【57】君が抱かれる夢を見た-NO?-

 

~チャンミン~

 

首に絡められたしなやかな腕。

 

のけぞった白い喉に舌をはわせると、その腕の力が抜けて僕は抱きとめた。

 

僕の動きに合わせて、彼女の頭はマットレスすれすれのところを揺れる。

 

ウエストをすくい上げ、目前に接近した柔らかな先端を口に含む。

 

僕の手の下の肌が小さく痙攣する。

 

半分閉じたまぶたの下の色素の薄い瞳に、長いまつ毛が影を落としている。

 

大好きな人。

 

下半身の快感と胸のときめきが相まって、僕はもう幸せの絶頂だった。

 

僕の唇の下で、彼女の胸先が固く尖る。

 

唇を耳の下に移動させて、甘い香りを胸いっぱいに吸い込みながら彼女の太ももを押し広げる。

 

彼女の細い脚を割って組み敷くのは、浅黒くたくましい腰。

 

その広い背中は長い黒髪に覆われている。

 

 

ん?

 

ん?

 

ん?

 

 

喘ぎと共に漏れたか細い声。

 

民ちゃんの声。

 

民ちゃんの上になっているのは...僕じゃなかった。

 

ドアの隙間から、ベッドの上で絡み合う二人の肢体を覗き見ていた。

 

美しい2人だから、絵になる光景。

 

僕の気配に気づいて、上になった男...ユンが振り向いた。

 

口の片端だけゆがめて意味ありげに笑う。

 

そして、民ちゃんの太ももに唇を押し付けた。

 

 


 

 

 

「うわぁぁぁっ!」

 

僕はガバっと跳ね起きた。

 

殺風景な白いクロス壁、布団の足元には、積み上げられた段ボール。

 

夢!

 

な、なんだったんだ!

 

今の夢は、一体何なんだ!

 

民ちゃんが他の男とヤッている夢を見た。

 

相手の男が...あの男...ユンだった!

 

民ちゃんがヤッてる夢を見すぎだろ!?

 

先日は、僕と。

 

今日は...ユンと...。

 

マズい...マズいぞ...。

 

これ系の夢を見てしまっても、昨夜のことがあるから仕方ない。

 

民ちゃんとアレする夢を見てしまっても、仕方がない。

 

でもさ...どうして「ユン」が登場してくるんだよ。

 

民ちゃんが警察沙汰になった時も、不快な夢を見た。

 

家出(?)をした民ちゃんがユンと一緒に居た、という夢を。

 

僕の夢にどうしてユンが登場するんだよ。

 

これはもう...事件だ!

 

 


 

 

僕の胸にほっぺをくっつけて、民ちゃんは僕にこう言った。

 

「チャンミンさん...好きです」

 

互いの気持ちを確かめ合うとは、今みたいなシーンを言うんだろうな。

 

僕がずっとずっと、夢見ていたことが叶ったんだ。

 

民ちゃんに「好き」と言われたりなんかしたらもう...天にも昇る思いをするだろうって。

 

うん、そうだった。

 

30余年の間で、嬉しかったことベスト3にランクインするほどの出来事だった。

 

初めて彼女が出来た時も確かに、飛び上がるほど嬉しかったが、当時のものは「彼女ができたこと」満足感の方が勝っている。

 

ある程度の恋愛を経験したからこそ比較できるんだけど、民ちゃんに関してはそんな浅い喜びじゃないんだ。

 

ああ、幸せだ。

 

僕は民ちゃんが大好きだし、民ちゃんも僕のことを好きだと言ってくれた。

 

やっぱり、ベスト1かな。

 

民ちゃんは階段の1段下に立っていて、僕の肩あたりに彼女の頭のてっぺんがきている。

 

「...チャンミンさん...」

 

「ん?」

 

「いつまでもこうしていられません。

お部屋に入りましょう」

 

僕の肩から頭を起こして、民ちゃんはにっこりと笑った。

 

 

キッチンに立つ民ちゃんのお尻に...身体に張り付くほどぴったりとスリムなパンツ...視線が吸い寄せられる。

 

僕は「どこ」を見てるんだ?

 

民ちゃんと想いが通じ合ったとたんに、民ちゃんを見る目に変化が生じたのだ。

 

以前からそうだったけど、もっと強く、民ちゃんから「女」を感じるようになった。

 

シャツの襟から覗く首のつけねの骨だとか、耳後ろの襟足の髪がくるんとしているところとか。

 

まじまじと観察してしまう。

 

じわじわと幸福感が湧いてきた。

 

民ちゃんが...僕の「彼女」に!?

 

じーんと感動していたら、マグカップを両手に持った民ちゃんが、「ん?」といった表情になる。

 

そして、眉間をよせて言う。

 

「チャンミンさん...にやけちゃって、いやらしい人ですね」

 

「えっ!?」

 

「もうエッチをすることを計画しているんですか?」

 

「なっ!?

違う違う!」

 

「民ちゃんから好きと言ってもらえて...ああ...幸せだなぁって思っていたんだ」

 

「ホントですか?」

 

「うん。

民ちゃんは?」

 

「私も、ハッピーです」

 

民ちゃんは僕の正面に膝を折って座った。

 

民ちゃんの部屋は未だ家具もほとんどなく、もともと持ち物が少ない子だったから、ガランとした印象だ。

 

カーテン代わりにラズベリー色の布を吊るしている。

 

例の天窓の下に、布団が敷いてあった。

 

僕の視線に気づいた民ちゃんは、僕の顔と布団を3度ほど交互に見た。

 

(しまった...。

勘違いさせてしまったかな...)

 

「で、チャンミンさん」

 

「何?」

 

「いつ、エッチをしますか?」

 

「ぶはっ!!」

 

マグカップを揺らしてしまい、火傷しそうに熱い珈琲を太ももにこぼしてしまった。

 

「あぢぃっ!」

 

なななななにを突然言い出すんだ、この子は。

 

そうだった!

 

民ちゃんは「こういう子」だったんだ!

 

「チャンミンさん!!

ズボンを脱いで下さい!」

 

と、悲鳴をあげると、民ちゃんは僕のデニムパンツを脱がせようとするから、慌てた僕は彼女の手首をつかむ。

 

「わー!

駄目だって、民ちゃん!」

 

「火傷がひどくなります!」

 

パンツ一丁姿は恥ずかしいし、でも太ももは焼け付くように痛いし、結局民ちゃんの馬鹿力によって脱がされてしまった。

 

「真っ赤ですね。

...痛そうです」

 

水で濡らしたタオルと、よく冷えたジュースの缶で患部を冷やしてくれる。

 

「ちょっとはマシになったよ...」

 

「......」

 

「民ちゃん?」

 

僕の太ももを冷やす民ちゃんの手が、止まっている。

 

「?」

 

民ちゃんの視点が、ある一点に固定されていることに気付いて、僕は民ちゃんからタオルを奪い取った。

 

「民ちゃん!」

 

そうだった、民ちゃんはこういう子だった!

 

民ちゃんは腕を組んで、何やら考え込んでいる。

 

「...民ちゃん?」

 

「以前、『彼氏彼女ごっこ』をしましたよね」

 

「う、うん、したね」

 

あの時のこっぱずかしい茶番劇を思い出した。

 

記憶喪失になってしまったと勘違いした僕は、何をとち狂ったのか「民ちゃんの彼氏」と嘘をつき、それを信じ切ったふりをした民ちゃんと、「恋人ごっこ」をしたのだ。

 

「チャンミンさんの設定では、付き合って2週間以内に真っ昼間にエッチしたんでしたよね」

 

「...うん、そんなこと言ったような言ってないような...」

 

あの時の自分の発言は、一字一句はっきりと覚えている。

 

密かに隠していた僕らの本心が、分かりにくい方法で露になった時のこと。

 

「場所はチャンミンさんのお部屋。

それからそれから、私から迫った設定でしたよね?

...これって、チャンミンさんの願望ですか?」

 

さすが民ちゃん...全部覚えてる。

 

「え...えっと...それは...」

 

民ちゃんの突っ込んだ質問に、僕は頭フル回転で思いついたことを、苦し紛れに回答したのだ。

 

ひそかに思い望んでいたことが、ぽろりと出てしまった。

 

「...そうだったの、かな...?」

 

民ちゃんは難しい顔をして、腕を組んだままだ。

 

眉をひそめて唇を尖らせて、何やら考え込んでいる。

 

突拍子もない言葉が飛び出すんじゃないかと、ワクワクしていた僕だけど、目の前の民ちゃんが可愛すぎた。

 

脚を2つに折って座った民ちゃんの膝小僧は小さく、最後に会った時より伸びた髪が片目を隠している。

 

僕の手がオートマティックに動いて、民ちゃんの前髪に触れ、そうっと耳にかけていた。

 

とっさの僕の行動に驚いた民ちゃんの瞳が、上瞼がふるりと震えて、僕の下腹がきゅっと緊張した。

 

民ちゃんの耳たぶに触れていた僕の手は、その欲求に突き動かされて、彼女の髪の中に滑り込む。

 

丸い目がますます大きく丸くなって、民ちゃんの口が「まあ」といった風に開く。

 

金縛りにあったみたいに、かちかちに固まってしまった民ちゃんが可愛らしくて、その次の行動もオートマティックだった。

 

斜めに傾けた顔を、民ちゃんに寄せて、

 

「もう一度だけ...」

 

と囁いて、開いたままの民ちゃんの唇を自分のもので覆いかぶせた。

 

びくんと震えた民ちゃんが逃げないように、彼女のうなじにかけた手に力を込めた。

 

どう頑張って見ても男の子みたいな見た目と、加えて僕と瓜二つの顔。

 

そんなことに僕は騙されない。

 

民ちゃんの気持ちを知って、ますます女っぽく色っぽく僕の目に映っている。

 

どうしようかな、と一瞬迷い、恐る恐る舌先を出しかけて、やっぱり引っ込めた。

 

『私はピヨピヨのヒヨコなんですよ』と言っていた民ちゃん。

 

驚かせたら可哀想だ。

 

「っ、チャンミンさんっ...!」

 

「!」

 

胸をぐいと押されたことで、引きはがされるように僕らの顔同士が離れる。

 

「駄目です...チャンミンさん

付き合ったその日にもうエッチしちゃうのは、私の理想じゃないです」

 

「いや...そういうつもりじゃ...!」

 

「いーえ!

チャンミンさんはその気満々でした!」

 

「ほんとに違うって!」

 

「チャンミンさんったら...パンツ一丁になってるじゃないですか。

臨戦態勢じゃないですか。

暴れてるじゃないですか」

 

「ええぇぇぇ!?」

 

民ちゃんの目線がついと下がったから、タオルで隠した中を確認してしまうじゃないか。

 

「嘘です」

 

「もぉ~、民ちゃん」

 

いつものごとく民ちゃんにからかわれてばかりだけど、僕はつくづく思う。

 

民ちゃんと一緒にいると、とても楽しい、って。

 

 

 

 

そして、その夜。

 

僕は冒頭の、奇妙な夢を見たのだ。

 

なぜだ?

 

 

僕の名前で君を呼ぶ

彼女とのHeaven's Day

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