~ユノ~
チャンミンに語りかける過程で見つけた答えだ。
「一緒に暮らしたかったからお前を買った」
チャンミンを残して先に店を出た。
俺を追ってくるチャンミンを期待していた。
ついに本心を見つけることができた。
・
足腰がガタガタなチャンミンの為に、マンションまでの帰り道もタクシー使った。
ドライバーの目を気にすることなく、チャンミンは俺の肩にもたれかかった。
チャンミンの膝の上で、互いの指と指とを絡めた。
反対側の手で、チャンミンは首元をいじっている。
首輪が必要なくなって数カ月が経過した。
青いチョーカーが、チャンミンのほっそりと長い首を飾っている。
今も消えずに残る痕...茶色い色素沈着の輪を覆い隠してくれる。
チャンミンは『犬』である証の首輪...主従関係の見せしめに...硬い牛革製の首輪を...をどれだけの期間、装着してきたのだろう?
チャンミンに一度訊ねてみたい質問だった。
チャンミンは指先でチョーカーのチャームを揺らしている。
そのチャームは単なる飾りではなく、俺に万が一のことがあった時のための備えになっている。
チャンミンが当面の間、暮らしに困らないだけの価値がある。
チャンミンの髪がふわふわと俺の頬をくすぐっている。
チャームの次に、チャンミンは繋いだ俺の手をいじりはじめた。
絡んだ指の1本1本を曲げたり伸ばしたり、こそこそと手の甲をくすぐったり...子供っぽい仕草に「ふっ」と笑みの吐息が漏れた。
「お兄さん」
「ん?」
上目遣いのチャンミンと見つめ合う。
「...なんでもないです」
「?」
「呼んでみただけです」
チャンミンは視線を伏せてしまい、俺の手をいじる動作に戻ってしまった。
チャンミンの耳はみるみるうちに赤くなってゆく。
その分かりやすい変化を目の当たりにして、彼を愛しく想う感情で溢れそうになった。
「舐めてもいいですか?」
「...えっ!?」
「...指、舐めても...いいですか?」
チャンミンに指をしゃぶられた夏のはじめ、河川敷の散歩の日を思い出した。
温かく柔らかな舌が、指の股をちろちろとくすぐった後、ねっとり指先へと這っていく。
まるでアレするように俺の指をうまそうに、しゃぶっていた。
2度も射精したばかりだというのに、当時の感触を思い出すだけで股間の緊張が高まっていく。
「舐めたいけど...タクシーの中だから、駄目ですよね」
まったく、この男は...俺を誘うのが上手い。
「まだ足りないの?」と、チャンミンの耳元に吐息多めで囁いた。
チャンミンの顎がぶるっと震えた。
「......」
ごくり、と喉仏が上下した。
分かりやすい反応だった。
快楽にどん欲なところ...それを隠そうとしないところがこの男の魅力のひとつだ。
「チャンミンの中...俺のが漏れそうなんだろ?
もっと欲しいのか?」
「......」
「いらないんだ?」
「...欲しいです」
「素直でよろしい」
チャンミンの額に唇を押し当てた。
ドライバーと一瞬、バックミラー越しに目が合い、にっこり笑って見せると彼は慌てて目を反らした。
絡めたチャンミンの指が白くなるまで握る力を込めると、それに応えて彼も握り返した。
~チャンミン~
ベッドの上でのエッチに飽きた僕らは、家じゅうのありとあらゆる場所で身体を重ね合った。
その中で凄かったのは、ダイニングテーブルの上に乗っかって、お尻を突き出してしゃがむんだ。
ものすごく恥ずかしい恰好だ。
ご飯を食べるところに上って、裸ん坊になってエッチなことをするなんて、とても行儀が悪いことだ。
お兄さんは行儀に厳しい人。
長年の癖で、食事とは早い者勝ちで、ガツガツ犬食いだった僕は、何度注意されたことか。
それなのに、エッチの時はOKなんだ。
エッチの時は何でもOKにしちゃうお兄さんが、僕は大好きだ。
ブラインドを開け放った窓ガラスに、恥ずかしいことをしている僕らが映っている。
テーブルの端をつかみ、落ちないよう両脚を踏ん張った。
頭のてっぺんまで、超気持ちいい電流が突き抜けた。
・
野に放たれた『犬』たちは、自由をオーカしているのか?
僕ら『犬』たちは、野良にはなれない。
そのことをお兄さんはよく知っている。
お兄さんは考え過ぎる人だから悩んでいると思う。
普通の人がやったらギゼンだって、僕はお兄さんを責めていた。
僕ら二人ともが元『犬』同士でよかったと思うのが、こういう時だ。
あれは同情でしたことじゃない。
僕の為だったんだ。
ただそれだけ。
僕にはよ~く、分かっている。
(つづく)
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