~チャンミン~
再挿入を果たせたのか果たせなかったのか?
答えは、『果たせた』だ。
焼け付く入口の激痛にまぶたの裏で火花が散った。
僕はユノみたいに、「はて...僕らは一体全体、何をしているんだ?」なんて我に返らない。
僕は感情と直感の赴くままに行動しているから。
でも常にそうではなくて、逆転することも多く、ユノの方が大胆な言動をする時も多い。
僕らはセットになると、ちょうどよくバランスが取れているから、もともと相性はとてもいいのだと思う。
だから身体の相性だっていいに決まってる。
初えっちの話に戻すと、『どうだったか?』
正直に答えると、『気持ちよくなかった』
感じているフリをする余裕はなかったし、引き寄せた枕でじわりと浮かんだ涙を拭った。
いつばーちゃんがドアをノックするかと気が気じゃなかったせいもある。
「きっつ...全部...入らない」
ユノも僕のアソコを気遣い、じわりと時間をかけて埋めてくれたんだけどね。
「いっつ...!」
「...半分が...やっとだ...」
数回抜きさししただけでユノはイッてしまった。
締め付けが想像以上にきつかったんだとか。
終った時、「どうだった?」とユノに尋ねられ、僕は「あんまり」と正直に答えた。
ユノは「俺も」とつぶやいた。
もし「よかったよ」と答えたとしよう。
鋭いユノは僕の嘘を見抜くだろうし、その嘘の真偽を問いただすことはせず、僕の嘘を信じたフリをしてくれる。
そんなのは...イヤだ。
僕らは全裸のまま、ベッドに仰向けに横たわった。
「来週、リベンジしよう!」
「ああ。
チャンミンのケツが治ってからな」
・
イマイチな初えっちだったからといって、僕らはしょげたりしない。
第2回戦はユノの部屋。
さらなる知識を携えての再々チャレンジだ。
回数をこなすうちに、アソコの良さを知っていった。
挿入後すぐにイッてしまったユノも、その持続時間が伸びていって、ついに僕ら同時にフィニッシュできるまで進歩した。
僕とよりも女の子とヤった時の方がイイのではないかと、ちらっと比べそうになることもあった。
わざわざ口に出さなくても、ユノは表情から僕の思いを読み、「チャンミンのが最高」と言ってくれる。
それでも、僕の機嫌が悪い時は「Aちゃんとの方がいいんだな!」と枕を投げつける。
「ほぉ...。
チャンミンだって、俺と付き合わなければ、Dちゃんとヤッてたかもよ?」
「するか!
...わっ!」
タックルされ床に仰向けになった僕の上に、ユノは素早くのしかかる。
「離せっ!」
振り回す腕はねじり上げられ、ユノの股間を狙った膝もかわされた。
僕が大人しくなると、ユノは「チャンミ~ン」と、僕の首筋にぐりぐりと鼻をこすりつけてくる。
「くすぐったい!」
「女子ってのは異星人だ」
「う~ん...確かに」
「だろ?
もしさ、もしもの話だ。
チャンミンが女子の誰かを好きになったとする」
「なるか!」
「例え話だよ!
落ち着けチャンミン」
鼻息荒い僕を「まあまあ」となだめると、ユノはいつものようにクソ真面目な顔して語り出した。
「もしも、チャンミンが女の子の方がいい、って俺をフッたとする。
...落ち着けったら、たとえ話。
絶対にそんなことはない、って俺は知ってるから」
「...そうだよ」
「異星人の女子相手じゃ俺はどうにもできん。
ライバルにすらなれない。
だから、女子を比較対象にしても無意味なんだ」
「?」
ユノは指で輪っかを作り、その輪っかを空中に1、2と置くジェスチャーをした。
何を話すんだろうと、僕はユノの手元から目を離せない。
「これじゃ分かりにくいな」
と、ユノはテーブルの上の2人分のグラスを整列させた。
水と炭酸飲料が注がれたグラスだ。
「女子には2個のグラスがある」
ユノは2つのグラスにそれぞれ割りばしの先を浸した。
「大抵の者は水を飲む。
コーラが好きな少数派もいる」
ユノはベッドの下から拾い上げたものを、どんとテーブルに置いた。
「で、ここに男というチューブがある」
それは僕らの潤いクリームのチューブだった。
「チューブはひとつしかないから、ここに入れるしかない」と、キャップを外した口に割りばしの先を刺した。
「ローションとコーラを比べられないだろう?」
「...確かに」
「俺が言いたいこと、理解できた?」
おそらく5分の1も理解できていなかったけれど、ユノの真剣な表情に胸を打たれていた僕は頷いた。
ユノのたとえ話はいつも、僕を安心させるために一生懸命なものだ。
「えっちの相性を比べるのなら、別の男とヤッた時にしろ」
「するか!」
「チャンミンはしないって、俺は知ってるよ。
世の中には沢山の種類のローションがあるだろ?
いやぁ驚いたなぁ、あんなにあるとは。
どのローションにしようか選りどりみどりだ。
好みにあうもの、イマイチなものもある。
同じ用途だから比べられるんだ。
ドゥーユーアンダースタン?」
ユノはニヤリと笑い、僕の頬を両手で挟んで上下にぐにぐにさせた。
「異星人にヤキモチ妬いたって無駄だ。
そういえば、チャンミンとこにイケメン院生がいるだろ?」
「いるけど...。
ちょっと!
あのね、僕はストレートなの!」
「だからだよ。
もしチャンミンがその院生にぐらつきそうになった時、俺はすっげぇ嫉妬する。
でも、新入生の可愛い女子にぐらついた時は...勝負にならん。
俺は退散するしかないんだなぁ」
「同じ台詞をユノにお返しするよ」
僕はユノの頭を力任せに引き寄せた。
「僕はね、ユノがいいの。
男でもない、女の子でもない...次元が違うんだ。
だから、男とも女の子とも比較ができないんだよ」
「...続きを...しよっか?」
「...ユノ。
お尻がもう限界」
「そっか...ごめんな。
2,3日静養期間をとろうか」
「ごめん」
「気にするなって。
俺のも4回目はキツかったから。
1時間やってもイケなさそう」
「イク前に擦りむけそうだね」
擦りむけて真っ赤になったものを想像したのだろう、ユノは顔を思いっきりしかめた。
「想像もしたくないな...。
...そうだ!
チャンミンちの玄関に杖があっただろ?
じーさん、足が悪いのか?
外出大変そうだな」
「あ~、あれね。
じいちゃんは足腰が頑丈なんだ。
じいちゃんのじゃないんだよ」
「じゃあ?」
「あれはね強盗対策。
うちに忍び込んだ強盗と出くわした時に、そいつをぶちのめす為に置いてるんだ。
ばあちゃんのアイデアだよ」
「あはははは!
じーさんもばーさんも面白くていい人だよなぁ。
じーさんもばーさんも、一度たりとも俺に嫌な顔しなかった...。
嬉しかったなぁ」
「いつでも夕ご飯食べに来て。
ばあちゃん、『ユノ君はちゃんとご飯食べてる?』ってうるさいんだ。
そのうちお弁当作るんじゃないかなぁ」
「そっかぁ...。
嬉しいなぁ...」
「その後僕んちに泊まって、と言いたいところだけど...」
「ヤらない日があってもいいんじゃない?」
「...わかったよ」
拗ねて口を尖らせた顔なんて、よそ様にはとても見せられない。
~ユノ~
『恋人たちのEuphoria』は、戸棚の中で出番を待っている。
こんなものに頼らなくても、俺たちはいつでも、どこまでも深く陶酔の世界へと沈んでゆける。
そこまで到達するまでに10回も必要なかった。
いつかマンネリした時に使うつもりでいるのだが、現在のところはまだ必要としていない。
約束を破った時の罰ゲームにするのもいいかもしれない...Euphoriaの刑って。
当時の俺たちを思い出すと、頬が緩む。
最初の最初に大人の玩具を揃えた20歳男子。
幼く滑稽で、好奇心に満ち満ちていて、純粋だった。
同性同士の恋愛に戸惑い、周囲からの評価を気に病み、互いに慰め励まし合って、えっちにもつれ込んで。
並木道では堂々と手を繋いで歩いた。
喧嘩も沢山した。
あれほどまでの熱量を持って誰かを好きになったのは、チャンミンが最初で最後。
今この時、俺の隣を歩くチャンミン。
ほくほくと幸福そうで俺も嬉しい。
ぐっと大人っぽくなったのに、幼さを残す横顔に見惚れていたら、
「あのねユノ。
ビッグニュースがあります!」
笑顔のチャンミンがこちらを振り向いた。
「ビッグニュース?
いいこと?」
「当たり前でしょ」
チャンミンが報告してくれた内容はまさしくビッグニュースで、街中にいるのも構わず彼を抱き締めた。
若かった俺たち。
二度と戻れない、20歳の俺とチャンミン。
青春の日々。
チャンミンからのキスから始まった、俺たちの恋。
ビジネススーツの男2人、手を繋いで家路を急いだ。
(おしまい)
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