(100)NO?

 

~君が大好き~

~チャンミン~

 

僕の胸にほっぺをくっつけて、民ちゃんは僕にこう言った。

 

「チャンミンさん...好きです」

 

互いの気持ちを確かめ合うとは、今みたいなシーンを言うんだろうな。

 

僕がずっとずっと、夢見ていたことが叶ったんだ。

 

民ちゃんに「好き」と言われたりなんかしたらもう...天にも昇る思いをするだろうって。

 

うん、そうだった。

 

30余年の間で、嬉しかったことベスト3にランクインするほどの出来事だった。

 

初めて彼女が出来た時も確かに、飛び上がるほど嬉しかったが、当時のものは「彼女ができた」満足感の方が勝っている。

 

ある程度の恋愛を経験したからこそ比較できるんだけど、民ちゃんに関してはそんな浅い喜びじゃないんだ。

 

ああ、幸せだ。

 

僕は民ちゃんが大好きだし、民ちゃんも僕のことを好きだと言ってくれた。

 

やっぱり、ベスト1かな。

 

民ちゃんは階段の1段下に立っていて、僕の肩あたりに彼女の頭のてっぺんがきている。

 

僕らはその場でハグしたまま。

 

僕の心にじわじわと、民ちゃんからの「好き」が染み入っていく。

 

「チャンミンさん?」

 

「......」

 

「好きって、言ったんですよ?

聞こえてます?」

 

「うんっ...」

 

「チャンミンさんが好き、って。

私...告白したんですよ」

 

「うん...っく」

 

「チャンミンさん?

何か言ってくださいよ?」

 

「うぅっ...くっ...うっ...」

 

「ええ!?

チャンミンさん、泣いてます?」

 

「うん...うっ、うっ...」

 

幸せで幸せで、幸せ過ぎて、涙は次々と溢れてくる。

 

嬉し泣きなんて、生まれて初めてかもしれない。

 

「チャンミンさ~ん。

号泣じゃないですかぁ」

 

僕は民ちゃんの頭を、もっともっと強く肩に引き寄せ、抱きしめた。

 

形のよい小さな頭。

 

民ちゃんの髪を洗ってやった夜、あの時は彼女が遠かった。

 

気づかれないよう民ちゃんの耳たぶに口づけた。

 

あの時と今は大きく違う。

 

民ちゃんが僕の胸の中にいる、こんなに近い、僕のものになった。

 

誰かを所有するという考えは決して褒められたものじゃないけれど、民ちゃんが相手だと自分の一部になったかのような感覚なんだ。

 

きっと、僕と民ちゃんは双子以上にそっくりだからだ。

 

血のつながりのない他人同士なのに、瓜二つな女の子が、僕の目の前に現れること自体が奇跡で運命だ。

 

大袈裟だって?

 

分かってる。

 

でも、そう思わずにはいられない。

 

自分はここまで感動屋だなんて、初めて知ったよ。

 

「うんっ...んっ...うっ...」

 

「もぉ。

仕方がないですねぇ」

 

民ちゃんは階段を1段上り、僕と同じ目の高さになった。

 

「よしよし。

私より泣いちゃってどうするんですか?」

 

民ちゃんは僕の後頭部を撫ぜてくれるんだ。

 

ますます感動してしまって、涙が止まらない。

 

「チャンミンさんは嬉しいんですね?」

 

「...うんっ」

 

「私も嬉しいですよ」

 

「ううぅぅぅ...っ」

 

「泣きすぎですよ。

チャンミンさんは泣き虫だったんですね」

 

そういう民ちゃんだって、ぐずぐず声だ。

 

「好き」の言葉だけで、ここまで大泣きできるなんて。

 

ステップに二人分の脚、とても狭い。

 

民ちゃんの腰を支えていないと、彼女は階段を真っ逆さま。

 

「ここじゃ危ないですから、上がりましょうか?

お部屋に行きましょう、ね?」

 

ずずっと民ちゃんは鼻をすすった。

 

「...うん。

...っく...そうしようか」

 

僕もずずっと鼻をすすった。

 

「行きましょう」

 

民ちゃんは僕の手を握ると、先だって階段を上り出した。

 

そして後ろの僕を振り向き、にっこり笑った。

 

 

「お、お邪魔します...」

 

民ちゃんが1人暮らしする部屋。

 

恥ずかしさと緊張で、僕の手足はぎくしゃくしていた。

 

この部屋は一緒に探したんだよなぁ、と懐かしく思い出した。

 

あれは夏の頃だった。

 

「あったかいものを飲みましょうか。

お茶を淹れますから、その辺に座って待っててくださいね」

 

「ありがとう」

 

ついさっきまでのラブシーンのせいで全身ホカホカで、温かいものよりキンキンに冷えたものが欲しいくらいだったけど。

 

キッチンに立つ民ちゃんのお尻に...身体に張り付くほどぴったりとスリムなパンツ...視線が吸い寄せられる。

 

僕は「どこ」を見てるんだ?

 

民ちゃんと想いが通じ合ったとたんに、民ちゃんを見る目に変化が生じたのだ。

 

以前からそうだったけど、もっと強く、民ちゃんから「女」を感じるようになった。

 

シャツの襟から覗く首のつけねの骨だとか、耳後ろの襟足の髪がくるんとしているところとか。

 

まじまじと観察してしまう。

 

じわじわと幸福感が湧いてきた。

 

民ちゃんが...僕の「彼女」に!?

 

じーんと感動していたら、マグカップを両手に持った民ちゃんが、「ん?」といった表情になる。

 

そして、眉間をよせて言う。

 

「チャンミンさん...にやけちゃって、いやらしい人ですね」

 

「えっ!?」

 

「もうエッチをすることを計画しているんですか?」

 

「なっ!?

違う違う!」

 

「ふぅ~ん」

 

「民ちゃんから好きと言ってもらえて...。

ああ...幸せだなぁって思っていたんだ」

 

「幸せ...ですか」

 

「うん。

民ちゃんは?」

 

「私もハッピーです」

 

民ちゃんは僕の正面に膝を折って座った。

 

民ちゃんの部屋は未だ家具もほとんどなく、もともと持ち物が少ない子だったから、ガランとした印象だ。

 

カーテン代わりにラズベリー色の布を吊るしている。

 

例の天窓の下に、布団が敷いてあった。

 

僕の視線に気づいた民ちゃんは、僕の顔と布団を3度ほど交互に見た。

 

(しまった...。

勘違いさせてしまったかな...)

 

「で、チャンミンさん」

 

「何?」

 

「私たち。

いつ、エッチをしますか?」

 

「!!」

 

 

(つづく)

 

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