(31)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

チャンミンに語りかける過程で見つけた答えだ。

 

「一緒に暮らしたかったからお前を買った」

 

チャンミンを残して先に店を出た。

 

俺を追ってくるチャンミンを期待していた。

 

ついに本心を見つけることができた。

 

 

足腰がガタガタなチャンミンの為に、マンションまでの帰り道もタクシー使った。

 

ドライバーの目を気にすることなく、チャンミンは俺の肩にもたれかかった。

 

チャンミンの膝の上で、互いの指と指とを絡めた。

 

反対側の手で、チャンミンは首元をいじっている。

 

首輪が必要なくなって数カ月が経過した。

 

青いチョーカーが、チャンミンのほっそりと長い首を飾っている。

 

今も消えずに残る痕...茶色い色素沈着の輪を覆い隠してくれる。

 

チャンミンは『犬』である証の首輪...主従関係の見せしめに...硬い牛革製の首輪を...をどれだけの期間、装着してきたのだろう?

 

チャンミンに一度訊ねてみたい質問だった。

 

チャンミンは指先でチョーカーのチャームを揺らしている。

 

そのチャームは単なる飾りではなく、俺に万が一のことがあった時のための備えになっている。

 

チャンミンが当面の間、暮らしに困らないだけの価値がある。

 

チャンミンの髪がふわふわと俺の頬をくすぐっている。

 

チャームの次に、チャンミンは繋いだ俺の手をいじりはじめた。

 

絡んだ指の1本1本を曲げたり伸ばしたり、こそこそと手の甲をくすぐったり...子供っぽい仕草に「ふっ」と笑みの吐息が漏れた。

 

「お兄さん」

 

「ん?」

 

上目遣いのチャンミンと見つめ合う。

 

「...なんでもないです」

 

「?」

 

「呼んでみただけです」

 

チャンミンは視線を伏せてしまい、俺の手をいじる動作に戻ってしまった。

 

チャンミンの耳はみるみるうちに赤くなってゆく。

 

その分かりやすい変化を目の当たりにして、彼を愛しく想う感情で溢れそうになった。

 

「舐めてもいいですか?」

 

「...えっ!?」

 

「...指、舐めても...いいですか?」

 

チャンミンに指をしゃぶられた夏のはじめ、河川敷の散歩の日を思い出した。

 

温かく柔らかな舌が、指の股をちろちろとくすぐった後、ねっとり指先へと這っていく。

 

まるでアレするように俺の指をうまそうに、しゃぶっていた。

 

2度も射精したばかりだというのに、当時の感触を思い出すだけで股間の緊張が高まっていく。

 

「舐めたいけど...タクシーの中だから、駄目ですよね」

 

まったく、この男は...俺を誘うのが上手い。

 

「まだ足りないの?」と、チャンミンの耳元に吐息多めで囁いた。

 

チャンミンの顎がぶるっと震えた。

 

「......」

 

ごくり、と喉仏が上下した。

 

分かりやすい反応だった。

 

快楽にどん欲なところ...それを隠そうとしないところがこの男の魅力のひとつだ。

 

「チャンミンの中...俺のが漏れそうなんだろ?

もっと欲しいのか?」

 

「......」

 

「いらないんだ?」

 

「...欲しいです」

 

「素直でよろしい」

 

チャンミンの額に唇を押し当てた。

 

ドライバーと一瞬、バックミラー越しに目が合い、にっこり笑って見せると彼は慌てて目を反らした。

 

絡めたチャンミンの指が白くなるまで握る力を込めると、それに応えて彼も握り返した。

 

 


 

~チャンミン~

 

ベッドの上でのエッチに飽きた僕らは、家じゅうのありとあらゆる場所で身体を重ね合った。

 

その中で凄かったのは、ダイニングテーブルの上に乗っかって、お尻を突き出してしゃがむんだ。

 

ものすごく恥ずかしい恰好だ。

 

ご飯を食べるところに上って、裸ん坊になってエッチなことをするなんて、とても行儀が悪いことだ。

 

お兄さんは行儀に厳しい人。

 

長年の癖で、食事とは早い者勝ちで、ガツガツ犬食いだった僕は、何度注意されたことか。

 

それなのに、エッチの時はOKなんだ。

 

エッチの時は何でもOKにしちゃうお兄さんが、僕は大好きだ。

 

ブラインドを開け放った窓ガラスに、恥ずかしいことをしている僕らが映っている。

 

テーブルの端をつかみ、落ちないよう両脚を踏ん張った。

 

頭のてっぺんまで、超気持ちいい電流が突き抜けた。

 

 

野に放たれた『犬』たちは、自由をオーカしているのか?

 

僕ら『犬』たちは、野良にはなれない。

 

そのことをお兄さんはよく知っている。

 

お兄さんは考え過ぎる人だから悩んでいると思う。

 

普通の人がやったらギゼンだって、僕はお兄さんを責めていた。

 

僕ら二人ともが元『犬』同士でよかったと思うのが、こういう時だ。

 

あれは同情でしたことじゃない。

 

僕の為だったんだ。

 

ただそれだけ。

 

僕にはよ~く、分かっている。

 

 

(つづく)

 

 

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