを露わにした。
チューブの中身を、肘まで垂れるほどたっぷりと指にからめとった。
その指で巾着の口の周りを芋虫のように這わせた。
未経験の俺には、そこがほぐれているんだかいないんだか分からない。
チャンミンはくすぐったいらしく、腰をもぞもぞさせている。
「入った!」
数日前とは比べものにならないほどあっさりと、俺の中指は飲み込まれた。
チャンミンは後ろを振り向き、俺と目を合わせるとこくん、と頷いた。
「すごいな...特訓したんだ?」
「...うん」
チャンミンの健気さに、じんとしてしまう。
突っ込んだ指を中でぐるりと回転させてみたら、チャンミンは「うぐぐ」と呻いた。
「どう?」
「う...ん。
分かんない」
「自分でやってみてどうだった?」
「ユノのが入るサイズに広げることで精いっぱい。
気持ちいいと思えるには、まだまだ」
指先の感触に神経を研ぎ澄ませた。
温かくぬるぬるとした粘膜が吸いついてくる。
女の子の中よりも柔らかくはない。
俺の指の付け根をきゅうきゅう締め付ける入口は狭いけれど、中は広い。
俺なりに仕入れたハウツー通りに、中を探ってみた。
「ここは?」
「...んっ...。
...変っ...な感じ」
「ここは?」
「んふっ...ぞくっとした」
360度、順に小刻みに壁を刺激し、チャンミンの反応をみているのだ。
緊張しているらしいチャンミンの背中は強張っており、自ら膝を抱える腕も筋張っていた。
俺の方も全身が熱い。
チャンミンのものがどうなっているかは、腹と太ももにサンドされていて確かめられない。
「2本目...いってみる?」
「うん、いってみよう」
先日、小道具を取り寄せてはしゃいでいた俺たちの会話を思い出した。
「実験みたいに楽しもう」って。
今の状況こそまさしく『実験』だ。
チャンミンの反応を確かめながら、俺は彼の中をまさぐる。
チャンミンは、俺の指がもたらす感触に『気持ちいい』を見つけようとしている。
入口の縁を傷つけないよう、中指を追加した。
「...入った...!」
「きつくない?」
「う...ん、大丈夫」
「きつかったら教えて?」
「うん」
チャンミンの熱い肌と俺の汗が交じり合って、半径1メートルが熱帯のように蒸していた。
「動かすぞ?」
さっきと同じように、中を探っていこうとした時...。
「ユノ...」
「うそっ!
キツい?」
「キス...」
歯を食いしばって耐え忍んでいる表情を予想していたのに、背後へ振り仰いだチャンミンときたら。
ぽかんと開いた口、とろんと下がった目尻をピンク色に染めていた。
ごくり、と喉が鳴った。
チャンミンに埋めた指はそのままに、もう片方で彼の顎を引き寄せ口づけた。
「『いい』の?」
「まだ分かんないけど...。
ユノのが入っていると思うと...ドキドキする」
「そっか...」
チャンミンの言う通り、それがブツじゃなく指であったとしても、好きな奴の大事なとこへの侵入を許されたと思うと、感動に値する。
チャンミンの肩を抱き、彼の首筋に口づけつつ、探検を再開した。
指を動かすごとに、チャンミンの喉仏が震える。
この探り合いは...なんだ?
一体全体、どこの誰が、本来「出す」ところに挿れようと思いついたのだろう?
「特訓」すると、アレが挿いるサイズになるなんて、誰が最初に試してみたんだろう?
「開発」すると、そこは強烈な快感を覚える場所だなんて、誰が発見したんだろう?
そうか...人類の飽くなき性への探求心、さらなる性感を求めて試行錯誤の末、たどり着いたココ。
変態心がこのプレイに行きついたんだな、うん。
まずい...。
俺の悪い癖が出てしまった。
つまり、今この時、自分がしている行為について熟考し始めることだ。
後ろ抱きにしているチャンミンに意識を戻す。
俺はこの男が好きだ。
好きな奴とは裸になって抱き合いたい。
恋人同士が抱き合うとはつまり...挿入を伴うものなわけで...。
何度も言い聞かせていること...俺たちはそれぞれ穴が1つずつ足りない。
凸と凸同士が繋がりたければ、1つしかない凹に入れるしかないわけで...
...そこまでしないといけないのだろうか?
マズい...。
エロい気分が消えてしまった。
俺は首を振って、意識を「今」「ここ」に戻した。
予習で得た知識通り、「この辺りかな?」とそれらしい箇所をこすった直後。
「ひゃぅっ...!」
びくんとチャンミンの身体が跳ね、その肩が俺の顎を直撃した。
「!」
チャンミンは前方へ身を投げた。
「え...?」
たった今まで中に入れていた、2本の濡れた指だけが残された。
打ちつけた顎の痛みよりも、その場で突っ伏した姿勢でいるチャンミンが心配だった。
「どうした?
痛かったのか?」
「...違う。
すごかった」
「あそこか!
正解だったんだな!」
「ヤバいよ、そこ。
初めてだよ...あんなの」
「気持ちよかった?」
「そうなのかな?
とにかく、ヤバイ感じ」
「ヤバいんだ」
「うん。
あれはヤバい」
「もうちょっとやってみるか?」
「う~ん...。
怖いなぁ...。
心臓がもたないかもしれない」
「そんなに凄いんだ」
「ユノもやってみる?」
「な、何言ってんだよ!?」
「冗談だよ。
ユノんとこに入れたい興味はないんだ」
「へえ。
不思議だよなぁ。
どっちがそっちになるってのは、相手次第なのか、そいつの素質なのか」
「ホント、不思議だねぇ」
・
...その日、俺たちは無事に果たせたかというと...延期となってしまった。
下準備に全エネルギーを使い果たしてしまったのだ。
萎えてしまった俺はその後、うんともすんとも言わなくなった。
焦ったチャンミンは、こすったり口に含んだりと、頑張ってくれた。
チャンミンから施される初めてのエフだったのに、くすぐったいばかりで復活してくれない。
チャンミンのものも、ぐったりとしていたからおあいこだ。
焦らなくていい。
俺たちには時間はたっぷりとある。
夜ならば毎晩だって、会おうと思えば会えるのだ。
未知なる世界への扉はあまりにも大きく、これまでドアノブに手が届かなかった。
今の俺たちは、そのドアノブに届いたのだ。
次はそれをひねるだけ。
(つづく)
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(つづく)
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