(28)あなたのものになりたい

 

 

~チャンミン~

 

レジカウンターの脇のドアを開けてすぐに、地下へと下りる階段がある。

 

お兄さんは「狭いな」とつぶやき僕を床に下ろした。

 

僕を横抱きにしていたら、階段の壁に僕の足がぶつかってしまうからだ。

 

僕はお兄さんに手をひかれて、埃だらけの階段を裸足でぺたぺた下りていった。

 

裸ん坊の自分が心もとなくて、半勃ちのおちんちんを手の平で覆い隠した。

 

裸が平気だったのに、今日の僕は恥ずかしがり屋になってしまった。

 

仕事部屋へと続くこの階段、かつての僕は1ステップごとに、心の中を空っぽにしていったんだ。

 

そこまでの十数メートルを、客の大半は『犬』にリードをつけることを好む。

 

リードの扱い方を見れば、その客がどんなプレイを好むのか前もって分かるのだ。

(粗野な客に、ひと晩どころか1週間レンタルされた時には、心を消してはいても辛いものがあった)

 

強く引っ張られ過ぎて、ステップを踏み外したことも多々あったなぁ、と思い出していたら、

「危ない!」

僕の腰はお兄さんに抱きとめられた。

 

「...辛いのか?」

 

僕を心配する声はとても優しいのに、えっちな目をしている。

 

僕は首をぶんぶん振って、「平気です。懐かしいなぁ、って思ってただけです」と答えた。

 

トラウマのあまり呼吸困難に陥り、その場にしゃがみ込んでしまい、真っ青な顔してぶるぶる震える...テレビで見たことがあるシーンは、僕には全然当てはまらない。

 

僕はタフに出来ている。

 

だから、お兄さんを安心させようと、強がって言ったものじゃないんだ。

 

屋外は残暑厳しい汗ばむ気候なのに、地下のここは冷え冷えとして、僕のおっぱいの先が固く縮こまっている。

 

幾度かお兄さんの視線が、僕のそこに止まった。

 

お兄さんは乾いた下唇を、赤い舌で湿した。

 

お兄さんの唇で温めて、舌で転がして欲しい。

 

僕はごくり、と唾を飲みこんだ。

 

舐めて吸って、噛んで欲しい!

 

おちんちんが膨らんで、僕の手の平の下で窮屈そうにしている。

 

ドアは開け放たれた状態だった。

 

壁は防水防汚加工されたビニールクロス貼りで、メインのベッドもビニール製だ。

 

客が入れ替わるごとに入念に消毒し続けたせいで、塩素の匂いが染みついている。

 

生臭い匂いがするよりはマシだ。

 

「...あ」

 

間口に立ち尽くし考え事にふける僕は、軽々とお兄さんに抱きあげられた。

 

その上にもろくて壊れやすいものを扱うかのように、恭しく下ろされて、僕は仰向けに横たわった。

 

腰を浮かせて、開いた両膝はお腹に引き付けた。

 

僕は中指と薬指によだれをたっぷり、まとわせた。

 

お兄さんと目を合わせたまま、その指をお尻の穴へと這わせ、ゆっくりと突き刺した。

 

「は...はぁ...あっ...」

 

さっきまでお兄さんになぶられていたため、柔らかく緩んでほぐす必要はなかった。

 

どん欲に口を開けたそこを、よく見てもらえるように、左右に割った。

 

お気に入りの箇所を指の腹でこすると、「んふっ」と思わず出た甲高い声に、自分でもびっくりする。

 

僕とお兄さんは目を合わせたままだから、僕の指がアソコをどうイタズラしているのか、お兄さんは見ることができない。

 

「...は...あぁ...あ...」

 

お兄さんが見たいのは僕の表情なんだ。

 

えっちなことをして、えっちな声を出す僕を見たいんだ。

 

「挿れて...?」

 

お兄さんの眼がウルウルとしてきたけれど、これは涙ぐんだものじゃない。

 

高熱の人の眼だ。

 

熱病にやられて、僕のことが欲しい欲しいって、狂いかけている人の眼だ。

 

お兄さんは唇の合わせをちろりと舐めた。

 

舌なめずりする虎のようで、ぞくり、とした。

 

「早く...挿れて。

お兄さんの...挿れて?」

 

僕はこれから、この人に食べられる。

 

お兄さんは僕と目を合わせたまま、ズボンと下着をずらしている。

 

「んっ」

 

僕の入り口にあてがわれた、弾力のある温かいもの。

 

お兄さんと目を合わせたまま、僕はそれを飲み込んでいく。

 

お兄さんのおちんちんが欲しくてたまらない僕の内臓。

 

本来の役割を忘れて、中へ奥へと送り込む

 

 

「んっ...ふっ...お、大きい...」

 

「なあ、チャンミン」

 

ずん、と衝撃についで、お尻の奥から強烈な痺れが弾けた。

 

弾けたのちに、全身の力が抜ける。

 

「ひゃ...あっ...あん...っあ」

 

数度、腰を叩きつけると、ぴたりと動きを止めて僕に囁きかける。

 

「思い出したか?」

 

低く、男らしい声だ。

 

「...?」

 

「客に抱かれている時も、そんな声を出していたのか?」

 

ずくずくと数度突いては、僕の反応を確かめる。

 

「あああぁん...!」

 

「いい反応だ。

さすが売れっ子だ」

 

お兄さんの手が僕のお尻へ振り下ろされ、バチンと見事な破裂音が室内に鳴り響いた。

 

「ちがっ...違うよ」

 

「へえ...じゃあ、これは?」

 

と、唇の片端をクイと上げいやったらしく笑って、深く貫いたまま左右に僕を揺さぶった。

 

「ああぁっ...いい、いいっ...!」

 

僕の上にのしかかるお兄さんにしがみつこうと、伸ばした両腕は払いのけられた。

 

「お前は尻を広げていろ」

 

手首をつかまれ、自身のお尻にあてがわれた。

 

数えきれない数のお客をイカせてきたこのベッドで、僕はお兄さんに抱かれている。

 

僕らはとても悪いことをしている。

 

今も昔もここは、衛生的な匂いがする。

 

叩きつけられる腰の力を、僕は商売道具だったアソコで受け止める。

 

『元犬』が『犬』だった場所で抱き合っている。

 

トーサク的だね。

 

 

(つづく)

 

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